音楽家にとって楽譜とはどんな存在か(坂本龍一・追悼)
2023/04/07
坂本龍一さん追悼の記事が続きますが、
今日は楽譜の話を。
坂本さんが生前に作られた楽曲の数は膨大で、
たくさんの楽譜が出版されています。
また、ご自身が鍵盤楽器の演奏者でもあったので、
ピアノの譜面もたくさん出版されているんですが、
坂本さん自身の監修による楽譜は
実はものすごく少ないということは
あまり知られていません。
デビューされてから30年近く経っている
2005年の時点で
何とたった5冊しかありませんでした。
4/4に投稿した追悼記事でも紹介した
all about BTTB(左)と1919ライブコンサートの
ビデオソフトに付録として付けられた
ピアノトリオスコア(右・非売品)
そして、冒頭の画像に挙げた/04と/05の譜面です。
これらの譜面以後に出されたものと、
各々の音源などすべて網羅して紹介されている
まとめサイトがありましたので、
アクセスしてみて下さい。
2005年にリットーミュージックより出された、
/05楽譜集のまえがきに、
坂本にとって楽譜というものが
どのような存在であったか、
彼のこだわりが端的に記されているので、
今日はそれをご紹介しようとおもいます。
(引用ここから)
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ぼくはこれまでに、「オフィシャル」 と言われる楽譜集を3冊作ってきました。 1983年出版の 「Avec Piano / アヴェクピアノ 戦場のメリークリスマス」、1999年の「All about BTTB」、そして半年ほど前に出来上がったばかりの「坂本龍一/04」です。
これに続く本書「坂本龍一/05」は4冊目のオフィシャル・スコアブックであり、アルバム共々「/04」の続編に当た るもの。細部に至るまで作家であるぼくの意志が反映されていて、非常に満足いくものに仕上がったと自負しています。
そもそも楽譜というものは、ぼくたち音楽家にとって特別なものです。何というか、例えば好きな作家の好きな作品の初版本のように大事なものなのです。
ぼくの好きな楽譜集は、欧米で古くから作られているクラシックの原典楽譜の中に幾つかあります。その匂い、紙質、音符の大きさ、印刷のクオリティなど、すべてが愛おしいものです。だから、自分の楽譜を作るときは常に未来の演奏者が同じように感じ、同じようにその譜面を大事にしてくれることを望んで丁寧に作りたいのです。
自らの手で「オフィシャル 」の楽譜を作っておきたい理由は、ほかにも幾つかあります。現状では、出版社は楽曲使用の権利を得て使用料を支払いさえすれば楽譜集を作ることができるため、「音楽家の意図が反映されない楽譜が出版されてしまう」という状況にもなってしまいます。ものによっては、調性や拍子が違うなんていうのも目にしたことがあります。
しかしながら音楽家として、自分の意と異なる譜面が世に出回るのはうれしいものではありません。 譜面というものは音楽的思考を表すもので、一つの音符、一つの休符が異なっていても音楽の意味が違ってきてしまいます。そうした譜面ヅラもさることながら、楽譜集の「顔」 である装丁に関しても不満なことが多いのです。音楽家としては、CDの「顔」であるアート・ワークと同じようにこだわりたい部分なのですが。
こうした問題をすべてクリアしたのが、「/04」と「/05」という2冊のオフィシャルの楽譜集です。譜面そのものだけでなく、装丁や紙質から何から何まで、持っていてうれしいものが作れたと、ぼくは非常に満足しています(父が文学本の編集をしていましたので、そういうこだわりを受け継いでいるのかもしれません。また、そういう作業に 関わる方たちが、細部にわたるまでどのくらいの熱意と誇りを傾けて仕事しているか、 父の仕事を通して知っているつもりです)。
そもそも「/04」「/05」は、このようなぼくの代表曲を網羅したオフィシャルの楽譜集を作ろうという趣旨で始まった企画でしたが、これで一応終了したことになります。もう「/06」はありません(笑)。
ただ、楽譜集のデザインは将来的にこのシリーズが増えていくことを想定しています。
2005年9月某日 坂本龍一
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(引用ここまで)
/05の楽譜は現在では入手困難ですが、
音源はYouTubeにありますので、
聴いてみてください。
Ryuichi Sakamoto /05 (2005) [FULL ALBUM]
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