四則演算には日常の思考や発想の基本となるエッセンスが詰まっている
2021/10/02
ある人がツイッターで、「四則演算とは、アイデア生成に当てはめて考える発想のフレームワークであり、1つのフレームワークの中に、問題分析、現状改善、理想追求という異なる発想のフレームワークを包含しています」「わり算とは、大きすぎる問題をコントロール可能な大きさまでドリルダウンする、問題点の発見のためのフレームワークです。切り口として目的軸、機能軸、時間軸、空間軸、人間軸、手段軸、経済軸で問題を捉え直す5W2Hを推奨しています」と書いていました。
らくだメソッドでの指導を今まで続ける中で気づいたことは山ほどあるのですが、その中にはこのツイッターに書かれている内容にかなり近いことがあるように気づいたので、今日はそのことについてすこし丁寧に書いてみようと思います。
お伝えしたいことの結論だけを最初に書いておくと、「算数で学習するたし算・ひき算・かけ算・わり算という四則演算には、単に計算することのみに終わらない、日常の思考や発想の基本となる大切なエッセンスが詰まっている」「その四則演算について〝単にやり方を知っているレベル〟を脱して〝自分の技術として自由自在に使いこなせるレベル〟まで習熟することが、日常生活における発想や思考等にも変革をもたらす可能性がある」となります。
たとえば、2×4=8は、2+2+2+2であり、8÷2は、「8から2を何回引いたら0になるか?」を示しているように、「かけ算」は「たし算」の拡張であり、「わり算」は「ひき算」の拡張演算でもあります。また、87-23=64 → 64+23=87となるように、「たし算」と「ひき算」とは逆演算の関係にあると言えるのですが、このように四則演算のそれぞれは個々に独立したものでなく、相互に密接な関連があります。
また、多くの人が小学校で、たし算→ひき算→かけ算→わり算の順番で学習してきたと思うのですが、この四則演算の中でもっとも難しいのは「わり算」です。たとえば、77÷9という計算をするとき、 9×8=72、77−72=5なので、答えは8あまり5となるわけですが、わり算は「ひき算」と「かけ算」の両方を使えないと解くことができません。
前にも書いたように、「かけ算」は「たし算」の拡張演算でもあるわけですから、「たし算」「ひき算」「かけ算」の3つの要素がすべて含まれる「わり算」が四則演算でもっとも難しいというのは、至極当然といえるでしょう。
さらに、わり算を解く際の思考プロセスにおいては、比較照合する発想も欠かせません。たとえば、前の「77を9で割るとき、いくつの商が立つのか?」で説明すると、9×9=81、9×8=72、9×7=63だから、81だと大きすぎ、63だと小さすぎる・・よって77を9で割るときの商は、9と7の間にある8になるわけですが、こうした問題を解くときに「三者を比較照合する」発想が活用できるのです。
もちろん、前の例はわる数が1けたですし、九九が正確であれば正解を出せる範囲の問題なので、「三者を比較照合する」という表現がやや大げさに感じられるかもしれません。ところが、537÷29、7653÷172など、わる数が大きくなってくると、よほど計算に長けた人でないと、適切な商がすぐには思い浮かばなくなり、余りもスグには出て来なくなり易しくありません。
このように、「わり算」の計算問題を解くというのは、一見単純そうに見えて実は非常に高度な思考を駆使している・・・つまり、わり算で最初にいくつの商が立つかを考えることは、「仮説を自分で立て検証をする練習」「未来への見通しを立てる練習」につながっているとも言えるし、さらには、ある数を別のある数でわるという演算は、「大きすぎる問題をどこまでブレークダウンすれば自分にアプローチ可能な大きさになるかを考える」という意味に解することもでき、ある仕事を与えられたときに、どのようにアプローチするかを見通しを立てる思考にもつながるように思うのです。
ところで、らくだメソッドでは、小学校4年生相当の教材に、「2桁以上のわり算」が組み込まれているんですが、この単元だけで16枚もあります。もし、単に計算のやり方手順をマスターするのが目的であるなら、16種類もの分量の教材を準備する必要はありません。わり算の計算問題について、単に「問題の解き方を頭で理解できている」レベルにとどまることなく、「そのやり方を自分の技術として自由自在に使いこなせる」レベルにまで習熟することを課題としているわけです。
そして、もうひとつ言えることは、「自由自在に使いこなせるレベルまで習熟する」ために、教師が生徒に「教える」行為はさほど重要でなく、どうしても必要な要素ではないことです。つまりそこでは、指導者が懇切丁寧に教えることよりも、「学習者が自分に必要な課題を自ら探し当てられるようにすること」や、「必要な課題を日々淡々と反復して学習できる環境を提供すること」「行き詰まったときにもネガティブに考えず現状を受容していく大事さを伝えること」等々が必要になってくるわけで、このことが、当塾が〝教えない教育〟をキャッチフレーズとしている理由の一つです。
開塾以来たくさんの生徒を見てきましたが、この2桁以上のわり算の単元がらくだメソッド「第2の峠」です(第1の峠は小学校2年生の引き算筆算)。この2桁以上のわり算の単元は、次の重要単元「分数の約分」の予備練習にもなっているんですが、俗に「小4の壁」と言われるのは、まさにここのことです。算数が苦手、数学ができないと思っている人の99%がほぼ例外なくこの「2けたのわり算」「分数の約分」単元で躓いているからです。ここをスンナリ通過できる人は少なく、大人の人でも16枚の教材すべてマスターするのに半年以上かかるケースも珍しくありません。
らくだメソッドの学習において、この「2けたのわり算」「分数の約分」を含んだ小学4年教材を通過する頃になってくると、子どもも大人も年齢問わず、いろいろなことに積極的にチャレンジするようになったり、多くの活動を同時並行的に行うようになったりするなど、日常生活の面でもさまざまな変化が現れてくることがすくなくありません。
わたしたちの日常の行動と一見何も関係なさそうな算数の学習ですが、なぜそうした変化が起きるのか、わたし自身も教室を始めたばかりの頃は不思議に感じていたんですが、ここまで書いてきたような思索を重ねてきたため、いまではごく当たり前の現象として受けとめられるようになりました。
たとえば、ビジネスの世界においても、「ロジカル・シンキング(論理的思考)が大切」ということが言われています。最近では、ロジカル・シンキングを鍛えるメソッドもいろいろ開発されているようですし、日常の思考や発想をさらに豊かなものにしたいと考える方もきっと少なくないでしょう。でも、小学校の算数で習った四則演算は、ロジカル・シンキングの土台をなすものと言え、算数の四則演算が正確にできていない状態で、ロジカル・シンキングを鍛えようとしても限界があるようにおもうのです。
もちろん、それには様々なアプローチが可能で、やり方は一通りではないとおもいますが、今から新しいことを学ぼうとするよりは、誰もが子どもの頃に学んだ義務教育の算数・数学をスラスラ解けるようになるまで学習し直すほうが得策であるように、わたし自身の経験からも感じているのですが、いかがでしょうか?(2013.8.19)