池谷裕二さんの脳科学研究関連本紹介まとめ
2023/10/23
10/19から池谷裕二さんの著書を紹介する
記事を投稿して5日目になりました。
今日の記事では、これまでの内容で、
一番中核となる部分を復習しながら総括し、
池谷裕二さん関係のインタビュー記事や
関連動画などをシェアして、
締めくくりたいとおもいます。
これまでに投稿した記事4日分は次のとおりです。
・池谷裕二+糸井重里『海馬 〜脳は疲れない〜』
・池谷裕二『最新脳科学が教える 高校生の勉強法』
・池谷裕二さんの脳科学研究とらくだメソッド(YouTube動画の紹介)
今日の記事はその内容が前提となっているので、
未読記事がある方は、まずはそちらからどうぞ!
まずは、これまで4回書いてきた記事の復習から。
次の図は、3回目の記事でも紹介したんですが、
『最新脳科学が教える 高校生の勉強法』に
書かれている記憶の三層構造です。
この3つの階層を端的にいうと、
「経験記憶」は、すぐ思い出せる記憶
「知識記憶」は、すぐ思い出せない記憶
「方法記憶」は、身体で覚える記憶 でしたね。
右側の「原始的←→高度」というのは、
生物としての発達プロセスを示しています。
原始的というのは、生物として生命を維持するのに
最も関係が深いということで、
生まれたばかりの赤ちゃんは言葉が通じず、
「方法記憶」が記憶のほとんどを占めてますが、
その後は次第に「知識記憶」が発達していき、
言葉が話せるようになるなど、
言語的なコミュニケーションや学習が
できるようになっていきます。
小中学生辺りまでは「知識記憶」が優位なので、
人から教えられたことであるとか、
丸暗記することは得意なのですが、
高校生ぐらいになると
今度は「経験記憶」が発達して
その後は「知識記憶」よりも「経験記憶」が
優位になっていくので、高校生以後は、
勉強の仕方を変えなければいけないというのが、
『最新脳科学が教える 高校生の勉強法』に
書かれていることの全体の骨子でしたね。
さてそれでこの話を、
教える教育中心の学校や他塾と
〝教えない教育〟を看板に掲げている寺子屋塾の
何がどのように違うかという切り口で
考えてみましょう。
学校という場が教える教育中心になっているのは、
そのやり方が前提としている理由のひとつとして、
子どもたちの脳の発達段階を考慮したときに、
小中学校という年代が、
「知識教育」領域が一番発達する時期に
あたっていることがありました。
そして、先生や指導者の立場にある人たちが
学習者に対し積極的に働きかけられる
具体的なアクションとして、
どうしても「知識記憶」領域を対象とする中心に
ならざるを得ない事情はあるでしょうし、
とりわけ、集団授業というスタイルであれば、
一度にたくさんの子どもたちを
教えることが可能になるという、
教える側の都合の良さもあります。
ただ、こうした人間の脳の記憶の仕組みや、
発達段階を十分考慮したとしても、
では、教育には「教える」やり方だけしか
存在しないのかといえば、そんなことはありません。
もちろん、学校であっても、
体育の時間は身体的学習が中心で、
ほかにも図画工作、理科の実験や音楽の実技、
遠足や社会見学、修学旅行などなど、
「経験記憶」「方法記憶」のしくみを
活かしたやり方で行われているわけですから、
100%すべて「知識記憶」を重視した
教える教育になっているわけではないのです。
100点満点の漢字テストで
2点しか取れなかった子ども時代の池谷さんは
とても極端な例だとはおもうんですが、
池谷さんほどでなくても、
「知識記憶」の能力が低い子どもにとっては、
「経験記憶」「方法記憶」の存在を考慮した
教えるやり方を中心に置かないやり方が
有効にはたらくこともあるでしょうから。
過去にわたし自身も
7年にわたって進学塾という場に身を置いて、
多くの小中学生たちを相手に
勉強を教えた体験があるので、
そうした中で経験してきたことをふまえて
感じていることでもあるんですが、
さまざまなやり方のなかで、
どんな場合においても
「教える」やり方がベストであるとは
必ずしも言えないようにおもうのです。
ここで、大人の方に質問です。
学生時代に一所懸命覚えたことのうち、
今そのうちのどれだけを覚えているのか、
また、その覚えていることのなかで、
実際に現在の生活や仕事などで
役に立っているとおもえるようなことって、
具体的にどれぐらいあるでしょうか?
おそらく、ほとんどの人が、
小中学校で学んだ内容の多くは忘れてしまっていて、
実際に生活や仕事などでとっても役に立っていると
実感できるようなことは、
残念ながら、あまり多くないのではないかと。
たとえばわたし自身、小中学校時代は
比較的成績は良かったほうですが、
その頃に勉強が良くできたからと言って、
その後の約50年間の人生において、
「とっても得をしたなぁ」とおもえるようなことは
ほとんどありませんでしたから。(^^;)
さて、この記事もだいぶ長くなってしまったので
そろそろまとめましょう。
〝教えない教育〟の寺子屋塾では、
学校教育や家庭教育ではできないこと、
実践することが難しいことを重点に置いていて、
学校や他塾でやっている学習とは、
対極に位置するようなプログラムを中心に
実践するよう努めてきたことは
これまでにもこのblogでは何度も記してきました。
人間の脳における記憶の構造や
わたし自身の個人的な体験もふまえながら
トータルにかんがえてみると、
池谷さんが、高校生になったら
それ以後は勉強のやり方を切り替えた方がいいと
著書に書かれているやり方、
つまり、自由におもいだせないような
「知識記憶」を中心に覚えていくのではなく、
自分でやってみる体験を重ねながら習得する
「経験記憶」を中心にして、
さらにそれを毎日コツコツ続けることで、
「方法記憶」に落とし込んでいくというような
らくだメソッドで大事にしている学習法は、
なにも高校生になるまで待っていなくても、
それ以前の早いうちからでも
始めてしまえばいいんじゃないかと。
そして、創業した29年前には
9割以上が小中学生ばかりだった寺子屋塾も、
年月を重ねるにつれて大人の塾生が増えて行き、
わたし自身もそうしたことから新たに発見し、
実感するようになったことのひとつなんですが、
大学を卒業して間もない20代の
社会人になったばかりであればともかく、
30代、40代、50代になる大人の方でも、
「経験記憶」や「方法記憶」を活かした、
つまり、大人の脳のつくりに
相応しいような学習方法を知ることのできる
場やチャンスはあまりないために、
「知識記憶」を中心に覚えていく
いわゆる学生時代の勉強のやり方を
そのまま続けている人が
おもいのほか多いってことなんですね。
そうした社会の現状も見えてきたことで、
寺子屋塾に大人の塾生が次第に増えて、
いまでは全体の8割を超えていることも
もしかすると必然的結果なのかもしれないと
おもっているところなのです。
さいごに、今日まで5回の記事をご覧になり
池谷さんの本を読んでみようとおもわれた方は、
わたしが記事中で紹介した、
『のうだま やる気の秘密』
『海馬 〜脳は疲れない〜』
『最新脳科学が教える 高校生の勉強法』
『進化しすぎた脳』(ブルーバックス版)
などを読んでいただければとおもいますし、
本を買わなくても、
ネット上にインタビュー記事や動画コンテンツが
たくさんありますので、
それらをアクセスしてみて下さい。
とりわけ、ほぼ日の糸井さんとの対談は
とてもわかりやすいのでオススメです。
長い記事をここまで
お読みいただき有り難うございました。<(_ _)>
【参考サイト】
脳を知れば「やる気」はいらない
脳研究者/東京大学薬学部教授・池谷裕二
脳の気持ちになって考えてみてください(ほぼ日)
ジャングルを出て、また会おう。
池谷裕二×糸井重里(ほぼ日)
学びに10倍の差!
猫のゴンドラ実験から分かる体験の本質
【池谷裕二 | 脳研究者】【KIDSNA Academy】
脳の神経細胞が7割減る3歳までに大切にしたこと
【池谷裕二 | 脳研究者】【KIDSNA Academy】
遺伝で決まること、脳がカバーすること
【池谷裕二| 脳研究者】【KIDSNA Academy】
【INTERVIEW#56】【5 Minute Update】
【やる気が出ない人必見】
東大の脳研究者が「やる気なんて存在しない」と
主張する理由とは? @yuji_ikegaya
〜「やる気」と「脳」の話を、池谷裕二さんと。〜
脳の気持ちになって考えてみてください