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子貢曰、如能博施於民、而能済濟衆、何如(「論語499章1日1章読解」より)

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子貢曰、如能博施於民、而能済濟衆、何如(「論語499章1日1章読解」より)

子貢曰、如能博施於民、而能済濟衆、何如(「論語499章1日1章読解」より)

2023/09/05

昨日に続き、今日も論語499章読解からです。

一昨日9/3は古典研究カテゴリの記事として

久しぶりに論語を取りあげました。

 

どの章をピックアップするか選定するのに、

久しぶりに499章の読解文をいくつか

読みなおしてみたんですが、

このblogでは、重要な章をまだたくさん

紹介していないことに気付いたのです。

 

それで、論語の記事を

しばらく集中的に投稿してみるのも

いいかもと感じたんですが・・・

 

今日は、孔子が門人の子貢に対し

仁を実践する姿勢を述べている

雍也第六の28番(通し番号147)をご紹介します。
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【雍也・第六】147-6-28
[要旨(大意)]
孔子と門人・子貢の対話で、仁の実践は、遠くの理想を描いてそれに近づこうとすることではなく、身近な人に対して、自分のできることから実践しようとする姿勢、日常の生活にそれを具体的に反映させていくことが大事であることを説いた章。
 
[白文]
子貢曰、如能博施於民、而能済濟衆、何如、可謂仁乎、子曰、何事於仁、必也聖乎、堯舜其猶病諸、夫仁者己欲立而立人、己欲達而達人、能近取譬、可謂仁之方也已。
 
[訓読文]
子貢曰ク、如シ能ク博ク民ニ施シテ、能ク衆ヲ濟フ有ラバ、何如、仁ト謂フ可キカ、子曰ク、何ゾ仁ヲ事トセン、必ズヤ聖カ、堯舜モ其レ猶ホ諸ヲ病メリ、夫レ仁者ハ己立タント欲シテ人ヲ立テ、己達セント欲シテ人ヲ達ス、能ク近ク取リ譬フルヲ、仁ノ方ト謂フ可キノミ。
 
[カナ付き訓読文]
子貢(しこう)曰(いわ)ク、如(も)シ能(よ)ク博(ひろ)ク民(たみ)ニ施(ほどこ)シテ、能(よ)ク衆(しゅう)ヲ済(すく)フ有(あ)ラバ、何如(いかん)、仁(じん)ト謂(い)フ可(べ)キカ、子(し)曰(いわ)ク、何(なん)ゾ仁(じん)ヲ事(こと)トセン、必(かなら)ズヤ聖(せい)カ、堯(ぎょう)舜(しゅん)モ其(そ)レ猶(な)ホ諸(これ)ヲ病(や)メリ、夫(そ)レ仁者(じんしゃ)ハ己(おのれ)立(た)タント欲(ほっ)シテ人(ひと)ヲ立(た)テ、己(おのれ)達(たっ)セント欲(ほっ)シテ人(ひと)ヲ達(たっ)ス、能(よ)ク近(ちか)ク取(と)リ譬(たと)フルヲ、仁(じん)ノ方(ほう)ト謂(い)フ可(べ)キノミ。
 
[ひらがな素読文]
しこういわく、もしよくたみにほどこして、よくしゅうをすくうあらば、いかん、じんというべきか、しいわく、なんぞじんをこととせん、かならずやせいか、ぎょうしゅんもそれなおこれをやめり、それじんしゃはおのれたたんとほっしてひとをたて、おのれたっせんとほっしてひとをたっす、よくちかくたとうるをとる、じんのほうというべきのみ。
 
[口語訳文]
子貢(しこう)が質問をした。「もし人民に広く恩恵を与えて、多くの人を救済できるならばどうでしょうか。これを仁者と呼んでもいいでしょうか。」。先生(孔子)が言われた。「それは仁者どころでなく、聖者と言われる境地だろう。尭・舜の聖者でさえ、この問題には心悩まされていたぐらいだから。仁者は、自分が立ちたいと欲したときにはまず他人を立たせ、自分が達成したいと欲するときにはまず他人に達成させるのである。つまり、仁者は身近なところから実践する。これが、仁を実現する方法(仁者の考え方)というものだ。」
 
[井上のコメント]
門人の子貢については、これまでの章に数度登場しているので(通し番号10,15,29,57,95,100)、それらを通して読むことで、弁舌に長け、有能で財政政策に辣腕をふるい、議論好きな現実主義者だったという人物像はある程度描けるかもしれません。孔子には魯を去って自分を採用してくれる諸侯を探して14年間放浪していた時期がありましたが、その間の孔子の経済を支えたのは子貢だったと言われています。また、孔子の死後に弟子たちが3年の喪に服したとき、子貢ひとりだけが倍の6年喪に服したと伝えられ、生涯孔子ただひとりを師として仰ぎ続け、深く敬愛していたことが窺い知れます。ただ、孔子は子貢よりも顔回や子路を高く評価していたので、子貢は謙虚でまっすぐな人柄ではあったものの、内心は屈折したものが渦巻いていたかもしれません。子貢の人物像についてわたしと似た印象を述べている記事「子貢という男」を見つけたので、参考記事のところで紹介します。
昨日の記事で取りあげた為政第二の15番(通し番号31)のコメントで、仁については「人と人との間に偶発的に立ち現れる〈いのち〉である」(小倉紀蔵『新しい論語』)と紹介しましたが、子貢にはまったくそういうところに考えが及ばず、「人民の福祉向上や苦悩する万民を救済せんと壮大な理想をもって実践しようとするのが仁者なのでしょうか?」と的外れな質問をしているわけです。でもその的外れな質問が、孔子から仁の本質に迫る答えを引き出しているわけですから、価値というものが人と人との関係性の中で生み出されることがわかってくると、子貢の的外れな質問を咎めたくなる気持ちは消えてしまいます。まさにこの章は人と人との間に偶発的に〈いのち〉が立ち現れた瞬間を書き留めているようにおもうのですが、このように、仁とは個人の努力だけでは決して到達できないものであることを示しているという点でも、論語の中でもとても重要な章だとおもいました。
 
[参考記事]
子貢という男
▽「私は、このように、自分ではどうしようもない内面の屈折と、優れた理性知性があいまった人物が好みであるようだ。偉業と裏腹に、自分ではどうしようもない陰を抱えた人物。孔子関連で言えば、それに当たるのは子貢ではないだろうか。孔子の弟子といえば孔門十哲と言われるが、孔子が長い逃亡生活の間寝食を共にし激しく愛したのは、子路と顔回であろうことは衆目が一致することだと思う。この二人は、陽と陰、行動と思索、狂と狷であって、正反対である。」
▽「では、肝心の子貢はどうだったのだろうか。言語には子貢と言われるように、弁舌の才は孔子に評価されていたようである。そして商人上がりの貨殖の才能を生かして俗世間で成功し、弁舌を生かして政治家としても活躍した。子貢に関しての記事は『論語』などに多く見える。また、戦国時代の諸資料にも姿を現わす。しかし、その評価は大きく二つに分かれているように思う。一つは、孔子を敬い自分のことを高く褒められても孔子には及ばないと弁舌を奮って華麗に謙遜したり、国際政治で華々しく活躍したりする子貢である。」
▽「けれど、『論語』を読むともう一つの評価が見えてくる。それは主に孔子による子貢の評価で、貨殖の才に富むことを咎められ、常に引き立て役として顔回と比べられ、よく師に質問をしては意地悪な答え方をされている。孔子は子貢を君子には遠いと考えていたようであり、その才能を認めながらも、咎めることが多く、あまり愛していなかった、いや嫌っていたのではないかと思える。子貢が君子でないことは、隠居した原憲を子貢が訪れた際に、奢った質問をし、原憲の答えに自ら恥じ入っていることからも伺える。商業の嫌いな孔子にとっては、子貢の、特にその貨殖の才が軽蔑すべきものに思えたのではないか。子貢が儒教を学んでいるのも、子路のような狂であるからではなく、立身出世のためではないかと、孔子は思っていたのかもしれない。確かに子貢は知的ではあるが、孔子は、彼の思考は浅く、顔回には遠く及ばないことを、意地悪く本人にも告げている。だが、子貢は、儒教を学ぶ目的が立身出世にあったとしても、孔子を恐らく深く愛していた。孔子の没後、他の弟子の倍の服喪をし、その期間に、恐らく『論語』の元となる文章を纏めたのではないかと思われる。」
▽「子貢は賢く現世的な才能に優れた人物であったのだろうが、それならば、自分を嫌っている孔子など、利用するだけ利用して、あとは別れてしまえばよかったのではないか。利に敏い人間ならそう考えて然るべきではないのか。なのに、子貢は自分を嫌っていた孔子に死後も尽くしている。よく孔子に質問するのは彼だが、答えは彼を貶めるようなものばかりである。だが、彼は常に質問する。それは、師を知りたいという敬愛の念からではなかったろうか。利に敏いにも関わらず、嫌われている孔子を敬愛し孔子に尽くすという、この子貢の人物像に、私は魅力を覚える。彼は屈折していたであろう。自他とも認めるほど賢いにもかかわらず、師には評価されずに軽蔑されている。それでも、自分を嫌っている師を敬愛することをやめることができないほど、師の魅力に捕らわれている自分をも、賢い彼は知っている。自分の敬愛する孔子に嫌われ、自分は賢い人間であるにも関わらず孔子の後継者たりえないことを自覚させられ、それでも敬愛を止めることができない。自分を評価してくれない孔子の、けれども、その魅力に最も深く捕まってしまった人間が子貢なのではないだろうか。誰か、子貢の小説を書いてくれないかなあ。」

※出典元URL:http://d.hatena.ne.jp/ilya/20091108/1257656659
 

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