コンテキスト・リーダーシップについて 〜山口周さんの動画・文字起こし(その5)〜
2026/10/02
昨日に続いて山口周さんが2026年4月に出版された
『コンテキスト・リーダーシップ 「最高の上司」と「最悪の上司」は文脈で決まる』
について語られているYouTube動画の
文字起こしテキストの5回目をお届けします。
第1〜4回の記事を未読の方は
今日の記事を読まれる前に以下をどうぞ。
・コンテキスト・リーダーシップについて 〜山口周さんの動画・文字起こし(その1)〜
・コンテキスト・リーダーシップについて 〜山口周さんの動画・文字起こし(その2)〜
・コンテキスト・リーダーシップについて 〜山口周さんの動画・文字起こし(その3)〜
・コンテキスト・リーダーシップについて 〜山口周さんの動画・文字起こし(その4)〜
第1回〜第3回までは次の動画(1本目)を
文字起こししました。
【最高の上司、最悪の上司】リーダーの評価は「印象」で決まる(PIVOT BUISSINESS)
4回目の昨日は、次の動画(2本目)の前半
16分10秒あたりまで文字起こししました。
【現代社会の7つの教養】リーダーこそ「文脈」を語れ(PIVOT BUISSINESS)
今日はこの動画の後半です。
(文字起こし・ここから)
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日本企業に欠けている「欠落」の宣言
磯貝:山口さんからご覧になって、今の日本でビジネスをしていくには、こういったところを頭に入れておいた方がいい、というものは何かありますか。
山口:本書にも書いたことですが、神話は必ず「欠落」から始まるんです。何が欠落しているかという提示から始まります。そして、その欠落は何によって生み出されているのか。その原因が示されます。それは大体、敵の設定になるんです。今の日本は、かなりの程度、欠落が見出しにくい社会になっています。
磯貝:ああ。
山口:非常に物質的に豊かになりました。 安全で、快適で、便利です。では、世の中で何か失われているものは何ですかと聞いても、みんなぱっとは答えられない状態になっています。しかし、そういう状態の中で、「いや、情報に対するアクセス権の格差だ」「情報に対するアクセスが失われている」と言ったのがGoogleですよね。化石燃料に依存しすぎている、と言ったのがテスラです。
今の社会は、一見すると、非常に欠落のない、満足のいく社会が出来上がっている。しかし、その中で欠落しているものは何なのか。それを考えないと、人を集めてモチベートさせるような事業は、やはりできないと思うんです。個別の名前をここで挙げるのは差し控えますけれども、テクノロジーとしては結構面白いものを持っているということで評価され、相当な投資を集めたけれども、結局うまくいかなかった事業が、ここ20年ほど日本でかなり出てきていますよね。僕に言わせると、あれには「欠落の宣言」がないんです。
磯貝:ああ。
山口:コンテキストのデザインができていないんです。何が失われていて、それを生み出している敵は誰なのか。 そして、このテクノロジーによって、その敵をどうやってやっつけ、欠落を埋められるのか。そういうコンテキストの設計がない。
うまくいっていない典型例として、もうなくなってしまった会社で言えば、セグウェイがそうです。セグウェイは、テクノロジーとしては当時、非常に先進的でした。さまざまなコンピューター制御を用いた画期的な乗り物だったんです。しかし、今あの会社のアナウンスメントを読み返してみても、世の中に何が欠落していて、それを生み出している原因は何で、セグウェイによって何が取り戻され、世の中が満たされるのか。そういう神話的な物語の構造が、まったくありません。技術として面白いものがポンと出てきた会社だったんですね。

※Wikipediaより拝借しました
結果的に、あの会社は一度も黒字化できませんでした。もう会社としては消滅しています。製品は生産されていますけれども。今、特にビジネス領域のリーダーに関して言うと、マクロコンテキストの中で、どういうナラティブとしてそのコンテキストを設計し、デザインするのか。これは、日本のリーダーにはかなり欠けているという感覚があります。
磯貝:何が可能か、何ができるかだけで走ろうとすると、うまくいかない。「欠落を解決するためのものだ」とか、「欠落があるからそこに生まれたのだ」という文脈を編んであげないと、意味を持てない。 世に広く受け入れられるには至らないということですね。
山口:そうですね。
磯貝:リーダーって大変ですね。
山口:でも、やっぱり面白いんですよ。ある種のクリエーションなんです。リクリエーションと言うくらいですから、楽しいんです。あなたはやっていますよ、と言いたいんです。自分の人生も一つの物語です。 組織のリーダーであれば、その組織がどういう役割を担っていて、その組織のメンバーたちが、世界という劇場の中でどういう劇を演じているのか。その脚本を作り、演出もやっている。アクトレスでもあるので、もうクリエーションそのものですよね。
ですから、その感覚を持つことです。ファクトはありません。 あるのは意味づけだけです。その意味づけは、コンテキストの中で生成されるものです。 自分でそのコンテキストを作らない限り、部下や周りの人が作ったものに、自分も振り回されることになりますよ、ということです。
流れを読む「7つのマクロコンテキスト」
磯貝:本の中でも「7つのマクロコンテキスト」というものがありましたけれども、これについてお聞きしてもいいですか?
山口:そうですね。もともと、このリーダーシップとコンテキストの関係については、僕が初めて言っているわけではありません。ハーバード・ビジネススクールに、ニティン・ノーリアという先生がいます。『In Their Time』という本がありまして、まだ翻訳されていないと思いますが、その中で「リーダーシップ・イン・ザ・コンテキスト」ということを言っています。ノーリアが言ったのは、まさにこのマクロコンテキストの話です。
景気が伸びているのか、停滞しているのか。 そういった世の中の変動によって、リーダーシップの浮き沈みは変わる。 だから、世の中のコンテキストを踏まえなければ、リーダーシップ論は無意味だと言っているんです。このニティン・ノーリアが言っているコンテキストが、マクロコンテキストです。具体的には、まず経済的コンテキストです。好景気なのか、少し停滞しているのかということですね。
次に、政治・外交のコンテキスト。 これもまさに今そうですよね。 平時なのか、それとも不穏な状況なのか。場合によっては、戦争の状態なのか。3つ目は、社会・文化的なコンテキストです。たとえば、環境よりも経済成長が大事だという時代が、1970年代、80年代ぐらいまでありました。しかし今は、環境への配慮も大事だよね、成長だけではなく格差にも配慮しないといけないよね、となっている。これは、社会や文化のコンテキストですよね。
磯貝:バーバリーの事例は、ここに当たるのでしょうか。
山口:そうですね。バーバリーは2018年頃、40億円分の余った在庫を全部燃やしましたと発表して、バッシングを受け、不買運動が起こりました。あれは、環境や廃棄物、資源といったことがあまり問題視されていない時代であれば、全く問題なかったかもしれません。
しかし、そういうものに対する目線が厳しくなってきている時代において、ある日、一線を越えてしまったという感じですよね。これが3つ目の社会・文化のコンテキストです。
4つ目が、インフラのコンテキストです。 近年で分かりやすく言うと、インターネットですよね。 あるいは、AIもここに入ると言っていいかもしれません。高度経済成長期に関して言うと、これは何と言っても高速道路です。本の中で紹介したのは宅急便です。 宅急便は1970年代に登場し、急成長しました。あれは高速道路というインフラがあったからこそ成功できたビジネスモデルです。 高速道路がなかったら、非常に厳しかったでしょう。インフラが変わると、これまで不可能だったことが可能になります。 インターネットもそうですよね。ビジネスの常識、可能と不可能の閾値、境界線が変わる。 これが四つ目のインフラのコンテキストです。
5つ目が、人口動態のコンテキストです。分かりやすく言うと、高度経済成長期には人口がすごく伸びていました。 もう一つ、地方から都市に対して、ものすごい数の人口流入がありました。ところが今、日本はどちらかというと人口が減っている。 世界的にも、人口は伸びなくなってきています。そういった話です。6つ目は、テクノロジーのコンテキストです。 これは分かりやすいですよね。
7つ目は、歴史のコンテキストです。先ほど言ったチャーチルやヒトラーなどは、まさにこの歴史のコンテキストに、今の社会や組織がどう当てはまっているのかを捉え、そのコンテキストを作り出したわけです。この7つの視点で、自分たちの立ち位置や役割、意味づけを考えていく。 そういうことをやらなければいけない時代が来たのだと思います。
磯貝:この7つを正しく把握するには、日々どういう情報の取り方をすればよいのでしょうか。
山口:やはり、数学的に言うと、微分のセンスを持つということだと思います。今この時点でのY軸の絶対値がどうなのか。 たとえば2026年4月という時点をX軸にとって、GDPがどうだとか、人口がどうだとか、テクノロジーがどうだとか、Yの値をピンポイントで取れば、それは定位置で出ます。しかし重要なのは、やはり微分です。これが上がっているのか、下がっているのか、定常状態なのか。 それを考えることです。僕が見ていると、優れたビジネスリーダーは「カイロス」を待っているんです。いつ来るか、と思っている。
本書の中で言うと、一番分かりやすいのが、三井物産の伝説の財務部長・福井さんです。1985年9月、ニューヨークのプラザホテルで先進国の蔵相が集まって会議を開きました。これは、非常に小さな新聞記事だったんです。しかし福井さんは、それを見た瞬間に、「これはドル高を是正するための会議だ」と直感しました。日曜日の朝だったと思います。その日曜日に、財務部のディーラーを緊急招集し、「ドル高是正の緊急会議だ」と伝えました。この先ドル安、逆に言うと円高になる。そうなると、三井物産が持っているロングポジションのドル建て資産は、ものすごく目減りしてしまうわけです。
その記事が出たのは日曜日でした。翌日の月曜日は、日本では秋分の日で休みでした。 それでも、「その日も出てこい」ということになった。当時は本当に回線が弱かったですから、まず最初に日付変更線前で一番早く開く市場であるシドニー市場に注目しました。その日のうちにシドニー市場と電話回線をつないでおき、場が開いた瞬間から、ドル建て資産を売って売って売りまくったんです。
でも、これは何となくぼうっと新聞を読んで、「へえ、プラザホテルで先進国の蔵相が集まるんだ」と見て、そこから考えたということではありません。必ずドル高是正に動くはずだと、ずっと待っていたんです。待って、待って、待って、集まったぞというニュースで、 「カイロスが来た」と判断したんです。これは、優れたリーダーはみんなそうなんです。
磯貝:その例で言っても、同じ会議がありましたというニュースは、他の人も見ていたわけですよね。
山口:みんな見ています。
磯貝:それが、先ほどおっしゃっていた微分ができるというか、「今どの流れにあって、ここが極大値である」 ということが分かって、「ここだ。カイロスだ」と判断できるわけですね。
山口:そうです。変曲点を読めるということです。変曲点を読むためには、やはりコンテキストが分かっていなければいけません。ドルと円の関係で言えば、ドルがどんどん高くなってきている。当時は、ほぼ膠着状態だったわけですが、必ずどこかで下げに入る。その変曲点を待っているわけです。そのためには、各国の為替政策への介入が必要になります。やるためには、先進国の蔵相がどこかで集まることが必ず起こるはずだと思っているわけです。
磯貝:流れを読めるということですね。一個一個が情報として単独でインプットされていても仕方ない、ということですね。
山口:そうですね。それを「点」ではなく「線」にしてつなげる。点と点をつなげて線にするんです。蔵相が集まる。ドルの価値が今どれくらいになっている。それだけではなく、いろいろありますよね。福井さん自身は、アメリカ議会の発言や大統領の発言に、かなり注目していたようです。誰が、どれくらいの強さで言うかを見ていた。
今だったら、やはりX、旧Twitterです。僕は、親しくしている地政学者で、地経学研究所の主宰をされている鈴木一人先生と、この手の議論をよくします。「どうやってインテリジェンスを読んでいるんですか、鈴木さん」と聞くと、「僕が使っているのはXです」と言っていました。誰が、どういうことを、どれくらいの頻度で言い出すか。それで結構読んでいると言っていました。
磯貝:誰が何を言ったかを単独で見るのではなく、今まで言わなかった人が急に言い出したのか、ということですね。
山口:はい。あとは、どれくらいのポジションの人が言い出したのか。ドル高是正に関して言うと、それまでは議会で出ていた話を、レーガン大統領が教書演説の中で言い出すんです。そうすると、「いよいよ来たぞ」 ということで、カイロスが来ていると分かるわけです。ですから、日本のメディアだけを見ていると、この7つのマクロコンテキストはなかなか読めません。海外のメディアでどういうことが報道されているかというのは、かなり重要なサインになります。
良いリーダーとは何か
磯貝:ありがとうございます。最後に、良いリーダーになりたいけれど苦戦している人に向けて、山口さんから何かメッセージがあればお願いします。
山口:良いかどうかは、周囲が決めることです。周囲がどういう物語の中で、そのリーダーをどういう役柄やキャラクターの人として設定しているか。それが大事です。漫画の読み手や映画の観客と同じように、周りの人たちが、その主人公であるリーダーのキャラづけをしています。そこに少し意識を向けてください、ということです。
磯貝:本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
山口:ありがとうございました。
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(文字起こし・ここまで)
今日まで5回投稿してきた文字起こし講義録を
丁寧に読まれれば、
わたしがなぜ、ドラマのシナリオを書き起こして
それを読み解く記事を100回にわたって
ブログで投稿し続けてきたのか、
すぐ納得されるとおもうのですが、
いかがでしたでしょうか。
2本の動画で山口さんが語られている
内容に対してのわたしのコメントは
改めて明日投稿する予定です。
5回分の記事のおさらいとして
2本の動画の中見出しを以下に記しました。
【1本目動画】
・なぜコンテキストが重要か
・評価を左右する「文脈」の力
・リーダーシップは能力ではなく関係性である
・6つのリーダーシップスタイル
・IBM再生に見るリーダーシップの使い分け
・コンテキストの変化を読む力
・事業成長ステージごとのリーダーシップ
【2本目動画】
・リーダーに物語る力が必須な理由
・チャーチルに学ぶ物語の力
・物語の力をどう身につけるか
・日本企業に欠けている「欠落」の宣言
・流れを読む「7つのマクロコンテキスト」
・良いリーダーとは何か
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