コンテキスト・リーダーシップについて 〜山口周さんの動画・文字起こし(その2)〜
2026/09/29
昨日投稿した記事の続きで
山口周さんが2026年4月に出版された
について語られているYouTube動画の
文字起こしテキスト2回目をお届けします。
昨日の記事を未読の方は、
以下を読まれる前にどうぞ。
YouTube動画を再度シェアしておきます。
【最高の上司、最悪の上司】リーダーの評価は「印象」で決まる
※これまでの記事のようにサムネイル画像を
この位置に貼り付けようとしたんですが
何故か昨日からサーバーエラーで出来ません
時間を置いてリトライしてみます
ちなみに、昨日の文字起こしテキストは
16分20秒まで紹介したので、
今日の記事はそれ以後31分40秒までです。
(文字起こし・ここから)
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どこから文脈を遡って考えるか
磯貝:これ、どこから遡って文脈を考えていけばいいのでしょうか?コンテキストということですよね。
山口:ケースによります。ただ、結局それも、自分の中の行為論としてのリーダーシップと、文脈論としてのリーダーシップという対比の構造で考えてもらえばいいと思います。世の中に出ているリーダーシップ論は、「優れたリーダーはこれをやる」「これをやる」「これをやる」という、全部行為論なんです。もちろん、そういうものはすごく多いです。
でも、行為論の最大の問題は、行為論のリーダーシップに囚われると、自分の注意の対象を自分に向けてしまうことです。当たり前ですよね。「自分はこれをやれているか」「これを今日やれたか」 全部、自分に向かうわけです。一方で、文脈論としてのリーダーシップ、つまりコンテキストとしてリーダーシップを捉えるようになると、「相手と自分の関係性はどうか」とか、「相手と自分が、どういう文脈の中で今ドラマを作っているのか」というところに注意が向かいます。そうすると、注意の方向は相手や環境に向かっていくわけです。
そうすると、今の磯貝さんの質問は、まさにそうなんです。どこから過去を遡ればいいかと言うと、自分の中の記憶に戻っていくのではなく、相手と自分のインタラクションを見る。過去において、相手と自分の間にどういうことがあったのか。いつからこの人は、少し自分と距離を置くようになったのか。そういうことを考えるようになる。すると、相手と自分が登場する舞台劇の中で、どういうドラマが蓄積されてきたのか、ということに注意が向かいますよね。ですから、本当に注意を向ける対象が180度変わるということが起こるんです。それが起こらないと、おそらく状況は変わらないと思います。
磯貝:頑張ろうとすればするほど、今のままだと自分の方に意識を向けてしまう。見てもしょうがないところをどんどん掘り起こして、無駄な努力になってしまいがちだということですね。本の中でも、「リーダーシップ」の「シップ」がつく言葉についてのお話がありました。
山口:そんな話をしましたね。この本のテーマはリーダーシップです。日本語でもよく言われますけれども、他に「シップ」がつく言葉には、たとえばフレンドシップとか、パートナーシップ、スポーツマンシップがあります。それらの共通項は何かというと、すべて相手があるということです。パートナーシップもそうですし、フレンドシップも友達関係です。スポーツマンシップと言えば、競争する相手がいるわけですよね。
ところが、リーダーシップという言葉だけは、なぜか能力や資質のように捉えられてしまっています。スタンドアローンのものとして捉えられているんですね。でも本来、リーダーシップの「リードする」というのは、日本語で言うと「導く」です。一人では導けないですよね。
磯貝:そうですね。
山口:必ず周りに誰かがいて、その人たちを導いていく。ですから、リードする主体と、リードされる人たちとの関係性についての概念であるはずなんです。ところが、なぜか日本語では、リーダーシップが能力のように捉えられてしまっている。その認識の転換もしないと、リーダーシップというものを見誤ってしまうということです。
磯貝:山口さんからご覧になって、そういうリーダーシップに関して「関係性が重要なのだ」という捉えられ方は、現状どのくらいあるのでしょうか?
山口:全く日本ではされていないと思いますね。もちろん、リーダーシップの専門家や組織開発の専門家の方たちは分かっていると思います。でも、少なくとも書店の棚に並んでいるリーダーシップ関連の本、ベストセラーランキングに入っているようなリーダーシップ系の本を読むと、ほぼ100%、スタンドアローンの行為論として、能力として捉えるというパラダイムで見てしまっている気がします。
磯貝:専門家の方の間では知られていても、現場にはなかなか知られていない、共有されていない現状があるということですね。なぜ、それが進まないのでしょうか。単純に知られていないからなのでしょうか?
山口:まず、言葉としての問題がありますよね。欧米の社会で「リーダーシップ」というと、「シップ」という言葉がついている時点で、そもそも関係性についての概念だというベースがあります。これはコンピテンシーではない、ということです。でも、そもそも「リーダーシップ」という言葉自体が、そのまま日本語として当てはまるものがない。だから、カタカナの「リーダーシップ」になっているわけです。
昔、明治時代には「統率術」のような日本語が当てられた時期もあったんです。でも、やっぱり少し違うということで、そのままカタカナの言葉として入ってきてしまった。要するに、日本の社会には、これを受け皿にするような、皮膚感覚、手触りのある概念がなかったわけです。
磯貝:ないところにその概念を輸入しようとしてきて、こぼれ落ちてしまった部分があるということですね。
山口:そうですね。そういう言葉はいろいろあります。たとえば「個人」とか「社会」という言葉もそうですよね。もともと江戸時代にはなかったわけです。「個人」は〝individual〟という言葉を、無理やり日本語に当てはめた。「社会」は〝society〟や〝social〟という概念を受け止めるための漢字として、人工的に作られました。でも、リーダーシップについては、それを言葉として作られることすらなく、カタカナのまま使われるようになったということです。
磯貝:抜け落ちている部分が現状ある。しかも、そこには本当は大切な部分があるということですね。
山口:そうですね。「リーダーシップ」という言葉が、上滑りしたまま、本来のニュアンスとかなり異なる形で日本社会に定着したということです。「リーダーシップという言葉を知っていますか?」と聞けば、みんな知っていると言うわけです。でも、面白いのは、「では説明してください、定義してください」と言うと、これも先ほどの定義論の話と同じで、バラバラになるんです。コンセンサスの取れた定義は、実はないんですね。
磯貝:今、山口さんが定義するとすると、どうなりますか。
山口:僕が一番信頼を置いていて、腹落ち感のある定義をされているのは、立教大学の中原淳先生です。中原先生は、リーダーシップを一つの現象である、と言われています。ある個人が、周囲の人たちを率いていくぞという態度を見せている。周囲の人たちが、「あ、この人についていこう」と思っている。そういう状態が発生している。この一種の社会現象を、「リーダーシップが発現している」と言う。中原先生は、リーダーシップを一種の現象として定義しています。 僕は、その定義が一番しっくりきますね。
磯貝:関係性ありきということですね。 一人で完結するものではなく、そうやって発現する現象のことなのだとすると、まさに一人でどうこうという問題ではないなと思います。
山口:だから、能力としてもともと持っている人がいて、それを発揮するというよりは、関係性の中で立ち上がる一種の現象だということですよね。
磯貝:確かに、たとえばマイクロマネージのようなものでも、「本当に口うるさくて嫌だ」と思っていた人が、夜な夜な一人で残って作業している姿をたまたま見た。そこから、「やっぱりついていこう」となるようなドラマもあるなと思いました。
6つのリーダーシップスタイル
磯貝:リーダーシップを考える上で、そういうコンテキストは絶対に頭に置いておかなければいけない。その上で、リーダーシップの中にもそもそもいろいろ種類がある、という話が本の中にあったと思います。
山口:本の中では、この6つのスタイルを紹介しています。これは、僕が以前所属していたヘイグループという組織系のコンサルティング会社が、1990年代に行った調査に基づいています。全世界の活躍しているリーダーを参与観察したんです。 文化人類学のアプローチですね。本当にその場に入って、「この人は普段どういうことをやっているのか」 というのを、ずっと観察するわけです。そうすると、成果を上げているリーダーは、共通してこの6つをやっているということが分かりました。ただし、この6つを全部、のべつ幕なしに毎日やります、ということで成果が上がるかというと、その先には悲劇が待っています。
磯貝:6つ抽出されたからといって、それを毎日しなさいということではないんですね。
山口:そうではありません。最近で言うと評判がいいのは、ビジョン型です。それから、民主型。これは傾聴する、意見を求めるということです。また、人を育てるという型も、21世紀に入ってから割と評判がいい。
一方で、指示命令型や率先型は、少し昭和型だと言われてしまうわけです。でも、たとえば指示命令型と率先型しかやっていないのに、ものすごい実績を上げて、人望も厚いリーダーもいるんです。たとえばドラマで言うと、磯貝さん、『TOKYO MER』というドラマを見ましたか?
磯貝:はい、見ました。
山口:あれは、災害救助のドクターの物語ですよね。主人公のドクターは喜多見さんという医師です。あの人が災害現場に乗り込んでいって発揮しているリーダーシップは、どれだと思いますか。
磯貝:指示命令型ですね。率先型もやっていますね。
山口:率先もやっていますよね。基本的に、その二つなんです。どんどん現場に入り込んでいって、自分で服を破いて処置をする。周りにいる看護師たちに、「こういう注射を打ってください」「こういう処置をやってください」と、間髪入れずに指示していますよね。
磯貝:理想のリーダーだなと思って見ていました。
山口:でも、そこでビジョン型はどうでしょうか。「医療の大切さとはどういうことか、話し合おう」「この現場において、今どういうことをやったらいいと思いますか」「傾聴します」などとやっていたら、おそらくどんどん人が死んでいってしまいます。
磯貝:絶対に今ではないですね。
山口:そうです。災害救助の現場で、自分が救急救命に関わるドクターとして関わるという文脈においては、指示命令型と率先型が正しいリーダーシップなんです。ですから、この6つは、確かに優れたリーダーがやっていることではあります。ただ、それは長い期間、参与観察した結果として、「この6つを状況に応じて使い分けている」ということが分かったというだけです。「では、この6つを毎日全部やって、今日も6つやりました。完璧、俺のリーダーシップ」という話ではないんです。
磯貝:この6つは観点として持っておくと良い。時代の流れとして重宝される型には、それぞれトレンドがあるけれど、この時代だからこれが絶対の正解というものはない。現場や状況、職種にも応じて変わってくるということですね。
山口:そうですね。ある種の引き出し、7つ道具のようなものです。リーダーというのは、組織の中でいろいろなコンテキストに向き合います。たとえば、優秀な部下がいて、モチベーションも高い。比較的ミスも許容される状況である。そういう時には、方向感だけを与えるビジョン型で、あとは基本的に部下に任せる。「自分でやりたい方向性で提案してきて」と言ってやらせる方がいい。でも、どうも技術的には危ないぞという人がいて、しかもミスが許されない状況で任せてしまったら、これはまずいですよね?
磯貝:そうですね。
山口:まさに先ほどの、「任せてくれた」と、「マイクロマネージされた」の違いは、それでできるわけです。
磯貝:だから、良いリーダーシップを持っておきたいという人としては、こういう型があるということは分かった上で、常に正解になるものはない。そのチームにいる人員や、チームの置かれている状況によって、「今はどれかな」と考えられる思考の枠組みを持っておくことが、まず大事ということですね。
IBM再生に見るリーダーシップの使い分け
磯貝:事業のフェーズによっても、必要なリーダーシップは変わってくるということですよね。IBMの事例なども、必要なものがかなり変わってきていたように思います。
山口:そうですね。本の中では、ルイス・ガースナーによるIBM再生のストーリーを、かなり細かく解き起こしています。ガースナーは、1990年代初頭に深刻な経営危機に陥っていたIBMの立て直しを任されます。彼は自伝を書いていますから、その経緯をつぶさに拾うことができます。最初に彼がやっていたことは、完全に指示命令型と率先型です。優れたリーダーはビジョンを出すとか、傾聴するとか、よく言われます。
しかし、本当に歴史に残るターンアラウンドをやったガースナーが最初にやっていたのは、指示命令と率先しかありません。当時のIBMは、本当に来年潰れるか、再来年潰れるかという状況でした。もう待ったなしです。人間で言えば、集中治療室に入っている重症の患者のようなものです。まさに災害医療と同じで、ガースナーは医者のように、指示命令と率先によって、とにかく救急救命室から出ることをやったわけです。
磯貝:記者会見で「ビジョンはないのか」と言われたんでしたよね。
山口:そうです。最初は、リストラのプランからだったと。就任から115日目とか、118日目ぐらいだったと思います。 再生プランを発表するということで、IBMはアメリカの宝のように思われている会社ですから、アメリカ中が「どう立て直すのか」と注目していました。記者会見には大勢のメディアが詰めかけました。
ところが、聞いてみると、「人を切ります」「事業はノンコアのものを売却します」「不動産も売ります」という内容でした。ほぼリストラプランだったわけです。そこで、ある経済紙の記者が、「あなたが言っているのは単なるリストラプランですよね。IBMという、本当にアメリカの宝のような会社の再生を託されたのだから、ビジョンを示すべきだ」と言いました。
その時のやり取りは、本当に伝説的なものになりました。ガースナーは、「皆さん全員にここで言っておきたいことがある。今のIBMにビジョンなんて必要ありません!」と言い切ったんです。プロ経営者として、これは本当に素晴らしい意思決定、判断でした。救急救命室に入っていて、明日死んでしまうかもしれない状態の人に、「将来なりたいものは何かな」「テニス選手もいいし、野球選手もいい。弁護士やITエンジニアも素晴らしいけど、何になりたいですか?」などと言っても仕方がないですよね。人工呼吸器をつけて寝ているわけですから、医師からすれば、「お前、出ていってくれ」 という話です。
しかしガースナーは、その後で、顧客のキーマンや社内のキーマンとさまざまな議論を重ね、「eビジネス」というビジョンを出すわけです。「今のIBMにビジョンは必要ない」と言っておいて、その後で出す。そして、そのeビジネスを実践できるような組織体制や人材育成の方向へ、どんどん舵を切っていく。
ただし、それは就任してから2年目、3年目、4年目の話です。 就任して1年の間、とにかくやったのは、率先と指示命令でした。会社の状況、組織の状況、信用の蓄積の度合い。 そういったコンテキストの変化に応じてリーダーシップを変えていったわけです。最終的に、彼がIBMのCEOであった期間全体を圧縮して見ると、この6つのスタイルを全部やっているんですね。ただ、非常に時機時機に応じてメリハリが効いている。それはコンテキスト・リーダーシップの、世界最高峰の事例だと思います。(31分40秒あたりまで)
※「6つのリーダーシップ」の表は山口周さんのブログ記事(リーダーシップは「コンテキスト」が命)より拝借しました
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(文字起こし・ここまで)
この続きはまた明日に!(^^)/
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