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「東洋思想の陰陽」と「マクロビオティックの陰陽」を比較対照する

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「東洋思想の陰陽」と「マクロビオティックの陰陽」を比較対照する

「東洋思想の陰陽」と「マクロビオティックの陰陽」を比較対照する

2022/12/25

日曜は古典研究カテゴリーの記事を

投稿しているんですが、今日は易経関連です。

 

ただ、これまで何度も触れたように、

わたしの場合、易経との出会いは20代の頃に遡り、

桜沢如一が創始したマクロビオティックと

出会ったことがきっかけだったので

生活デザイン・ヘルス関連の記事でもあります。

 

易経もマクロビオティックも一番の基本は、

陰陽論であり、陰と陽とは何かを

理解することにあるんですが、

いわゆる易経をもとに組み立てられた

東洋医学の陰陽論と、

桜沢の陰陽論(無双原理、PUともいう)は、

表現が同じところと違うところがあるため、

気をつけなければいけません。

 

ただ、たとえば

次の薬膳関連の記事など、

マクロビと薬膳の共通点と大きな違い

その問題点を指摘する人はいても、

なぜ同じところと違うところがあるのか、

それを原理まで遡って

整理している人はなかなかいないのです。

 

ネットの情報や書籍など探していたわたしも

長年なかなか見つけられなかったんですが、

新潟の知人から頂いた

関川二郎さんの『趣味の東洋医学』のコピー本に

わかりやすく整理されたものを

見つけることができました。

 

『趣味の東洋医学』は、古書店でも

ほとんど見ることがなく、

図書館にもないような貴重な本なので、

記事として内容を公開することは

それなりに意義があるようにおもわれますので、

以下に該当部分を引用してご紹介します。

 

(引用ここから)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
現代の我が国に於ける食養理論の始祖は、明治陸軍の軍医総監を務めた石塚左玄軍医中将と言われるが、その著書「科学的食養理論」で説かれた「食物中のナトリウムとカリウムのバランスが、人間の健康を保つ上で最も重要であり、そのためには玄米食が最も理想的である」とした食養の理論は、 桜沢如一氏によって継承された。


東洋思想の根本である易の思想から発展した、氏独創の「無双原理」(二つとない原理 PUと呼ぶ)に基く食養の陰陽理論は、現代日本の食養家の主流になっているばかりでなく、桜沢夫妻の長期に亘る外遊によって広く欧米に広められ、その玄米人口は日本のそれを超越する実状であると言われている。


桜沢氏は73才で天寿を全うされたが、氏が食養理論の完成を託したとされる後継者大森英桜氏によって、其の豊富な体験と、現代生理学生物 発生学 古典五行説等の理論を加えた補足がなされて、益々その深さを増して来ている。


ところが、 桜沢陰陽論(以下PUと書く)で用いられている陰陽の区分と、古来より伝承されている東洋医学の陰陽の区分の間には、時には一致し、時には全く正反対に表現されているのである。


そのため、単に一方の体系のみを学んでいる人は何等の疑念を持たないであろうが、両方の体系を比較検討する者にとっては、よほど頭を整理してかからないと、 彼此混同して訳が解らなくなってしまう虞れがあるので、先ず用語の整理をして置く必要がある。


陰陽五行説とPUでの、陰陽表現の一致点と、相異点とを対比すると次のようになる。

 

1.陰陽が正反対に用いられている場合


①人体の部位に関する表現

     部位        東洋古典       PU  
  頭部 上部     陽     陰
  足部 下部     陰     陽
   左     陽     陰   
   右     陰     陽
   臓     陰     陽
   腑     陽     陰
   気     陽     陰
   血     陰     陽
 表(外部)     陽     陰
 裏(内部)     陰     陽

 

②エネルギー移動の方向

   区     分    東洋古典     PU 

  拡散(上昇性)

   陽    陰
  凝集(下降性)    陰    陽

 

2.陰陽が同じ表現で用いられている場合

①環境条件に関する表現

       区     分  東洋古典        PU    
 寒 冷 暗 水    陰    陰
 温 熱 明 火    陽    陽
 静寂 連続 植物 女    陰    陰
 騒動 変化 動物 男    陽    陽

 

②食物に関する表現

   区     分     東洋古典      PU 
   冷     陰     陰
   温     陽     陽
 動物性食品     陽     陽
 植物性食品     陰     陰
  地上部       陰(降性)       陰(昇性)
  地下部       陽(昇性)       陽(降性)

 

 

3.五味の陰陽

   区     分     東洋古典      PU 
 甘 辛   陽(昇性)   陰(昇性)
 酸   陰(降性)   陰(昇性)

 苦 鹹

  陰(降性)   陽(降性)

 

ところで、桜沢氏が何故このような意図的な転換を行ったかに付いては、その著書「無双原理」に次のように述べている。


「4.000年以前の中国伏儀の時代では、天はyin(陰)、地はyan(陽)を指していた。その後になって(2,500年前頃から)孔子等による形而上学的なコトバの混同が起こり、天はyan、地はyinと表現されるようになった。そして天は機能的、性能的に見て最高の神聖、大生産者として太陽(日輪)と同義後に用いられるようになった。
しかし物理的、形態的に見ると、天は無辺無窮、最大のエントロピー的受動者であることから飽くまでもyinとすべきである。
中国医学では小腸 膀胱 胆嚢 大腸 等を陽に、心 腎 膵 脾 肝 等を“陰”とするが、これは形而上的分類(機能的分類)であって物理的形態的 形而下的分類では、大腸 小腸 膀胱 等のように中が中空になっている器官を “陰” に、心 腎 肝 等のように充実した器官を “陽” とする方が、つまり形態的 実体的立場からの区分が、より科学的である」


このように、氏がより科学的であると断定した論拠は、多分つぎのような事由にもとずくものと推定される。


ボーアの原子模型によれば、原子の構造は、中心に電気的に+(プラス)荷電で質量の大きい陽核が存在し、その周辺をー(マイナス)荷電でゼロに近い質量しか有しない陰電子が回転している構造になっており、しかも其の構造が極大の世界である太陽系の構造にも類似していることから、プラス電気を持つ中心部を“陽”に、マイナス電気を持つ周辺部を“陰”と考えることが、より科学的であるとしたものであろう。


ところが、電気物理学で用いられる電気の二つの極性に付けられたプラス、マイナスの名称は、


1.摩擦によって生ずる静電気には二種類があり、同種の電気は相反発し異種の電気は互いに吸引し合う性質があることから、絹布で摩擦したガラス棒に生ずる電気と同じ性質の電気をプラスに、毛皮で摩擦したエボナイト棒に生ずる電気と同じ性質の電気をマイナスと定めたこと
2.このように定義すると、ボルタの電池では亜鉛極がマイナス銅極がプラスの性質となり、この両極を導体でつなぐと電流が流れるが、この場合の電流の方向を+極からー極へ流れるものと定めたこと


この二つの約束が、現在でも其のままの形で継承されているのであって、仮にこの時+の呼称を反対に決めたとしても、少しも不都合は無かったのである。


事実その後に原子の構造が明らかにされるに及んで、電子がーに帯電している最小単位の物質であり、電流とは電子の流れであることが明確になって、電子流の方向と電流の方向とが、構造的に正反対になっていることが明らかになった現在でも、慣行的に最初の約束のまま用いられているのである。


このように物理学上のプラス、マイナスの符号は全く便宜上のものであって中国古来の表意文字である陰陽という文字のように、それ自身 “陰”とは “求心性”、“陽” とは “遠心性” をあらわす言葉ではない事を理解しなければならない。


ところが残念なことに、電気物理学が西洋から我が国に導入されたときに、事に当った日本人が、恐らく陰陽という文字が持つ表意的な意義に対する理解が無かったために、漫然と+を “陽” に ーを “陰” に当てはめて翻訳したものが、今日に及んだものと推測されるのである。


若しこのとき、陰陽という漢字の持つ意味を正しく理解していたならば、+に “陰” の文字を ーに “陽” の文字を用いるべきであった。(易学では “陽” はー “陰” は- -になっている)


しかし、言葉は一旦一般化してしまうと、これを変更することは簡単にはできないのであって、電子流と電流の方向が反対に表示されなければならない、不自然な約束を見れば理解できる所であろう。


これと全く同じように、桜沢氏が東洋古典の陰陽を氏独自の見解で部分的に逆転して用い始め、しかも広範囲に普及させてしまったことは、陰陽の本質を正しく把握する上に大きい混乱をもたらすことになった。氏は物理学で原子構造の中心核の荷電を陽電気、周辺を廻る電子の荷電を陰電気としたことから陰陽の基本的な理念を


 遠心性 拡散性 上昇性を“陰”
 求心性 凝集性 下降性を“陽”


に定義することで、氏独自の理論体系を作り上げて行ったものと思われる。


しかし表意文字である漢字の意味を検討すると、 陰陽の文字はそれぞれ具体的に明確な意味を持っている。


即ち“陽”という字は、阝(おおいにさかんなさま 岡の意味をもつ) と、 “易” (とび上がる ながし ひかる ひらく 等の意)の合意文字で、放散性 上昇性 遠心性を現している。


また “陰” という文字は、阝(おおいに)と、今(このところに ここに いま)と、云(かえる めぐる 等の意)の組み合わせで、この所に盛んに帰ってくる意味となって、求心性 凝集性 下降性を内容とする文字である。


中国に 「阿の呼吸」 と言う言葉があるが、 寺社等に見られる一対の唐獅子で、大きく口を開いている方が雄で “阿” を表し、口を閉じている方が雌で “呍” を表している。


“阿”とは“ア音” で、音のひびき ことば 波動のことで、万有発生の理体と言われ、大極そのものを意味する。
“呍”とは万有帰着の智徳と言われ、大極が、求心的に凝集して有形に成ったもの、即ち大地を意味する。
このような物質観は、現代物理学の先端理論である波動力学の物質観と全く同じであることは驚く外はない。


大地は五行説では土性であり、至陰に属し、万物を受け入れてこれを消化し、事理を分別することから“智徳”として五行の基とされている。そして“陽” とは、一旦凝結して有形(陰)になった大極が「陰極まって陽となる」で、こんどは遠心的エネルギー(無形なもの)として発散して行く行動的な状態を言うのである。


古語に 「陽気の発するところ、金鉄もまた透る」とあるのは、 “陽” の遠心性の活動エネルギーを示しているのである。
 

このように考えると、桜沢氏が“陰”は遠心性、放散性 “陽”は求心性、凝集性と、わざわざ漢字の持つ本来の意味と正反対に定義して、言葉の混乱を招いた事は誠に遺憾としなければならない。


そして“陰” と言う漢字の意味は、もともと凝集性を意味しているから、充実臓器(肝 心 腎 等を陰性臓器としても当然であり、中空臓器 (胃 大腸 小腸 胆嚢 等)を陽性臓器としても、“陽”が放散性を示す文字であることからすれば、何等の矛盾は無いのである。


このように東洋医学の陰陽観は、大極と言われている宇宙エネルギーが凝集して有形になったものを“陰” と言い、一旦有形になったものが、無形のエネルギーとなって発散して行く過程を“陽”と定義しているのであるが、現代生理学の観点からみても、人体の生理が太陽エネルギーの日変化のリズム(既に進化順応の過程で“生体時計” として脳皮質に組み込まれているものと考えられる)によって


 昼は交感神経優位 (遠心的 発散的 外向的) つまり陽性

 夜は副交感神経優位(求心的 凝集的 外向的)つまり陰性

 

にコントロールされている事から見ても、東洋伝承の理論は、決して観念的なものではなく、十分に実体的、生理学的なものである事が解る。環境条件で温熱動騒等の現象に付いては、東洋古典、PUの両者ともに陽性としているけれども、古典の立場では、これらの現象は客観的に見た場合、外界に存在するエネルギーの発生源からの遠心的な放出エネルギーの波動(光 音熱)と見ていることになる。


この遠心性の陽気は、これを受ける側の人体にとっては一種の外圧波動として作用するので、これを感知した大脳はこの外圧に対処するため交感神経(外向性 遠心性 陽性)を昂進させて、生体のエネルギーを外に向かって放出する方向に作動する、即ち陽性の刺激に対しては陽性の生理状態で対処することになる。


ところがPUの見解では、これらの外圧的な刺激は、これを受ける人体の側から見れば求心的な刺激、即ちPUの定義で陽性の刺激と解されるので、陽性の刺激に対しては陰性(PUでは交感神経は遠心性で陰性と定義している)の生理状態で対処すると表現しているのである。


要するに、光音熱等の外界からの波動エネルギーを、古典では波動の発生源を基点として考えて、客観的に遠心性 (陽) と見るのに対し、PUでは波動を受ける人体を基点として考え、主観的な立場で求心 (陽) としているから、同じ“陽” の字を用いても、立場が全く逆になっている事を理解する必要がある。


桜沢氏は、陰陽の定義で遠心性、求心性を一度逆転させておいて、更に発生源から送られる遠心性の波動を、人体を基点とする求心性波動と置き換えてしまったのである。


そこで「逆の逆は正なり」で、陰陽の定義が逆転しているにも拘わらず、結果として同じ答えが出るのは此のような理由によるのである。しかし一般的に言って、男性は交感神経優位型の人が多く、女性には副交感神経優位型の人が多い事実、或は交感神経優位の昼の時間帯に人間は行動的になることからすれば、交感神経の昂進を陰性と性格付けることは極めて不自然と言わなければならない。


一方、物質が食品として消化管内に入った場合、いわゆる陽性食品(動物性 温かいもの 苦味、鹹味のもの等で両者共通)は、古典では遠心性として内部から作用する事になり、此れに対抗するために求心性の副交感神経の昂進が起こると考え、桜沢説では陽性食品を求心性と考えて、此れが消化管内に入ることで直接的に求心性の副交感神経の昂進をもたらすものとしている。


このように、二つの学説が陰陽の同じ文字を、時には同義的に、時には正反対に使用している現状は、一般の人々にとっては大変迷惑なことであるから、陰陽の呼称を一つのものに統一することが望ましいところであるが、なにしろ一方は数千年の歴史を持つ伝承であり、桜沢説は日本のみならず欧米にまで広まって、其の信奉者は数十万に達している現状では、その呼称の統一は実際上不可能と思われるので、東洋医学を学ぶ者は、両説の共通な表現と正反対な表現とを正確に認識して、誤解混同のないようにすることが肝要である。

 

※関川次郎『趣味の東洋医学』第十章 日本の食養理論 §1桜沢食養理論の問題点 より

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