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エンツェンスベルガー「真理を片付けることは、商品を片付けることほどにたやすくない」(今日の名言・その53)

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エンツェンスベルガー「真理を片付けることは、商品を片付けることほどにたやすくない」(今日の名言・その53)

エンツェンスベルガー「真理を片付けることは、商品を片付けることほどにたやすくない」(今日の名言・その53)

2023/01/23


 こんにちでは、真実のことばは、

 展開されうる以前に使い古されてしまうのだ。

 いいかげんに浪費され、

 つぎつぎに新型にとりかえられてゆく、

 短命の消費財のように、

 それは扱われている。

 すべての発言は、

 こういった人工的老化のプロセスを

 逃れえないように見える。

 人びとは、
 いわばひとつのことばを
 スクラップにすることによって、
 それを処理し終えたと信じこむ。

 しかし、ある真理を片付けることは
 ある商品を片付けることほどに、
 たやすくはない。

 

エンツェンスベルガー『政治と犯罪』より

※ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガーは、1929年に生まれ2022年に亡くなったドイツの詩人、批評家で、画像はこちらのページから拝借しました。
 

 

このエンツェンスベルガーの言葉は、

まさにいま、わたしがこうして書いている

この記事「今日の名言」のように、

いろんな人の言葉をピックアップしたり

紹介したりする行為自体に

警鐘を鳴らしているものなんですが、

自戒する気持ちも込めて取りあげてみました。

 

彼の名を初めて知ったのは、

わたしが高校生だった時に出会い、

こんにちまで40年以上にわたって

人生の師として私淑しつづけている

高橋悠治さんの著書からだったと記憶しています。

それにしても、

エンツェンスベルガーって響きが

何よりカッコイイっていうか、

一度聞いただけで

強く印象に残るほどインパクトがありましたね。

 

この言葉の載っている

『政治と犯罪』は1964年の著作らしいんですが、

わたしはこの本を読んだわけではありません。

 

したがって、ここに引用した文章自体が

どのような文脈で語られているものなのか、

また、この著作全体のなかで

どのような役割を果たすのかも知らないまま、

名言として切り取られた言葉を読んだため、

彼が本当に言いたかったことを

わたしが受け取れているかどうかは

甚だアヤシイのですが。

 

ただ、そもそも言葉というもの自体が

もともと多義的なもので、

著作物というのは、表現された時点で

著者を離れ、ひとり歩きし始めますから、

ただ一通りの解釈のみしか許さないというのもまた

偏狭な考えではないかと。

 

でも、彼が言うように、

ひとつのことばを
こんなふうにスクラップすることによって、
それを処理し終えたとは

信じ込まないように、

そして、真理というものは、

そんなに容易く理解できるものではないと、

肝に銘じておきたいものです。

 

さいごに、詩人でもある

彼が残した詩をひとつご紹介。

 

 

この国にわたしはいったい

失うものがあるのか

わたしの祖先は悪気なく

ここへわたしを連れてきた

ふるさとにいながら心やすまることもなく

安楽な悲惨のなかに

ここちよい穴倉のなかに住んで

わたしはここに不在なのだ

 

※エンツェンスベルガー詩集『国のことば』巻頭詩

 

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