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池谷裕二『最新脳科学が教える 高校生の勉強法』

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池谷裕二『最新脳科学が教える 高校生の勉強法』

池谷裕二『最新脳科学が教える 高校生の勉強法』

2023/10/21

昨日投稿した記事の続きで、

脳科学者・池谷裕二さんの著書を紹介して

今日が3日目になります。

 

一昨日の記事では上大岡トメさんとの共著

『のうだま やる気の秘密』を、

また、昨日の記事は糸井重里さんとの対話を収めた

『海馬 脳は疲れない』を紹介しました。

 

『のうだま やる気の秘密』では、

〝やる気〟というのは行動した結果として

生まれるものだから、

やる気の有無は、行動するしないを

左右する原因ではないという、

このblogではしばしば登場している

原因と結果の取り違え話を。

 

また、『海馬 脳は疲れない』では、なぜ
毎日コツコツ少しずつ繰り返す学習が大切なのか、
また、そのようなスタイルの学習が

結果的に学力の飛躍的変化を生むのか、

学習の転移にはべき乗の効果があることに
触れています。

 

そもそも今回、わたしが池谷さんの本を

読みなおすきっかけになったのは、

寺子屋塾生のひとりMさん(高校1年生)から、

勉強方法について相談を受けたことでした。

 

Mさんからは、1年ちょっと前に

「高校課程になってから英語が格段に難しくなり、

 単語が覚えきれないんですが、

 何かいい工夫はありませんか?」と相談を受け、

語源に遡って覚えるやり方について
話したことがあったんですが、

その話題については、次の記事に書いたので、

英語に関心のある方はご覧ください。

英語の単語を効率よく覚えるコツは?

 

 

さてそれで、本日投稿する記事のメインとして

ご紹介する池谷さんの3冊目は、

写真の左側、2002年に出版された

『最新脳科学が教える 高校生の勉強法』です。

 

この単行本は、現在では『受験脳のつくりかた』

タイトルを変えて2011年に新潮文庫に入り、

また、『最新脳科学が教える 16歳の勉強法』

タイトルを変えて2022年に新書にもなっています。

 

原著の単行本が20年以上前の本なので、

文庫や新書は以後に発見された新たな知見を加え

改訂がなされているようですが、

大きな骨子については変わっていません。

ちなみに、冒頭の写真の右側は、

時期的に本書が出版されたほぼ同じ頃、

池谷さんが中高生に講義をした記録が本になった

『進化しすぎた脳』(ブルーバックス版)で、
講義した2年半後に池谷さんが

研究室メンバーと行ったやりとりを収めた

第5章が追加されています。

 

『最新脳科学が教える 高校生の勉強法』に

書いてある内容の中で

わたしが一番衝撃を受けた話は、

脳科学研究者である池谷さん自身が、
小学生時代、九九も覚えられないくらい、

また、100点満点の漢字テストで

2点しか取れなかったくらいの、

ほとんど記憶力の弱い人だったという話です。

 

100点満点で2点ですよ〜

 

でも、そんな池谷さんが、

中学以後は自分に合った勉強法を身につけ

大学受験は、進学塾などに通わず独学で

東大理Ⅰに首席で合格!

大学院入試でも首席だったという話は、

にわかに信じられないかもしれませんが、

その秘密は記憶のメカニズムにあるんですね。

 

本書の全体の骨子は、記事の末尾に

本書の前書きを引用して紹介するので、

詳しくはそちらを読んで頂きたいのですが

人間は高校生くらいのときが

脳の性質の転換期にあたるので、

高校生になったら、中学以前に行っていた

勉強法とは違うやり方をする必要がある

そして、それを理解するポイントが

〝記憶のしくみ〟にあるんだ、と。

でも、人間の記憶のしくみは、

一枚岩の存在ではありません。

 

たとえば、長期記憶と短期記憶など、

時間軸で区別したり、
潜在記憶と顕在記憶というふうに、

自分で意識出来るかどうかで区別したりなど

いろんな分け方があるようなんですが、

次に示す図は、本書に登場する

認知科学に基づいた3つの記憶分類です。


「経験記憶」は、自分の実体験に基づく

実感を伴った記憶のことで、

言うなればすぐ思い出せる記憶のことです。

 

「知識記憶」は、たとえば学校の教室で

先生の説明を聞くなど座学で覚えた記憶ですから、

言うなればすぐ思い出せない記憶のことです。

 

「方法記憶」は、自転車の乗り方や食事の仕方など、

一度習得すれば簡単に消えたり逆戻りしたりしない

身体で覚える記憶のことです。

 

池谷さんの場合、知識記憶、つまり

九九を丸暗記することができないので、

掛け算の原理にたちもどって、

一つ一つその場で計算しているんですが、

 

①数を10倍する(あとに0をつける)

②2倍する(同じ数字を足す)
③半分にする

 

という3つのパターンを組み合わせれば、

九九を憶えていなくても

つまり、かけ算ができなくても、

たし算とひき算さえできれば、

すべて答を導き出せるわけです。

 

たとえば、

6×8=6×(10−2)

    =6×10−6×2

    =60ー12  

    =48

という感じなんですが、

2列目の式の×10は

6のあとに0をくっつけるだけですし、

6×2は、6+6でかけ算を使わずにでき、

3列目の式はひき算だけになっていますね〜

 

ほとんどの人は、ろくはしじゅうはち

九九を知っているので

「いやいや、こんな面倒な計算をしなくても」

っておもってしまうんですが、

このやり方に慣れると、

脳に記憶された九九をおもいだすスピードより

早いスピードでできるように

なってしまうんですね〜

 

なぜそんなことが可能なのかというと、

このやり方は知識記憶ではなく、

経験記憶、方法記憶として蓄積されているので、

昨日の記事でも引用した

「べき乗の効果」があるからなのです。

それと、気がつかれた方がいらっしゃるでしょうが、

①数を10倍する(あとに0をつける)

②2倍する(同じ数字を足す)
③半分にする

という3つの方法を応用してつくられたのが、

1のたま、5のたま、10のたま

の組み合わせでできている

いわゆる「ソロバン」なんですね〜

 

 

さいごに、本書のはじめに書かれている

「高校の授業についていけなくなる理由」と

題された文章をご紹介しておきましょう。

 

(引用ここから)

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はじめに

 

中学生のころまでは、試験の前に一夜漬けでテストに臨む、という無謀な作戦で何とかなっても、高校生になったころから、それまでのような丸暗記作戦では通用しなくなって、だんだん授業について行けなくなったという人が急に増えてきます。
皆さんは、その原因を高校の履修科目の内容が中学よりも難しくなることや分量が多くなることに押しつけて、仕方がないとあきらめていると思います。また、文部科学省もこの現状に気づき、必修単元をどんどん削減してその解決を図ろうとしています。

しかし最新の脳科学によれば、そのどちらも間違っていることが分かりました。 間の脳力は、年齢とともに低下するようにはできていません。そうではなくて、皆さんの年齢の頃がちょうど脳の性質の転換期に相当していて、記憶のパターンや種類が変化するのです。
したがって、高校生になったら、高校生に合った勉強の仕方に変える必要があります。

 

この事実に気づかずに、いつまでも中学生までと同じような勉強法にこだわり続けていると、自分の記憶力に限界を感じるようになります。そういう人に限って、「もう中学生の頃のようには覚えられない」と記憶力の低下を嘆き、まわりの人もみんな、「わたしもそう。仕方がないよ」と慰めあって終わってしまうのです。
現代脳科学の成果によれば、小・中学生までの脳は丸暗記が得意で、意味のない文字や数字の羅列でもキュウカンチョウのように覚えてしまいます。ところが、高校生になったあたりからは、丸暗記よりも論理だった記憶能力が発達してきます。つまり、 ものごとをしっかり理解して、その理屈を覚えるという能力です。
ですから、高校生の皆さんは、自分の勉強方法をこれに沿った方針に変えていかなければなりません。もし、この努力を怠ると、もはや効率的な学習はできません。 授業についていけなくなって、最悪のケースでは落ちこぼれてしまう可能性もあります。


この本の目的は、高校生の頭脳に適した学習方法を伝授することにあります。勉強方法を変えなければいけないと言われたところで、おそらく皆さんは、大海原に投げ出された小舟同然、路頭に迷ってしまうことでしょう。大洋で目的の島を見つけだすのは大変なことです。この本では、皆さんがいち早く正しい勉強方法を身につけられるよう、そしてまた、貴重な時間をムダにしなくてもすむよう、脳科学の観点から皆さんの年齢に合った勉強法を具体的に伝授します。


ところで、皆さんは、記憶が脳でどのようにして作られ、どこにたくわえられるのかを知っていますか。脳の仕組みを知らずして勉強することは、ルールを知らずして野球の練習に励むようなものです。スポーツは、ルールを理解すればそれだけ効率よく練習できて上達します。
同じように、効率的な勉強方法を見い出すためには、まずは脳のルールをしっかり と理解することです。そして、脳の仕組みに逆らわず、むしろそれをうまく利用して 能率的に勉強することが肝心なのです。
本書では、これまで漠然と流布していた「言い伝え」や「迷信」について、最先端の脳科学の裏づけをもってその真偽を厳然と判定していきます。そのためにまず、一般的な記憶の正体を明らかにし、記憶のメカニズムを説明します。そのあとで、高校生の皆さんにとって、中学生までとはまったく異なる「記憶力を鍛える方法」についてアドバイスをしたいと思います。

 

現在の教育改革の指針では「使える知識を身につける」とか「生きる力を養う」などというスローガンが掲げられていますが、言い換えれば、教育の目的および学習の目標は、ものごとの中に共通な法則性を見つけ出して、生活上出くわす新しい場面でそれを上手に応用する能力を身につけることなのです。
それは教室での学習に限りません。上手な勉強の仕方を知っていることは、日常のあらゆる場面で対応の仕方が上達するということなのです。この本では、あえて高校生の勉強法に焦点をしぼりましたが、高校生の脳の構造はもう大人の脳と同じです。 つまり、皆さんは、いまや脳の仕組みの面からも、大人の仲間入りを果たしているのです。子供の勉強法が通用しないのはあたり前です。
逆に言えば、この本を通じてこれから皆さんが学ぶノウハウは、高校を卒業したあとも、ずっと使いつづけることができます。皆さんの当面の目標は志望校への合格でしょうが、その後の皆さんの可能性はまさに前途洋々です。その可能性を最大限に発揮して自己実現を図るために、皆さんの長い生涯においてこの本が少しでも役に立てば、私としては望外の幸せです。(2002年3月 池谷裕二)

 

 

この続きはまた明日!

 

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