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「〝教えない〟性教育」考(その9)

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「〝教えない〟性教育」考(その9)

「〝教えない〟性教育」考(その9)

2023/11/14

11/6より教えない性教育をテーマに記事を書き始め、

これで9回目となりました。

 

(その1)から(その4)までは、

積極的に教えようとはせず、

かといって、知らんぷりをするのでもなく、

学習者から問われたときに、

適切な情報や知見を提供できるよう

日頃から準備と研究を怠らない姿勢を保持する

という〝教えない性教育〟という概念の

基本的枠組みを提示しました。

 

そして、(その5)からは、

〝教えない性教育〟を実践しようとする際に

わたしが推薦するに値すると考える

参考図書など、情報素材の紹介を

中心に置いています。

 

(その5)から(その7)までは橋本治さんが

1993年に書かれた『ぼくらのSEX』まえがきを

また、そもそもこうして

「教えない性教育」というテーマで

記事を書き始めたきっかけは、

10/14から公開された映画『春画先生』を

紹介しようとしたことにあったので、

(その8)では、橋本治さんが

春画について話しているインタビュー記事や

日本人の性意識をテーマに書かれた本を

紹介しました。

 

それで、本日分の記事だけ単独で読まれても

内容については理解できるとおもいますが、

昨日まで投稿してきた記事には、

なぜ〝教えない〟性教育なのか、

どういう文脈で、こうしたテキストを推薦するか

モトになる考え方や背景などを記しているので、

これまでの投稿に未読記事がある方は

適宜参照された上で

本日分の記事を読んで下さると有難いです。

「〝教えない〟性教育」考(その1)

「〝教えない〟性教育」考(その2)

「〝教えない〟性教育」考(その3)

「〝教えない〟性教育」考(その4)

「〝教えない〟性教育」考(その5)

「〝教えない〟性教育」考(その6)

「〝教えない〟性教育」考(その7)

「〝教えない〟性教育」考(その8)

 

 

〝教えない性教育〟実践のための 参考図書として、

橋本治さんの『ぼくらのSEX』に続く2冊目は、

齋藤環さんの『生き延びるためのラカン』です。

 

2006年にバジリコより出版された本書は、

「『心の闇』を詮索するヒマがあったら

 ラカンを読め!

 そうすれば世界の見方が変わってくる」という

帯に書かれた推薦文に違わず、

難解とされるジャック・ラカンの精神分析について

非常にわかりやすく解説したもので、

〝教えない性教育〟を実践したい人が読んでも、

また、性について学びたい人が読んでも、

学ぶことが多いテキストと言ってよいでしょう。

 

以下、引用する部分は、

「転移・投影・同一化」という見出しが付された

本書の最終章(lecture19)にあたり、

単行本のレイアウトで21ページあるこの章の

最後の5ページからです。

 

(引用ここから)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・・・ちょっと脱線するけどいいかな? 僕は基本的に、人間が人間を教育することなんてできないと考えている。人が人を変えるようにみえるのは、変わりたい人間と変えたい人間がたまたま運良く出会った時くらいのものだ。


あの地動説のガリレオがこんなことを言っている。「他人になにかを教えることなどできない。できるのは、自力で発見することを助けることのみだ」とね。これなんか、すごくよくわかるな。このガリレオの言葉は、教育はおろか、転移というものの本質にすら射程が届いている。「発見を助ける」ってことは、発見したいという欲望、つまり「知への欲望」を、転移を通じて伝えることにほかならないからだ。


思うに、これってあらゆる「教育」の基本なんじゃないだろうか。のぞましい教育っていうのは、ただ知識や情報を子どもに詰め込むことじゃない。すぐれた教育者は、ほどよい転移関係の中で、相手に「学ぶ姿勢」(これもまた「知への欲望」のひとつだ)を伝染させることができる人のことだ。


よく、「算数や社会が将来なんの役に立つの?」という疑問を口にしたがる人がいる。その気持ちはわかるけど、でも肝心なのは、知識そのものじゃないんだ。人間の心っていうのは、自然体のままでは、しばしばかたくななものになりがちだ。学校の勉強というのは、子どもたちの堅い蕾のような心に、いろんな形の好奇心(=「知への欲望」)をインストールして、柔軟なものにするところに意味がある。だから、本当は学校で習ったことなんて、内容は全部忘れたっていいんだ。


これは子育てだって同じこと。しつけ、つまり命令や指示だけで子どもが言うことを聴いてくれるのは、せいぜい小学校低学年くらいまでだろう。思春期を過ぎた子どもには、もうそんな方法は通用しない。子どもに倫理観や社会の常識をしっかりと持ってもらいたければ、まず、親が倫理的・常識的に振る舞ってみせなければいけない。つまりそういう方法で、倫理や常識への欲望を、子どもに伝えていくしかないんだね。


・・・(中略)・・・

 

いま精神分析を語ることに意味があるとすれば、それは第一に「こころと情報は対立する」ということを、はっきりと主張するためだ。こころは情報化できないし、メディア論では語れない。そして僕らはこころをもち、言葉を語り、転移によって関係を持つことができる存在なのだ。


言葉といい転移といい、人間のこころってやつはどういうわけか、「情報」を伝えあうためには、ひどく効率の悪いシステムになっている。感情や知識が、光ファイバーみたいな回路でさくさく伝えられたら超便利なのにね。でも、その便利さにはどんな意味があるだろう。


ぼくは、こういう不便さにこそ、ちゃんとした意味があると思う。おそらく、ただ生きるだけ、つまり食べて生殖して死ぬだけなら、「こころ」も「言葉」もいらないはずだ。でも、幸か不幸か、なんの因果か、僕らは「こころ」を持ち、言葉を語る存在だ。


これはおそらく、僕らの高くなりすぎた知能にタガをはめるために必要とされたんだと思う。人間の知能は、欲望や目的で制約を設けなければ、完全に世界を覆い尽くしてしまいかねないほどに高まりすぎた。他の生物との共存をはかるためにも、人間は知性を犠牲にせずに、ある種の愚かさを手に入れる必要があったのだ。それが「こころ」という、いっけんとっても不便な贈り物だったのじゃないだろうか。


「こころ」の不便さには、ほかにもいくつかの良い点がある。もし非階層的で不合理な動きをもつ「こころ」がなかったら、僕らの脳と脳は互いに理解しすぎてしまうだろう。それはきっと、脳と脳とが融合してしまうくらい、深い理解となるだろう。個人の脳はサブシステムとして、より大きな集合的知性の一部となって、「人類の発展」をたすけるだろう。


でも、考えてみてほしい。いったい誰が、そんな世界を望むのか?僕たちは「人類」などとまとめて呼ばれる前に、自分自身の、世界でたった一つの名前で呼ばれることを、まず望むんじゃなかったのか?もしそうであるなら、「こころ」は役にたっているよ。なぜって、こころがあるせいで、僕たちの脳がくっつきあって、すっかり融合してしまわずに済んでいるんだから。


たしかに僕らはこころのせいで、愚かしい欲望を抱き、不合理な衝動に身をゆだね、ばかげた関係性に身を投じる。きっと性愛がなかったら、僕たちは天井知らずに賢くなれたことだろう。でも、その賢さにはどんな意味があるのか?何の意味もない。僕らはしばしば怜悧な知性よりも性愛の快楽を選んでしまう程度には愚かしい。しかし、その愚かしさゆえにこそ、僕らは転移しあい、関係しあい、つまり、愛し合うことができるのかもしれない。


そういう僕たち一人ひとりの「愚かしさ」を理解するためにも、精神分析という偉大な発明は、かたちを変えて生き延びるはずだ。そう、変われば変わるほどに変わらない、この愛すべき「人間」とともにね。

 

※斎藤環『生き延びるためのラカン』(バジリコ・2006年初版)Lecture19 転移・投影・同一化より

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(引用ここまで)

 

(中略)より前の部分には、

斎藤さんの教育についての基本的な考え方が

述べられていましたね。文中の

 

・人間が人間を教育することなんてできない

・すぐれた教育者とは、ほどよい転移関係の中で、

 相手に学ぶ姿勢を伝染させることができる人

・子どもに倫理観や社会の常識を伝えたければ、

 まず、親自身が倫理的・常識的に振る舞うこと

 

という言葉は、

わたしが教えない教育を実践する上での

基本スタンスとほぼ同じです。

 

引用されているガリレイの言葉は

このblogでも今日の名言シリーズで

取りあげたことがありました。

ガリレオ・ガリレイ『人々に何も教えることができない』(今日の名言・その31)

 

そして、(中略)より後の部分に書かれた、

「こころと脳との関係」について触れた記述は

非常に見事だとおもいます。

 

人間のこころの捉え方にはさまざまありますが、

こころを単独で見るのでなく、

脳や身体など、

他との関係性から見ようとする姿勢は

とても大切だとわたしも考えているので。

 

つまり、車の運転になぞらえていうと、

脳はアクセルの役割とするなら、

心は脳が暴走しないように監視し調整する

ブレーキの役割を担っているわけですね。

 

この続きはまた明日!

 

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