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TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その53)

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TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その53)

TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その53)

2026/04/03

2/10からこのブログでは、

TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集を

お届けしているんですが、

1話につき1シーンずつ

順番に追いかける形で紹介していて、

この記事で53回めになりました。

 

ドラマ『逃げ恥』は

アマゾンプライムなどで手軽に視聴できますから、

観たことがない方も、

この記事にアクセスされたことを契機に

是非ご覧になってみて下さい。

 

今日は第9話の冒頭部分で

タイトルバックが流れる直前のシーン、

仕事からマンションに帰ってきた平匡とみくりが

食事をしながら会話を交わす場面を。

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〔平匡のマンション・リビングにて〕

みくり:館山まで迎えに来てくれて、嬉しかったです。

平匡:……会えませんでしたが。

みくり:はい。

平匡:帰りました。

みくり:お帰りなさいっ!

平匡:ただいま帰りました!

みくり:フフフッ…言ってませんでしたね。

平匡:言ってませんでした。

みくり:帰るなり、しちゃいましたもんね、先週分のハグ。

平匡:今日も火曜日です。

みくり:

平匡:……。

みくり:……今日の分は食後に。

平匡:食後もいいですが、貯金はどうでしょう?

みくり:…貯金!?

平匡:前借りがアリなら貯金もアリなんじゃないかと。貯めておいて、癒されたいときに払い出す…

みくり:〔ちょっと呆れた感じで〕わたしは常備薬ですか?

平匡:もちろん、みくりさんが癒されたいときもあると思うので、そこは応相談で。

みくり:……

平匡:いずれにせよ、システムの再構築が必要です。

みくり:??……。システムの、再・構・築?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』第9話より

 

 

COMMENT:館山への離脱期間を経て、ようやく平匡のマンションに帰還したみくり。再会を喜ぶ二人のやりとりはとても微笑ましく、交わされる言葉に恋人同士の睦言のような〝甘さ〟を感じる人もきっと少なくないでしょう。けれど第9話の幕開けとして置かれたこのシーンは、一見ラブラブな会話の形をしていながら、どこか「この甘さだけでは終わらない」気配も漂っている。

というのも、この時点ですでに二人の会話には、気分や勢いではなく「取り決め」や「運用」の匂いが混ざっているからです。ハグの話をしているのに、さりげなく条件交渉になっていく。この小さなズレが、のちの波乱を先取りしているようにも見えるんですね。

 

(その49)の記事で「感情の表出よりも、ハグの直後に訪れる〝沈黙〟のほうにある」というコメントを書きましたが、今回もその〝沈黙〟に着目しながら書いてみようかと。あらかじめお断りしておきますが、見えないものを可視化し言語化しようとする都合上、今日のコメントも少し長くなるかもしれません。

 

まず、「お帰りなさいっ!」「ただいま帰りました!」たったこれだけのやりとりにも、すでに見えない〝二人のルール〟がある。帰宅の挨拶が、その確認作業になっているような。二人だけが共有している見えない台本がそこにある感じというか。だから、会話の内容よりも先に、画面に漂う〝間〟の方に目がいくわけです。セリフとセリフの間にある沈黙「……」です。
 

沈黙ってふつう「気まずさ」か「照れ隠し」か、どちらかに回収されがちです。ところがこのドラマの沈黙は、私は別の役割を担っているように見えました。ひとつは、会話を生々しくしすぎないための沈黙。もうひとつは、対等性を保つための沈黙です。
 

平匡が「今日も火曜日です」と言った瞬間、みくりの目が一瞬泳いで、場の空気が一段だけ固くなりました。ここで二人の頭の中に、「今日の分、どうする?」という同じ問いが立つ。でも、この問いを言葉で真正面からぶつけてしまうと、途端に生々しくなっちゃうんですね。だから二人は沈黙する。沈黙することで、場の温度を下げずに、次の言葉を置ける余白をつくっているんじゃないかと。だからこそ、みくりの「今日の分は食後に」が、甘い言い方なのにちゃんと条件提示として響くんだとおもいます。
 

そして平匡が、そこに透かさず次の一手を打つ。「前借りがアリなら貯金もアリなんじゃないかと。貯めておいて、癒されたいときに払い出す…」出ました、貯金!恋愛ドラマでハグが〝貯金〟になるという、この奇妙な違和感が、ここだけにしかないオリジナルな笑いになる。でも同時にこの言葉には、平匡らしさがにじんでいます。気持ちを気持ちのまま放置しない。言語化し、仕組み化して、続けられる形にしたい。そういう意志が感じられる言葉でした。
 

ただ、この「癒されたいときに払い出す」という発想は、一歩間違えると、みくりの存在そのものが〝機能〟に回収されかねない。そこで「〔ちょっと呆れた感じで〕わたしは常備薬ですか?」と返すみくりが、また上手いですね〜。ツッコミとして笑えるけれど、これは関係性の線引きの言葉でもあって。制度化が嫌なのではなく、制度化の結果として、自分が便利な道具みたいに使われてしまうのは嫌だ、という確認でしょう。常備薬って便利です。置いておくだけでいつでも使える。でも、薬自体は感情も意志もないわけで。
 

だから、みくりはここで問う。「わたしって平匡さんの回復アイテムとして棚に置かれる存在なんですか?」「それとも、同じ人間として合意していくパートナーですか?」と。ここで挟まる沈黙は、「相手を対等に扱う」という前提が、ちゃんと共有されたかどうかを確かめる沈黙に見えました。怒りで詰めるのでなく、軽口と沈黙で温度を保ちつつ境界線だけは置き直す。これがドラマ『逃げ恥』の醸し出す大人っぽさなんでしょうね。
 

案の定、平匡から「いずれにせよ、システムの再構築が必要です」と硬い言葉が発せられる。ITシステムエンジニアの平匡なので、ビジネスの現場なら何の違和感もない言葉でも、家庭のリビングで使われるには硬すぎる。だからこそ、そのギャップと、そこで一瞬流れる沈黙が、『逃げ恥』ならではの笑いを誘う。
 

ただわたしは、この硬さにこそ平匡らしい誠実さも感じるんですね。気持ちでごまかさず、不具合を見つけたなら直したい。論語にある「過ちを改むること憚ることなかれ」です。恋愛でありがちな「察してよ」と相手に求めるのではなく、自分から「仕様変更しよう」と言う。ここに平匡のまっすぐな愛情表現がある。ほんっと成長してますよね。
 

でもみくりは、その言葉をそのまま受け取らない。一瞬〝沈黙〟の時間が流れた後に、ゆっくり分解して「再・構・築?」と返す。相手の硬い言葉をいったんバラして場に置き直すから、会話が柔らかくなるし、笑いも生まれる。全面肯定も全面否定もしないでいられる距離感が保たれる。みくりのこの返しは、〝対等性の確保〟の極意と言えるものではないかと。

だからこの場面は、ただ微笑ましい二人の睦言が交わされているだけじゃなく、沈黙をはさみつつ、互いの温度を守り、対等性を確認しながら、関係が壊れないための調整が同時平行的に進行している。甘さの中に「運用」と「合意」が混ざっているからこそ、幕開けのシーンとして、これから起きる波の気配までふっと立ち上がってくるんだと、そんなふうに感じました。



「井上さんはなぜTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿しているんですか?」と聞いて下さる方があるんですが、その理由は(その1)の記事のコメントをお読みください。この名セリフ&名場面集で紹介しているセリフは、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を土台に、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』を参考にしています。

ちなみに、3/31に投稿した(その50)の記事には、それまでに投稿したその49までの記事INDEXと、逃げ恥関連記事リンク集を載せました。これまでの記事に未読のものがある方は、そちらから参照してください。

 

この続きはまた明日に。(^^)/

 

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