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平野啓一郎『私とは何か 「個人」から「分人」へ』(その4)

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平野啓一郎『私とは何か 「個人」から「分人」へ』(その4)

平野啓一郎『私とは何か 「個人」から「分人」へ』(その4)

2024/07/14

昨日投稿した記事の続きです。

 

平野啓一郎さんの著書

『私とは何か 「個人」から「分人」へ』

とっかかりに、

「私とは何か?」という問いについて

考察しはじめていて、

この記事で4回目となりました。

 

先回の記事では、平野さんの原作による

TVドラマ『空白を満たしなさい』の

サウンドトラックを紹介したんですが、

ジャケットにゴッホの自画像が

たくさんありましたね。

 

 

ドラマをご覧になった方は

ご記憶かとおもいますが、

どれか1枚の絵だけを

本当のゴッホとみなすのではなく、

あの1枚1枚の自画像がすべて

本当のゴッホなんだとみなすのが、

分人主義的な受け止め方といってよいでしょう。

 

また、昨日の記事では、

釈迦の悟り(五蘊無常無我)と

分人主義の考え方の関係を考えたり、

池谷裕二さんの

幽体離脱を起こす脳部位があるって話や

たまたま見つけた

為末さんのX投稿記事を紹介したりしました。

 

為末さんの投稿記事は、

この「私とは何か?」という問いを考える上でも

核心を突いたものでしたが、

非常に端的で短い文章だったので、

こういう問題を考えたことがない人にとっては、

すこしわかりにくかったかも知れません。

 

それで、為末さんがご自身のYouTubeチャンネルに

この6/5にアップされた動画が、

Xの内容とほぼ同じテーマに触れたものだったので

今日はそれをご紹介しようとおもいます。

 

動画文字起こしして講義録も作成しました。

 

質問コーナー:為末さんは「向き合う」「学ぶ」ことに関して、どのようにお考えでしょうか?

 

(講義録の引用ここから、太字化は井上)

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はい、質問コーナーです。


Q:心身のバランスを崩して以来、自分と向き合うことを念頭に過ごしてきました。状態が良くない時期よりは、少しずつ外界への関わりを求めつつも、自分を慮ることを同時に並行しながら歩んでいる日常です。最近ふと思ったことがあります。考えれば考えるほどにわからなくなってきて、このままにしておこうかなと思う機会が多くなりました。向き合う、学ぶことは重要ですが、あまりそこに浸りすぎずに、メリハリをつつけることができたらいいなと思っています。でも、自分なりのメリハリのつけ方、心身のバランスの整え方が定まらず、現時点にいる自分のマイナスな感情に支配されがちです。疲れ具合も把握しづらいことがほとんどです。為末さんは向き合う、学ぶことに対してどのようにお考えでしょうか、また心身のバランスの取り方の塩梅を見つけていく思考や、体感的な部分を鍛える方法があれば教えていただきたいです。私はスポーツとは無縁の生活をして来ました。このような場で設問することに悩んだのですが、為末さんのお話から全く関わりのなかった分野でも触れてみることで、一味違った生き方のエッセンスを抽出できるようです。ありがとうございます。スポーツと人生には通じる部分がたくさんあるように感じました。ラジオや動画で拝見し、考え方生き方の観点にいつも惹かれていたので、思い切って質問することにしました。よろしくお願いいたします。


A:ありがとうございます。あの私、これがテーマなんですね。スポーツと社会をつなぐっていうことがテーマで、同じものがあるんじゃないかっていうことで、その同じものの1番大きいのは「自分の扱い方」ですね。これにどちらでも悩むので、私はどっちも悩んできた人間なので、そういう意味では、相互に情報がやり取りされるのはいいなという風に思っています。また、ここではスポーツの人の質問が多いですけど、スポーツに限っていないので、こうした質問を頂かない限り、「そうそう!これいいんだ!」ってことにはならないし、ものすごく貴重なご質問で、送っていただいてどうもありがとうございます。


さて、おっしゃってるポイントを私なりに考えると、自分と向き合うっていうこと———これってどういうことかって言うと、ベクトルを自分に向けるってことなんだろうと思うんですね。一方で、社会はアウトプットが重要ですね、やっぱり。試験に受かる、会社で仕事をする、誰かになんか働きかけるって、向こう側にベクトルが向かうわけですね。この方向がやっぱり全然違うんですね。同じ自分を知るっていうのでも、自分は何が好きか知ってるってのと、自分がどう見られてるか知ってるってのは、全然違うベクトルで、むしろ相関どころか、片方が得意だと、片方が苦手になるっていう理解でいます。ちなみに私の理解では、自分が何を好きかを知ってるのは男性に多く、自分がどう見られてるかを知ってるのは女性に多いという、そんな勝手に分類してるんですが、だから、どっちかの悩みも、それで悩んでるっていう方向が多いなという風に思います。


えっと、おっしゃってるところで、どうすれば———自分と向き合うことを頑張りましょうということと、それから塩梅ですかね。心身のバランスの取り方の塩梅、これをどうやってやったらいいのってことだと思うんですけど、一言で言うと、心身のバランスがいい状態ってのは、流れがいい状態だっていうことだと思ってます。流れって言うと、ちょっとスピリチュアルみたいな気分になりますけど、そういう感じってよりも、簡単に言うと、考えるべきことを考えて、そうじゃないことが手放されてるっていうことですね。


さっきの文脈で言うと、自分と向き合うこともありながら、外を向いてるってこともあるという、このバランスがいいってことなんですね。情報が入ってきては流れていく、その中のいくつかのことは、ピックアップして感じとるみたいな、こういう自分の体をいろんなものが流れていくっていう状態にしておくことが、バランスがいいと思ってます。1番心身のバランスが崩れやすいのは、どこかに良い心、体の状態があり、それを見つけに行って、そこに自分を固定させようとしに行くっていう思想自体が、非常に人を何かに固執させたり、ある正解を求めたり、あるロジックを求めていくってことになりがちなんですね。だから、今やられようとしてることは非常に正しいと思っていて、このままでいいかなっていうことで流していくっていうことは大事かなと思ってます。


アスリートの方で、何か悩みが深くなるっていう選手たちと、「もうちょっと考えろよ」とか思いながら、あんまり悩まず楽しくやってる選手たちの違いを見ていく時に、結構言葉の中に多いのがですね、「根本的に」とか「抜本的に」って言葉が多い選手は、悩みが深くなりがちなんですね。これどういうことかって言うと、ある物事や問題があって、それを全部ひっくり返すとか、全部を解決できるような、つまり全ての面から正しい状態があるんじゃないかっていう風にどこかで思っているわけです。だから根本や抜本って答えが出てくるんですけど、一言で言うと、人生はちょっと引いた目線で見ると、全て対処療法なんですね。つまり、なんで生きていくのかとか、どうして自分はこういう苦しいのかっていうこと自体が、何か根本から解決できるようなリソースがあればいいんですけど、ないわけです。


そもそも私たち、自分で選択して生まれてきてなくて、I was born.っていうぐらいだから、ある日生まれちゃってるわけですね。生まれたらこの世の中の社会の様々な複雑な中にあり、その中を生きていくわけですよね。そう考えていくと、自分なりにはこうかなって思う着地はあったとしても、全ては対処療法的で、死ぬまで折り合っていくだけとか、死ぬまでちょっとまあなんかこれは一緒に暮らしていくかなみたいな、そういうものの方が私は多いんじゃないかと思ってます。


イメージでいくと、自分の隣の家にイチョウの木があって、毎年イチョウの木が季節になると葉っぱが落ちてきて、うちの家の前にも落ちてくると。あのイチョウの木さえ切れば、この苦しみは解決されるのにと思うんだけど、でも、人生のほとんどは、そこに落ちてくる葉っぱを掃いていく、掃きながらその掃除をするっていうこと自体を、いかに楽しむかっていうことが人生なんだろうと思ってます、切れないわけですね、木が。いくらそれが原因だと思ってても、そんな感じで折り合っていくんだろうなという風に私は思ってます。


なので、自分と向き合うていうのは、自分はなんでそう思うように至ったんだろうてことを考えることと、そして一通りそれが1日のうちに終わってみたら、目の前のものに夢中になりながら、野菜育てるなり、花に水やるなり、ペットを飼うなり、料理を作るなりしていって、まあ、何の解決もできなかったけど、今日も1日生きていたなという、この繰り返しなんじゃないかなという風に私は思ってます。


1つだけポイント。どのような場所を見つけるかってところ、体感的にわかるってことが何かアドバイスできるとしたら、ルーティンは人間の幸福には結構強力です。ですので毎朝これをやるとかですね、毎日これをやるとか儀式的なもので、自分自身の1日をくるくる回していくっていうことは、フローを作っていく上で私は重要なんじゃないかと思いますので、それは是非試してみていただければと思います。


こちらのQ&Aコーナーは、スポーツに全く限っていませんし、私は何でも喋る人間なので、「これでもなんか喋るの?」っていうことを、色々聞いていただければと思いますし、「何々とは何か?」みたいなのは、私の大好物な問いなので、それも聞いていただければと思います。

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(講義録の引用ここまで)

 

 

この続きはまた明日に!
 

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