「情報の定量化」ってどういう意味ですか?
2022/03/17
今日は、2ヶ月ほどまえに
塾生の塩坂太郎くんからもらった質問に対して
わたしが答えた内容をもとに
書いてみようとおもいます。
Q:2/6にインタビューゲームを使った
イベントを企画していて、その準備をしています。
2017年(平成29年)後期に井上さんが
愛知淑徳大学でファシリテーター養成講座の
授業をされたときに使われたスライド集を
参考にさせてもらっているんですが、あの中に
「情報の定量化」って言葉がありますよね?
あれってどういう意味なんですか?
A:たとえば、初めて会う人が集まるような場で
「自由に自己紹介して下さい」というと、
人によって、長く話す人もいれば短く話す人もいて、
その場で受発信される情報量に
差が出てしまいますよね?
それで、らくだメソッドを開発された
平井雷太さんが考案されたインタビューゲームでは、
20分聞いて、20分で内容をまとめるんですが、
聞いた内容をまとめるときに
B6サイズのカードを使ったり、
ふりかえりの気づきを書き出すときに
7.5cm四方の付箋を使ったりするでしょう?
そのように、20分という時間的制約を設けたり、
カードや付箋のサイズを統一したりすることを
「情報の定量化」って言っているんですが、
これはファシリテーションを実践する上で
とても重要な視点なんですね。
この「情報の定量化」の目的は
大きく言えばふたつあって、
ひとつめは、
全体の情報量のばらつきや偏りを調整すること。
そしてふたつめは、
情報の生産性を高めることで、
とくにふたつめがとっても重要です。
B6サイズの情報カード(京大式カードともいう)を
使うことを最初に始めた人は梅棹忠夫さんなんですが、
大きさがA5でもA6でもなかったのは、
ちゃんと理由があって、そのあたりは
『知的生産の技術』に詳しく書いてあるので
読んでみてください。
たとえば、自動車や食料品など、工業製品を作る現場で
製造にかかる時間を短縮したり、
品質を落とさない工夫を施したりするなど、
生産効率を高める努力が日々なされていることは
多くの人が知っていることですよね。
知的生産・・・情報とかアイデアとかいった
無形のものを生み出そうとする
創造的な活動であっても、
そうした事情はまったく同じであるわけなんですが、
では、具体的にどうすれば、知的活動においても、
生産効率を高められるかという点については、
広く認識されているとは言い難い現状があります。
インタビューゲームで学習可能なテーマの一つが
〝編集〟ということなんですが、
人間という生き物は、さまざまな局面において、
この編集という作業を、良い意味でも悪い意味でも
無自覚なままに行っているんですね。
よって、知的生産の現場においては、
人間がもともと持っているそうした自然の力を
活用しない手はないわけで、そうした編集力を
プラス方向にはたらかせたいのであれば、
制約条件をどう設定するかがとても大切で、
場をファシリテートする人間には、
そのことに敏感であることが求められるんです。
「枠のない自由はあり得ない」って話を
よくしているんですが、つまり
まったく好き勝手にやっている状態においては、
自分の意識している範囲や、
行動している範囲が狭いのか広いのかとか、
能力が高いのか低いのかとかを
自分で知るコトって案外難しいんですよね。
でも、そうした中に敢えて枠を設けることによって、
その枠を拡げよう、突き破ろうという力が
自然に動きはじめるわけで、
そうした制約のある状況に突き当たることで
もともと備わっている編集力がはたらいて、
価値の高い情報が生まれる可能性が高まるわけです。
このことをサッカーという球技にたとえるなら、
サッカーには、ゴールキーパー以外は
手を使ってはいけないというルールがありますが、
「手を使ってはいけない」という枠があるからこそ、
サッカーという球技がクリエイティブなものになり
面白いスポーツになることと似ています。
経営ゲーム塾でも、ゲームプレイが終了した後、
ふりかえりタイムで気づきを書き出すときに
小さなラベルを使っているのも同じ理由で、
サイズが小さいから、
あのスペースにだらだら長い文章は書けないですよね?
だからといって「長い文章を書かないで下さい」と
進行する人が直接的に指示して従わせようとすると、
場の空気が乱れて、
生まれるものも生まれなくなってしまいますから、
あくまでその場にいる人一人ひとりの
自発的な行動の表れとして、
おのずと長い文章を書かなくなるように、
さりげなく仕掛けを施すところがポイントなので。
インタビューゲームを実際に何回か経験されると、
聞く時間やまとめる時間ががなぜ20分なのか、
なぜB6サイズのカードを使うのか、
そうした理由が単なるおもいつきではなく
編集工学の裏付けに基づいて生まれた
洗練されたスタイルの学習プログラムであることが、
どなたにも納得できるとおもいます。
平井さんは、編集工学研究所の松岡正剛さんを
一時期、師匠として仰いでおられたことがあって、
「もし、松岡さんがいなかったら、らくだメソッドも
インタビューゲームも生まれていなかった」と
よく仰っていました。
らくだメソッドのプリントのサイズが
すべてB4サイズで統一されていることも
この「情報の定量化」のひとつの例であるし、
らくだメソッドもインタビューゲームも
松岡さんの提起されている編集工学の施された
すぐれた成果品と言えるでしょうね。
まあただ、その施され具合があまりに見事で、
誰もがすぐにはわからないようになっているのが
玉に瑕なんですが・・・笑
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余談ですが、塩坂くんが2/6に行った
インタビューゲーム会のレポートが
こちらのblog記事にアップされていますので、
ご覧になってみてください。