庄司薫さんの小説(赤・白・黒・青4部作)のこと
2022/10/28
金曜は読書関連の話題を投稿しています。
今年の7/22に書いたこちらの記事で、
庄司薫さんのエッセイ集『バクの飼い主めざして』より
「時代の児の運命」を全文紹介したことがありました。
その記事の終わりを、
わたしが結局のところ
庄司さんから何を学んだのかということや、
この文章内容に対しての詳細コメントは、
後日に記すつもりでいますので。
と結んだものの、書こうとしているテーマが
大きすぎて未だ書けずに立ち止まっているんですが。
たしかに、『バクの飼い主めざして』に収められた
数多くのエッセイも、時代を先取りした希有な文章で
大きな価値があることに間違いはありません。
でも、芥川賞受賞作であり代表作の
『赤頭巾ちゃん気をつけて』に触れないというのは
やはり片手落ちだとおもいますので、
今日はそのことを。
彼が芥川賞を受賞したのは1969年ですから、
もう50年以上も前のことです。
彼は予定していた続編「白鳥の歌なんか聞こえない」
「さよなら快傑黒頭巾」「ぼくの大好きな青髭」
の3作品、いわゆる「赤・白・黒・青4部作」を
完成した後は、予告通り文壇からは退却(?)し、
以後、小説らしき作品を発表していません。
おそらく今の10代、20代の人たちには
庄司薫といっても名前を知っている人はごく少数、
彼の作品を読んでいるという人は
さらに少ないことでしょう。
4部作の小説は、いずれも
安保闘争、高度経済成長期という時代を背景に、
東大で入学試験の実施が中止になった
1969年の春から夏にかけての
薫くんという主人公の高校生の男の子の、
ある意味どうでもいいような日常を描いていて、
終始饒舌とも思える口語体の平易な言葉で
書かれています。
なぜ、それほどまでに彼の作品が私の心を捉えたのか、
当時はよくわからなかったし、
その後も、ものすごく彼の影響をうけたと意識したり、
彼の本に書かれていたことを思い出したりする
シチュエーションもそんなに多く
あったわけでもなかったのです。
でも、この歳になって改めておもい返してみて、
彼の作品には、
「あたり前の日常生活の中にこそ答えがある」
「情報洪水に押し流されることなく生きるには」
など、現在のわたしが土台にしている基本姿勢が
脈々とながれていることに思い当たり、
自分の人生の方向性というのは、
あの頃から定まっていたのかもしれません。
わたしが高校生だったのは70年代後半なんですが、
自分の生きている社会が
とても難しい局面にさしかかっているという感覚が
何となくありました。
とくに自分の場合は、高2のときに
学校を1ヶ月以上休まなければいけないような
やっかいな病気になったこともあって
余計に敏感だったとおもうんですが、
彼の小説には、文体はやさしいけれど、
何かコトの本質に迫るというか、
そんな時代をどう生きていけばいいのかを考える
ヒントがあるようにおもっていたのです。
だからといって、
そんなにたくさん本を読んでいたわけでもないので、
ほとんど直感のようなものでしたが。
ちなみに彼の作品は、時を経て風化したり、
価値が失われたりすることなく、
わたしのような根強いファンに支えられ、、
新しい版が出される度に新たなあとがきが付され、
2012年に出版された写真の新潮文庫版には
「あわや半世紀のあとがき」4作がついています。
いま10代20代の若さまっただ中にいる皆さん、
とくに男性諸君!に読んで欲しい作品です。