寺子屋塾

サン=テグジュペリ『星の王子さま』より「王子と狐の対話」

お問い合わせはこちら

サン=テグジュペリ『星の王子さま』より「王子と狐の対話」

サン=テグジュペリ『星の王子さま』より「王子と狐の対話」

2024/09/02

今日は本の紹介記事です。

 

1943年、つまり戦前に刊行され、

80年以上にわたって世界中で読まれ続けている

『星の王子さま』を。

 

本書は書店では、児童書のカテゴリーに

ジャンル分けされることが少なくないので、

子どものために書かれた本とおもわれている人が

少なくないようです。

 

でも本書は、パイロットでもあった

サン=テグジュペリが1935年にリビア砂漠で

飛行機墜落事故に遭遇した実体験に基づいて書かれ、

序文には、

困難に陥っているおとなの人に捧げる

書かれています。

 

今日紹介するのは、真ん中あたりに登場する

狐と王子さまの対話を記した章なんですが、

『仲良しになる』ってどういうこと?

「きまりって、何のこと?」

狐が話す言葉に、

王子さまはさまざまな問いかけをします。

 

本書の中では一番有名なフレーズ、

「心で見ないと物事はよく見えない。」

この章の最後の方に登場していて、

その他にも、

言葉というものが誤解のもとだ。

などなど、含蓄のある言葉から

きっといろいろなことを

考えさせられることでしょう。

 

この倉橋由美子さんによる翻訳版は、

最後に書かれた翻訳者あとがきを読むだけでも

価値があるように感じますし、

こんにちでは文庫化され入手しやすいので、

ぜひ手に入れて読んでみてください。

 

ちょうど先月は

内的観点と外的観点の両方を同時にもつ

というテーマで15回の記事を書き、

人間の心とはどういう構造になっているのか

ということにも言及したばかりなので、

もしかしたら、

星の王子さまを既に読んだことがある人にも

違った読み方ができるかもしれません。

 

 

(引用ここから)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

狐が現れたのはそのときだった。
「こんにちは」と狐がいった。
「こんにちは」と王子さまは丁寧に答えて振り返ったが、何も見えなかった。
「ここだよ、林檎の木の下だよ」という声がした。
「きみは誰? かっこいいね……」と王子さまがいった。
「おれかい? 狐だよ」と狐がいった。
「ぼくと遊ぼうよ。ぼく、とても悲しいんだ」
「おれはあんたとは遊べない。まだ仲良しになってないからね」
「そうなのか。ごめんね」と王子さまはいった。しかしちょっと思案してからいった。
「『仲良しになる』ってどういう意味?」
「あんた、このあたりの人間じゃないね。 何を探してるんだ?」
「人間を探してる。『仲良しになる』って何のこと?」
「人間は鉄砲を持っていて、狩りをするんだ。まったく困ったもんだ。鶏も飼っている。人間はそんなことしか興味がないんだ。あんた、鶏を探してるのか?」
「違うよ。友だちを探してるんだ。『仲良しになる』ってどういうこと?」
「これはしょっちゅういい加減にされることだけど、『関係をつくる』ってことさ」
「関係をつくる?」
「ああ、そうだ」と狐はいった。「おれにいわせると、あんたはほかの十万の男の子とまったく同じような男の子だ。だからおれはあんたを必要としない。あんたも同じで、おれを必要としない。おれは十万もいる狐と似たようなもんだ。ところがおれがあんたと仲良しになると、おれたちは互いに相手が必要になる。あんたはおれにとってこの世にたった一人の男の子になるし、おれはあんたにとってこの世にたった一匹の狐になる……」
「話がわかってきたよ」と王子さまがいった。「花が一本咲いててね…… ぼくはその花と仲良しになったんだ……」
「たぶんな。地球ではよくあることだよ」
「いや、これは地球での話じゃない」
狐はすっかり興味をそそられたようだった。
「ほかの星での話かい?」
「うん」
「その星に猟師はいるのか?」
「いないよ」
「そいつは面白いや。鶏は?」
「いないよ」
「どうもうまくいかないな」といって狐はため息をついた。
しかし狐は話をもとに戻した。
「おれの暮らしは単調だ。おれは鶏をつかまえる。人間はおれをつかまえる。鶏はみな同じようなものだし、人間もみな同じようなものだ。それでおれは少々退屈してるんだ。だけど、あんたがおれと仲良しになってくれたら、おれの生活も太陽がいっぱいということになる。ほかの足音とは違う足音がわかるようになる。ほかの足音だと、おれは穴の中に隠れてしまう。でもあんたの足音がしたら、音楽だと思って穴の中から出てくる。それにほら、向こうに麦畑が見えるだろう。おれはパンなんか食べない。麦なんてまったく役に立たない。麦畑はおれに何も話しかけてこない。残念なことだ。だけど、あんたは金色の髪をしている。おれがあんたと仲良しになったら、麦畑はすばらしいものになる。金色の麦を見ると、おれはあんたを思い出すわけだ。そして麦の上を渡る風の音も大好きになる……」
狐は黙って長いこと王子さまの顔をじっと見ていた。
「お願いだから仲良しになってほしい」と狐がいった。
「ぼくもそうしたいけど、あまり時間がないんだ。友だちも見つけなきゃいけないし、知らなきゃいけないこともたくさんある」
「仲良しになった相手でないと知ることはできないね。人間ときたら、今ではもう何を知る暇もない。店で出来合いの品物を買うだけだ。友だちが買える店なんてありっこない。だから人間はもう友だちなんか持てない。友だちがほしかったら、おれと仲良しになることだ」
「でもどうすればいいの?」と王子さまは尋ねた。
「辛抱強くすることだよ」と狐が答えた。「最初はおれから少し離れて、そこの草の上に座る。おれはあんたを目の隅で見る。あんたは何もしゃべってはいけない。言葉というものが誤解のもとだ。一日ごとにあんたはだんだん近づいてきて座れるようになる」


次の日、王子さまはまたやってきた。
すると狐がいった。
「同じ時刻に戻ってくるほうがいいんだけどね。たとえば、あんたが午後四時にやってくるとすれば、おれは三時にはそろそろ嬉しくなる。四時が近づくにつれてますます嬉しくなる。四時にはすっかり昂奮して落ち着かなくなる。幸せにはそれなりの代償もあるということに気がつくだろう。あんたが、いつでもかまわずにやってきたら、気持ちの準備をいつすればいいかわからない……きまりというものがいるんだ」
「きまりって、何のこと?」と王子さまがいった。
「それがまた、いい加減になっていることが多いんだな」と狐がいった。「ある一日はほかの一日とは違うし、ある一時間はほかの一時間とは違う。これは事実だ。たとえば、おれを追っかける猟師にだって、きまりというものがある。猟師は木曜日に村の娘たちと踊る。で、木曜日はおれにとってすばらしい日になる。その日は葡萄畑まで遠出することができる。だけど猟師がいつでも好きなときに村の娘と踊ることになったら、どの日も区別がなくなって、おかげでおれには休日もなくなる」

王子さまはこんなふうにして狐と仲良しになった。だが別れのときが近づいてきた。
「ああ、おれは泣いちゃうだろうな」と狐はいった。
「そのとおりだよ」
「それはきみがいけないんだよ」と王子さまはいった。「ぼくはきみに何も悪いことをするつもりはなかった。きみはぼくに仲良くしてもらいたかったんだね……」
「でも、きみは泣きだすんだろう?」
「そうだよ」
「じゃあ何もいいことなんかないじゃないか」
「いや、ある。麦畑の色があるからね」
それから狐はまたいった。
「もう一度、バラを見てごらん。あんたのバラがこの世界に一つしかないってことがわかるから。それから、さようならをいいにここに戻ってきたら、秘密の贈り物をあげるよ」

王子さまはもう一度バラを見にいった。
「きみたちはぼくのバラの花とはまるで違うね」と王子さまはいった。「きみたちはまだ何者でもない。誰もきみたちを仲良しにしたわけじゃないし、きみたちも誰かを仲良しにしたわけじゃない。ぼくがはじめてあの狐と出会ったときと同じだ。狐はほかの十万匹の狐と変わらなかった。でも彼を友だちにしたんだから、今ではこの世界に一匹しかいない狐だ」そういわれてバラたちは恥ずかしい思いをした。
「きみたちは美しい。でも空しい。人はきみたちのために死ぬ気にはなれない。そりゃ、ぼくのバラだって、ただの通りがかりの人が見ればきみたちと同じようなものだと思うかもしれない。だけど、ぼくのバラはそれだけで、きみたち全部を一緒にしたよりもずっと大切なんだ。だって、ぼくが水をやったんだからね。覆いガラスもかけてやったし、衝立で風も防いでやったんだから。毛虫も(二つ、三つは蝶々になるようにそのままにしたけど)殺してやった花だから。不平にも自慢話にも耳を傾けてやったし、黙っているときでさえも耳を傾けたんだから。彼女はぼくの花なんだ」

それから王子さまは狐のところに戻ってきた。
「さようなら」と王子さまはいった。
「さようなら」と狐がいった。「おれの秘密を教えようか。簡単なことさ。心で見ないと物事はよく見えない。肝心なことは目には見えないということだ」
「肝心なことは目には見えない」と王子さまは忘れないように繰り返した。
「あんたのバラがあんたにとって大切なものになるのは、そのバラのためにあんたがかけた時間のためだ」
「ぼくがバラのためにかけた時間……」と王子さまは忘れないように繰り返した。
「人間というものはこの真理を忘れているんだ。だけど、忘れてはいけない。あんたは自分が飼いならしたものに対してどこまでも責任がある。あんたはあんたのバラに責任がある」
「ぼくはぼくのバラに責任がある……」と王子さまは忘れないように繰り返した。

 

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(訳:倉橋由美子)『新訳 星の王子さま』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

●2021.9.1~2023.12.31記事タイトル一覧は

 こちらの記事(旧ブログ)からどうぞ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
☆寺子屋塾に関連するイベントのご案内☆

 9/8(日) 第27回易経初級講座

 9/29(日) 第27回 経営ゲーム塾B

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

◎らくだメソッド無料体験学習(1週間)

 詳細についてはこちらの記事をどうぞ!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。