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細谷功『具体と抽象 世界が変わって見える知性のしくみ』

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細谷功『具体と抽象 世界が変わって見える知性のしくみ』

細谷功『具体と抽象 世界が変わって見える知性のしくみ』

2024/04/05

今日は読書の話題です。

 

明日4/6は、塾生の本田信英さん主催による

『言葉のズレと共感幻想』読書会を

予定しています。

 

この本の内容については

以前に寺子屋塾ブログでも

ご紹介したことがありました。

細谷功x佐渡島庸平『言葉のズレと共感幻想』

 

読書会の方は7回目となり、

好評を頂いていて、

お陰さまで今回も満席となっています。

 

今日はこの本の著者の一人である

細谷功さんの著書『具体と抽象』の紹介を。

 

本書を見つけた直接のきっかけは

はっきりおもいだせないのですが、

本書のamazon 購入履歴が2017.8.6となっていて、

2017年夏にヨーロッパに家族旅行をしたときに、

飛行機の機内で読んだことを記憶しています。

 

2016年のお正月明けから、

吉本隆明さんの本を読む様になって、

角川文庫で出ている『改版・心的現象論序説』の

三浦雅士さんによる解説のおしまいの方に、

三浦さんが1970年代半ばの頃に編集者であった

ご自身を述懐して、吉本さんに「マルクスの

どこにいちばん影響を受けたと思いますか?」と

訊ねたところ、「抽象するということですね」

即座に答えられた、というエピソードを

紹介されてた部分がやけに印象に残っていました。

 

というのは、「抽象化する思考って人間にとって

大事な能力なのに、いまはなぜ具体性ばかりが

要求され流行らないんだろう?」

「そもそも抽象化とは何か?」という問いを

考え続けていた時期がちょうど2017年の夏頃です。

 

おそらくそういう文脈の中で

ネットで記事を検索したりしているうちに

見つけた本の1冊だったことは間違いないでしょう。


吉本さんのいわゆる主著三部作

『言語にとって美とはなにか』

『心的現象論』

『共同幻想論』は、まさに人間という存在や

社会という一見複雑にみえる現象を

一歩引いたところから俯瞰し「抽象する」ことから

著されたものといえるからです。

 

よって、この細谷さんの『具体と抽象』に

このタイミングで出会えたことは、

難解とされる吉本思想にアプローチする上でも

ものすごく役に立っただけでなく、

2020年に始まった新型コロナ騒ぎのように、

ウィルスという見えないミクロの存在が、

リアルに存在するグローバルな世界を

惨禍に巻き込むという、

正確な知識・情報を得ることが難しい現象に対し、

どう捉えればよいのかということについても、

本書に書かれている内容は

非常に大きなヒントになったようにおもいます。

 

以下は本書のはじめにから

 

(引用ここから)

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世の中、何ごとも「わかりやすい」方向に流れていきます。
書店には「わかりやすい……」といったタイトルの本が並び、テレビ番組も「日本語字幕」に加えて、万人にわかりやすい番組が増え、政治家にも経営者にも「わかりやすく説明すること」が求められています。

 

「これは普遍的かつ後戻りのできない、一方的な不可逆の現象のようです。会社などの組織も、創業したばかりのときは「一人の設計者」によってできあがったものが、時の経過とともに次第に「民主化」して万人のものとなるのは歴史の常です。

 

そうなると求められるのは必然的に、「万人へのわかりやすさ」ということになります。しかもこの状況は一度できあがってしまえば、簡単には後戻りはせず、極論すればこの状況が変化するのは、「新しいもの(人やしくみ)が古いものに取って代わる」ときだけです。

 

この「時間経過とともに民主化される」構図は会社組織に限った話ではありません。 「わかりやすい」とは、多数派に支持されることを意味します。だからわかりやすい商品のほうが、わかりにくいものよりも売れます。

 

したがって会社では、わかりやすいことをやっている人が必ず優勢になります。選挙でも大抵「わかりやすい人」が勝ちます。一つのしくみの中で、「わかりやすさ」は不可逆的に増殖していきます。

 

本書はある意味で、その「わかりやすさ」に逆行する本です。「四コマ漫画」や「図解」という手段を取り、文字数やページ数を抑えた体裁から、一見とっつきやすく「わかりやすい」本のように見えるかもしれませんが、じつは世にいう「わかりやすさ」とは方向性がまったく異なります。


 

「わかりやすさ」の象徴が「具体性」です。本でもテレビ番組でも講演でもネットの記事でも、「具体的でわかりやすい」表現が求められ、「抽象的な表現」は多数の人間を相手にした場合には徹底的に嫌われます。ところが本書で表現したいのはその抽象概念そのものです。

 

ではなぜあえて、本書は具体性という意味での「わかりやすさ」に対して疑問を投げかけるのか。「わかりやすさ」が求められるのは、社会や組織が「成熟期」に入ってからが顕著です。このような段階では、連続的な変化は起こせても、破壊的にそれまでの弊害をリセットするようなことを行うのがきわめて難しくなります。

 

ところがそういう「成熟期」だからこそ、来るべき「衰退期」に備えて「世代交代」を考えるのが必要なのは、人間の一生との比較から明確です。そんな時代に必要な能力が「抽象概念を扱う」という、不連続な変化を起こすために必要な知的能力です。

 

本書で述べるとおり、人間の知性のほとんどは抽象化によって成立しているといっても過言ではありませんが、すべて具体性が重視される「わかりやすさの時代」にはそれが退化していってしまう危険性があります。
そのような「抽象」を扱う方法を、「具体」との対比で「わかりやすく」解説するのが本書の目的です。ただしその「わかりやすさ」は、具体の世界でいうわかりやすさとは違います。

細谷功『具体と抽象 世界が変わって見える知性のしくみ』はじめに 「わかりやすさの時代」にどう生きるか? より


 

 

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