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甲野善紀 x 方条遼雨『身体は考える 創造性を育む松聲館スタイル』⑧(最終回)

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甲野善紀 x 方条遼雨『身体は考える 創造性を育む松聲館スタイル』⑧(最終回)

甲野善紀 x 方条遼雨『身体は考える 創造性を育む松聲館スタイル』⑧(最終回)

2023/07/30

昨日投稿した記事の続きです。

 

7/23からこのblogでは、

7/20に出版された新刊書 甲野善紀 x 方条遼雨

『身体は考える 創造性を育む松聲館スタイル』

紹介していて、これで8回目になるんですが、

明日は月の末日を迎えることもあり、

今日で区切りをつけるつもりです。

 

本書の第二部は、

甲野善紀さんと方条遼雨さんの

「身体的運命論」と題された対談になっています。

 

印象深いエピソードばかりで、

紹介したい箇所が山ほどあるんですが、

前著『上達論 基本を基本から検討する』

出版されたのが2020年1月、

コロナ禍が始まる前だったこともあって、

今回のパンデミックに言及した箇所はなく、

以下本書の「何か」「運命のポテンシャル」

「役割」という中見出しのついた箇所から

新型コロナウィルスについて言及されている

265〜266ページと290〜292ページ、

295〜296ページから引用してみました。

 

(引用ここから)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

甲野 ・・・他の武道や格闘技の技術を持っている者は、みんな、さっきから言ってるように、それぞれ自分で自分の基本を持っていますよね。武術の稽古研究をやっていくうちに、各自が自分の中で基本がある程度出来てきて、それを絶えず確認しながら稽古しているうちに、そのオリジナルな基本が段々とハッキリしてくる。
そういう面では、単に観念的な信心、何かを信じているというよりも、この体感を通して何かで信じるものがいつの間にか出来ている方が、人が人として生きていくうえで、よほど信頼出来ると思いますよね。
方条 決定的に違いますよね。
甲野 まあ、こういう視点で教育を考えると、今でもよく言われている有名校の権威なんて何の意味もないし、実質的に生きた学問を学べる私塾で学んだ方がよっぽどいいですよね。明治以前と同じで、これからは私塾の時代ですよって、最近私はよく言っています。

方条 先生は昔から、私塾の方がいいって言われてましたよね。

甲野 だって今の大学って、こんなに進学率が高い中で、見栄というか、ただ単にその人の就職用の.....
方条 ラベルになっていますよね。

甲野 その事は、今回の COVID-19 の感染症対策のおかしさに対して、有名な大学を出た知識人達がほとんど何も言えなかったことで一層ハッキリしましたよ。
これからは自分自身の考えをしっかり持たないといけないなって本当に思います。そのためには単に資格取得のための有名校より私塾がお勧めです。

 

(中略)

 

方条 ・・・それで、私は夢も特にないし、神社にも祈らないんですけれど、善し悪しや、目標とか決めていないでやっていると、起こった事に対し「冷蔵庫にあるもので調理する」、みたいにやっていたんだ、ってある時気づいたんです。そもそも善し悪しなんて無いんです、起こった事に。「起こった事に対処する」っていうのは、その中でどんな要素だとしても、有効利用せざるを得ない。

 

一般的に言ったら「悪い」とされる事にも、自然と反転装置を使っていたんじゃないかって、だんだん自分でも分かってきて。

そうするとそもそも、構造的に「悪いこと」ってあんまりないんです。
「長所即欠点」と同じように「欠点即長所」ですから。
どんな状況でも見方によっては良い側面が必ず存在するはずなんです。

 

だから新型コロナウイルスで世界的にパニックが起きた時に、すごく分かれるなって思ったのは、コロナ禍ですごくマイナスになった人と、むしろプラスになった人がいるなって、周りを見ていて思いました。

 

極端に言えば、コロナ禍でいい事があった人がすごく多いんです、周りに。
でも考えてみるとウイルスって「現象」に過ぎないから、「良い」も「悪い」も本当はないんですよね。
それは人間が善でも悪でもなく、いろんな要素が中にあるように、いろんな要素の集合体ですから、現象って。
病気が悪いとか、死ぬのが悪いとか決めちゃっていると、その状態の中にある「いい要素」が見えないんです。
価値観に照らし合わせて、「悪いところ」を作っちゃいますからね。

だから、何かが本当に上手な人ってさっき言ったように 「素材を生かせる人」で、料理上手は、突然の来客にも慌てて買い出しに行かず、冷蔵庫の中の材料で美味しいものを作れる人だったりする。
先生から連なる我々がやっている事っていうのは、筋トレとかで付け足しをしないで、「この身体の素材を生かす」って事なんですよね、ずっと。

 

だから先生と私が共通しているのは、すごい物を捨てられないタイプなんです。
それは身体感とも共通していて、たぶん先生は分かると思うんですけど、自分の目の前に現れたものの「ポテンシャル」を引き出し切らないと、申し訳ない気分になっちゃうんですよ。
「まだ使えるのに」って。
私は思考を組み替えて、捨てられるようにもしたんですけれど、でも根底にはそれがずっとあるんです。

 

だから身体も、「使い切りたい」って思うんですよね、おそらく。
「運命」にもそういうのがあって、訪れた「運命のポテンシャル」を「善し悪し」で選別なんかしたらもったいないと、どこか思っている。
だから、先生は怪我した時とか風邪をひいた時に、「チャンス」だと思われて何かを発見したりする。
そういう視点があると「不運」なんてないですから、そりゃいいこと起こるわなっていう話です。

 

(中略)

 

甲野 それと、この3年間 COVID-19、いわゆる新型コロナウイルスの感染症対策はおかしいと、盛んに言い続けていましたが、同時に「あぁ、この感染症対策によって現在の人々が、どの程度『人が生きるという事を本気で考えているかどうか』が白日の下にさらされたんだな」って、この一連の出来事を受け入れる気持ちもありました。

 

私の今までの人生を振り返ってみても、21歳の時「人間の運命は完全に決まってる」っていうのと、「自由だ」という事が同時にある、という事に気付いてこの時以降は、それを実感しようという事を人生のテーマにしてきたわけですから。

このことを言葉を換えて言えば「わが身に起こることはすべて必然」って納得出来るかどうかを問われているようなものですから。

だから、この感染症対策で「なぜあんなおかしなことを言っているのだろう?」と私が思う発言や行動をしている人達に対しても、ある面では本気で「しょうもないな」と腹も立つんです。

けど、同時に「あぁ、この人はそういう事を言うお役目なんだ」っていう思いが、常にどこかにありますから、心の底からは腹が立たないんですよ、その人達に対しても。
この人生の中で、「人は様々な役割が振り当てられているな」っていう感じがしていますから。

 

甲野善紀 x 方条遼雨『身体は考える 創造性を育む松聲館スタイル』より

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(引用ここまで)

 

まず、甲野さんのこれからは私塾の時代という言葉は

私塾という場に40年近く携わってきた

わたしにとっては、

何より勇気づけられる言葉です。

 

方条さんの夢も特にないし、神社にも祈らない、

善し悪しや目標を決めていないということや

ものが捨てられないという話はわたし自身もそうで、

自宅リフォーム工事の真最中に

本書が出版されたという

この絶妙なタイミングについても

奇遇だとおもわざるを得ません。笑

 

また、あるものを活かす、身体性というところに

自分の土台を置く発想は、

わたしの場合は、マクロビオティックの桜沢から

学んだようにおもいます。

 

桜沢は実用弁証法という言葉を使っていましたが、

わたしの場合、10代の後半という時期から

医療的な手段に必要以上に依存しないで、

病気と向き合いながら、

実際に自分の身体で試してみてわかったことの

積み重ねがそのまま

現実に対しても有効な生活術となり、

わたしを形づくってきました。

 

そして、さらにわたしの場合、

結果的にコロナ禍のお陰で、

それまでの食生活を180度

転換することができたわけですが、

ほんとうにコロナ禍がなければ

絶対といってイイほど

起こり得なかったんじゃないかとおもいますし、

どんなに感謝してもしきれないくらいなので。

 

つまり、甲野さんが話されているように、

今回のコロナ禍は、わたし自身も含めて、

人が生きるという事を本気で考えているかどうかが

白日の下にさらされた

出来事だったという意味で

必然だったと感じられるようになったからこそ、

長年学んできたマクロビオティックの

土台そのものまでをいったんクリアして

原点に立ち戻って点検しなおすことが

できたのでしょう。

 

この対談でも言及されている

良し悪しの問題に連なってくるわけですが、

良し悪しって、本当にないというか、

良し悪しにとらわれずに観察することの

大切さを実感しているところです。

 

今日まで8回にわたって紹介してきた内容を

全部合わせたとしても、

本書全体の1割にも満たないほどのことで、

あとはぜひ本書を手に取って

ご覧になってみてください。

 

参考記事としてオススメは、

『観察力の鍛え方』の著者であり、

寺子屋塾生の本田さんが読書会を開催中のお題本

『言葉のズレと共感幻想』の対談者でもある

佐渡島庸平さんと方条遼雨さんの

対談記事を見つけたのでシェアしておきます。

 

わからないまま摂取してみる。

身体性と上達の原理 

身体思想家・方条遼雨 × 佐渡島庸平 対談

 

「わからないことをわからないままやる」のは、

寺子屋塾の教室でいつもわたしが

口にしている言葉でもありますね〜

 

あとさいごに、方条遼雨さんが主宰される

玄武術【天根流】YouTube動画もあったので、

ぜひ聴いてみてください。

概要欄に方条遼雨さんの

ホームページアドレスも記載されています。

【天根流ラジオ】 第1話 (1/5) 「動きのシステム」

【参考記事】

観察力を鍛えるのに参考になる本はありますか?

新型コロナ騒動からわたしが学んだこと

コロナ禍関連記事厳選リンク集(2020.2〜2022.6)

 

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