顔淵喟然歎曰(「論語499章1日1章読解」より)
2022/06/12
日曜は古典研究カテゴリーの記事を書いていて、
易経や仏典、論語などを採りあげています。
2019年の元旦から翌年5月13日まで約1年半の間、
全部で499章ある論語を1日に1章ずつ読んで
その内容をfacebookに投稿することを
日課としていたので、
その中からわたしが個人的に大事だとおもう章を
少しずつ紹介してきました。
今日は門人・顔淵が師の孔子について述べている
通し番号215をご紹介しようとおもいます。
具体的にどう表現してよいものかは
わからないのですが、この章には
孔子の精神波動に近づいていくための重要なヒントが
隠れているように感じました。
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【子罕・第九】215-9-10
[要旨(大意)]
門人の顔淵(顔回)が師である孔子の教育を称賛しつつ、どのようにすれば師が言われる仁者の世界にたどりつけるかが分からず懊悩している章。
[白文]
顔淵喟然歎曰、仰之彌高、鑽之彌堅、瞻之在前、忽焉在後、夫子循循然善誘人、博我以文、約我以禮、欲罷不能、既竭吾才、如有所立卓爾、雖欲從之、末由也已。
[訓読文]
顔淵、喟然トシテ歎ジテ曰ク、之ヲ仰ゲバ彌高ク、之ヲ鑽レバ彌堅シ、之ヲ瞻レバ前ニ在リ、忽焉トシテ後ニ在リ、夫子、循循然善トシテ人ヲ誘ム、我ヲ博スルニ文ヲ以テス、我ヲ約スルニ禮ヲ以テス、罷メント欲シテ能ハズ、既ニ吾才ヲ竭ス、立ツ所有リテ卓爾タルガ如シ、之ニ從ハント欲スルト雖モ、由末キノミ。
[カナ付き訓読文]
顔淵(がんえん)、喟然(きぜん)トシテ歎(たん)ジテ曰(いわ)ク、之(これ)ヲ仰(あお)ゲバ彌(いよいよ)高(たか)ク、之(これ)ヲ鑽(き)レバ彌(いよいよ)堅(かた)シ、之(これ)ヲ瞻(み)レバ前(まえ)ニ在(あ)リ、忽焉(こつえん)トシテ後(のち)ニ在(あ)リ、夫子(ふうし)、循循然(じゅんじゅんぜん)トシテ善(よ)ク人(ひと)ヲ誘(すす)ム、我(われ)ヲ博(はく)スルニ文(ぶん)ヲ以(もっ)テス、我(われ)ヲ約(やく)スルニ禮(れい)ヲ以(もっ)テス、罷(や)メント欲(ほっ)シテ能(あた)ハズ、既(すで)ニ吾(われ)才(さい)ヲ竭(つく)ス、立(た)ツ所(ところ)有(あ)リテ卓爾(たくじ)タルガ如(ごと)シ、之(これ)ニ従(したが)ハント欲(ほっ)スルト雖(いえど)モ、由(みち)末(な)キノミ。
[ひらがな素読文]
がんえんきぜんとしてたんじていわく、これをあおげばいよいよたかく、これをきればいよいよかたし、これをみればまえにあり、こつえんとしてしりえにあり、ふうし、じゅんじゅんぜんとして、よくひとをすすむ、われはくするにぶんをもってし、われをやくするにれいをもってす、やめんとほっしてあたわず、すでにわがさいをつくす、たつところありてたくじたるがごとし、これにしたがわんとほっするといえども、みちなきのみ。
[口語訳文]
顔淵(顔回)がため息をついて言った。「(孔子)先生は、仰げば仰ぐほどに高く、切り込もうとすればするほどますます堅い。前に居られるかとおもえば、いつの間にか後ろに立っておられる。先生は順序よく人を導き、書物でわたしたち門人に知識や見聞を広め、礼法で行動の原則を示される。それがあまりに魅力的なので、わたしは何度も学問をやめようとおもうことがあったけれど、結局やめることができなかった。自分の才能の限りを尽くして学ぶのですが、先生はいつのまにか遥かな高みに毅然とそびえ立っておられる。教えについていこうとおもうのですが、どうすれば良いのかは分からないのです。」
[コメント]
孔子から学問第一と賞賛されていた一番弟子とも言える顔淵が、師である孔子をこれ以上の言葉はないとおもえるほど褒めちぎっています。公冶長第五の7番(通し番号100)で孔子から「顔淵と自分とどちらが優れているとおもうか」と問われた子貢が、「あいつにはとても敵いません」と評したくらいですから、きっと孔子から与えられるさまざまな課題についてはほぼクリアできていたのでしょう。本章ではその顔淵をして、「どのようにすれば師の世界にたどりつけるかが分からないんだ」と正直に告白しているわけですから、孔子の偉大さとともに学問の世界の奥深さを感じます。孔子はサトリを開いた正覚者で、門人たちに仁を説きましたが、どうすれば仁者になれるのか、どうすれば正覚に至れるかについては、残念ながら顔淵が納得できるようには示すことができなかったというふうにも言えます。他の多くの門人たちは、孔子の言葉を聞いて何となくわかったような気になり、孝や礼、信、忠、義などの徳目の実践をそのための方法だと勘違いして、形を真似ることで師の世界に近づけるものだと考えていたのでしょうが、顔回はそうではなかったのでしょう。この章には、孔子の精神波動に近づくことを目的に論語を読み解こうとするうえで、とても重要なことが書かれていることがわかりましたが、具体的にどう重要なのかについて、現状のわたしの力量ではとても書き尽くせませんし、今後も継続課題として探究し続けていくつもりです。