バイオリニスト・川井郁子さんのお話から
2021/09/07
2014年4月からNHK-Eテレで放映している
対話形式の番組があるんですが、
ご覧になったことはありますか?
寺子屋塾主催で定例的に開催している
「インタビューゲーム」のプログラムは、
二人一組になって、
最初AさんからBさんにインタビュー、
後半はBさんがAさんに
インタビューするものなんですが、
「SWITCHインタビュー達人達」は、
インタビューゲームを
そのまま番組にしたような形のもので、
わたしも放送開始時から
よく見ているお気に入り番組です。
先週の土曜9/4に放映された回は、
プラネタリウムクリエイター・大平貴之さんが登場され、
とても興味深い話が聞けたのですが、
とくに番組後半の、
大平さんが質問して川井さんが話すところで
強く印象にのこった部分がありました。
以下にその部分をそのまま引用してご紹介します。
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大平:・・・そうは言っても、素人だと演奏全くできないわけじゃないですか。その辺って、どうだったんですか? 初めて弾くときとか、緊張とか、難しい楽器だっていう印象がすごくあるので。
川井:そうですね、私が思うに結構ね、バイオリンって最初の、ちゃんとある程度弾けるようになる期間って、個人差があると思うんですね。
大平:はいはい。
川井:わりと私はね、バイオリンとのマッチングが最初すごいよかったと思うんですね。わりとね、すぐに曲が弾けるようになってて。たぶん頭で考えてやるようになると、すごい時間かかると思うんですけど、自然に何かこう、何ていうのかな…何も考えずにやってるとパッといけたりするじゃないですか、子どものときって。理屈よりも先。何か早かったです…。
大平:そこから先、だんだんプロに向かっていく階段ってあったと思うんですけども、まず、その上達していく過程で、そうは言っても、「大変だな~」って思ったりとか、「苦しい」って思ったことっていうのはなかったですか?
川井:この壁が私にとってはつらかったんですけど、舞台恐怖症になっちゃったんですよ。
大平:はい。
川井:それで、中学の終わりぐらいから高校生にかけて、舞台で弾くこと怖くてたまらなくて。あの、先生のお言葉で、「バイオリンは体操に似てる。どんなにいい演技をしていても、平均台から落ちたら0点なのよ」みたいな。それで、「失敗してはいけない。万が一、真っ白になっちゃったらどうしよう?」みたいな恐怖が常につきまとうようになってしまって。どんなに練習で弾けていても、何が起こるか分からないっていう恐怖心が芽生えちゃって。
大平:どういうふうにして克服されたんですか?
川合:それがね、もう、それまでは練習を死ぬほどするしかないと思ってたんですけど、あるとき気付いたんですよね。 目線。あのね、やっぱり目線って、意識とつながってるわけですよ。
大平:はい。
川井:だから、ずっと自分の、動いてる手だったり弓だったり、どんどん弾いてるっていう作業に意識がいくんですね。だから、緊張から離れられないんですけど、自分が弾いてる側じゃなくて、その音に、こう包まれてる人っていう意識になれるのが、その音が飛んでいく方に視線をやったときに、抜けられたんですよ。
大平:ああ…。
川井:音の側に自分がいるっていうか。弾く側じゃなくて。
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以上 引用終わり
番組の全編にわたって興味深い対話が
交わされていたんですが、
この引用した箇所、バイオリンを弾き始めた
子どもの頃のエピソード
「頭で考えてやっていると
すごく時間がかかってしまうけれど、
そうした理屈よりも考えずにやっていると
弾けてしまう」という話と、
「自分の目線が意識とつながっていると気づいた。
それで、自分が弾いている側じゃなくて、
音が飛んでいく方向に視線をやったときに
抜けられた」という舞台恐怖症を
克服されたときのエピソードが
とりわけ興味深かったです。
前者からは、三木成夫『内蔵とこころ』に
出てくる大脳思考と内臓感覚の話を。
また後者からは、世阿弥『花鏡』に出てくる
芸事の極意「離見の見」の話をおもいだしました。
本放送は終了してしまいましたが、
9/11土曜0時から再放送がありますし、
その日の22:49 まで、見逃し配信のwebsite
NHK+(プラス)で視聴することができますよ。
※画像はSWITCHインタビュー達人達のtwitter投稿記事より拝借しました