マイケル・ポランニー「科学は観察の拡張」(今日の名言・その26)
2022/07/11
科学は観察の拡張であり、
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1891年にブダペストに生まれ、1975年に亡くなった
ハンガリーの科学哲学者
マイケル・ポランニー(以下、ポランニーと略)の
日本語に訳された著作で最も有名なのは、
『暗黙知の次元』です。
しかし、日本では残念ながら
この「暗黙知」という言葉が
一部の経営学者によって誤用されて広まったことから
本来の意味が正しく受け止められていないこともあり、
ポランニーという人がどういう人なのかを
知っている人はあまり多くないことでしょう。
ポランニーは、
相対性理論を発見したアインシュタインが
物理学の世界で果たした役割に匹敵すると
言えるくらいの革命的な業績を、
社会科学の世界で残したんじゃないかと、
わたしは個人的に考えてるんですが。
実はポランニーという人は、もとは物理化学者で、
書いた論文をアインシュタインに読んでもらって
高い評価を受けたこともあり、
ノーベル賞候補にも目されていたにも関わらず、
58歳のとき突如、社会科学にテーマを転向し
まわりを驚かせました。
結局のところ、そのポランニーが
生涯をかけて何をしたかを端的に表現するなら、
「発見とは何か?」を科学的に明らかにすると
いうことを研究したと言ってよいでしょう。
先ほど「相対性理論を発見したアインシュタイン」と
書きましたが、
栗本慎一郎『パンツをはいたサル』という本には、
ポランニーが「アインシュタインは、
周りから劣等生と言われていた16歳の頃、すでに
相対性理論の基本的な内容を確立していた」と
発言し、アインシュタインの存命中に
友人を介してそのことを訊ね、
本人から「確かにそうだ」と返事をもらったという
エピソードが紹介されています。
つまり、新しい科学的発見は、
学校などで積み重ねられた教育の結果として
人間の外部にある客観的な存在から
獲得されるのではなく、
科学者自身の内部に潜んでいる暗黙知の力により
問いが立てられ、解答が与えられるんだと。
また、わたしたちは、「コロンブスが
アメリカ大陸を発見した」とか言いますが
そもそも人間が何かを発見する
というのはどういうことなのか、
その発見の背後でどういう力が働いているのか、
そもそも科学的であるということはどういうことか、
その本質を明らかにしようとしたわけです。
結局のところ、科学の本質とは
見えているものだけでなく、
見えないものまで見ようとする〝観察〟なんだと。
6月下旬は、
観察力についての記事を1週間以上にわたって
ずっと続けて書いていたこともあり、
このポランニーの言葉は、
わたしにとって、至極納得のゆくものでした。
ポランニーについてより詳しく知りたい方は、
次の記事などを読んでみてください。
マイケル・ポランニー『暗黙知の次元』
・暗黙知の次元(情報考学 Passion For The Future)
また、次のインタビュー記事はポランニーについて
メインに語られているわけではありませんが、
どんな位置づけで捉えたら良いのか、
ポランニーの知見をどのように活かせるかを
考えるヒントになるとおもいます。
あと、「数学は理解の拡張である」という表現が
わかりにくいと感じられた人は、
以前にも数学の具体的な話とあわせて
このポランニーの言葉を紹介したことがあったので、
去年10/10に書いたblog記事を読んでみてください。
中学数学のテーマは世界の拡張