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「統合する」ということ(その5)森嶋通夫『なぜ日本は没落するか』

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「統合する」ということ(その5)森嶋通夫『なぜ日本は没落するか』

「統合する」ということ(その5)森嶋通夫『なぜ日本は没落するか』

2024/09/10

昨日9/9に投稿した記事の続きで、

〝統合する〟ということをテーマにした記事も

これで5回目になっています。

 

8月に15回にわたって連投した

「内的観点と外的観点の両方を同時にもつこと」

というテーマの記事の続編でもあるんですが、

ひとくちに〝統合〟といっても

現実にはいろいろあるので、

まずは学問分野の統合、学際研究という話から

書き始めました。

 

(その1)(その2)では、栗本慎一郎さんの

『パンツをはいたサル 人間はどういう生物か』

から、また、(その3)では、安冨歩さんの

『合理的な神秘主義 生きるための思想史』から、

そして、昨日の(その4)では、池谷裕二さんの

『単純な脳、複雑な「私」』から、

学際研究、学問分野の統合というテーマに

触れた部分を紹介しました。

 

このお三方の著書から

引用した箇所について、

わたしが重要だと考えるポイントを要約し

整理しておきましょう。



・現代の科学や社会が抱えている悩みや難問に答えようとすると、学際的といった〝甘い〟表現のレベルではおさまりきらないという強い決意が必要。アインシュタインなどは昔からそうした試みをしていた。現代の人間の諸問題に答えうる科学とは、包括的に考えるものでなければならない。われわれが外知から解放されるにはどうしたらいいか。ひと言で言えば、すべてをわれわれ自身に依拠して考え、われわれ自身が世界の中心にいるようにすることだ。真理の答えは、本当は私自身が知っているはずであるが、外知や感情、雑念によって混乱させられて明かりが見えていないだけだ。(栗本慎一郎)

 

・複雑で相互に繋がった一つの世界を、無理やり切断し、部分を切り出して「分野」を作ろうとすると、何かを無視せざるを得なくなる。「学際研究」と称するものがほとんど成り立っていないのは、学問分野が「対象」によってではなく、「盲点」によって定義されているからだ。私たちがこの世界を生きられるのは、私たちの魂がその能力を備えているからである。逆に、私たちが「確実性」への余計な希求にとらわれるのは、魂の能力を信じられなくなるからである。私たちが自らの生きる力を信じられなくなるのは、自らの地平で自らの世界を生きることができなくなるからである。私は、私たちが生きられることを「神秘」ととらえ、その神秘的な力の発揮を阻害するものに、学問は焦点を当てるべきだと考えている。生きる能力の発揮を阻害しているものを明らかにし、それを解除することを、分析的で厳密な学問の使命とすべきだ。(安冨歩)

 

・今までの研究は、専門家が訓練を受け、自分の専門についてのエキスパートであればいいというスタンスで科学は進んできた。ところが、あまりに専門化が進みすぎ、領域がバラバラになりすぎた弊害が次第に露呈してきたため、学問の各分野を横断的に結び有機的に統合していく「学際的」な研究が推進されるようになった。脳科学は、これまでまったく無縁だった哲学、心理学、社会学、経済学、政治学、倫理学といった学問や芸術などを結びつける接着剤の役割を担える分野といえる。(池谷裕二)

 

 

学問の統合、学際研究に対するスタンスは

お三方で若干違いがあっても、

学問に対する捉え方や目的などの大枠については

かなり重なっているように感じたんですが、

いかがでしょうか。

 


そもそも経済学、人類学、哲学、宗教学、

精神医学、心理学、生物学、言語学、歴史学などの

さまざまな学問分野というものは

最初から分かれて存在していたわけではなく

もとはひとつだったものを

あとからバラバラに切り分けたのですから。

つまり、統合といっても、

バラバラに存在しているものをつなげて

新たな物をつくりだすのではなく、

もともと1つだったものを

元の形に戻すようなものですから、

ジグソーパズルのピースをつなげて

1枚の絵を組み立てる作業に

似ていると言ってよいでしょう。

 

学問分野を統合し、学際研究を進めていくことで、

それまで見えなかったものが

ちゃんと見えるようになるというのなら、

結局のところ、何が見えるのでしょうか?

 

これが本日の記事のメインテーマなんですが、

それを考えるのに最適だとおもった1冊が

以前、失われた30年の原因をさぐるテーマで

記事を書いたときにも紹介した

森嶋通夫さんの『なぜ日本は没落するか』です。

 

失われた30年 その原因はどこに?

失われた30年 その原因はどこに?(解答考察篇)

失われた30年 その原因はどこに?(解答考察篇2)

 

 

次に、本書の付記として最後に書かれている

「社会科学の暗黒分野」の冒頭部分を

引用しておきます。

 

(引用ここから)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本書は、私がかねがね試みてみたいと思っていた、経済学、社会学、教育学、歴史学などを取り混ぜた社会科学領域での一種の学際的総合研究————私がかつて交響楽的社会科学と呼んだものである。普通の学際的研究はそれぞれの学問の専門家たちに彼らの得意のテーマの研究を依頼して、指揮者がそれを混ぜ合わせるのであるが、本書では指揮者自身が、すべての楽器(個別社会科学)を演奏するという方式を試みてみた。その結果私は、社会科学的には殆ど何も解明されていない分野で、現実の世界では重大事が起こっているかも知れないことを再確認した。そして以下に書く事件は私に、暗黒分野の存在という事実を本書で是非指摘しておくべきだと思うに至らせた。

 

森嶋通夫『なぜ日本は没落するか』付記 社会科学の暗黒分野 より冒頭部分

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(引用ここまで)

 

このあとに、「以下に書く事件」として

暗黒分野の話について詳しい内容が続くわけですが、

この記事ではその内容まで書かないので、

興味のある方はぜひ本書を入手され

読んでみてください。

 

短い引用でしたが、それでも

森嶋さんの学際的研究を大事にされている姿勢は

伝わるのではないかと。

 

ちなみに、安冨歩さんは、

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに

留学していたことがあり、

その際に森嶋さんに師事し教えを受けたようです。

 

 

この続きはまた明日!

 

 

【関連記事】

(その10)池谷裕二『単純な脳、複雑な「私」』前編

(その11)池谷裕二『単純な脳、複雑な「私」』後編

(その12)(その10)(その11)へ井上のコメント

優秀さとは何か?(栗本慎一郎『縄文式頭脳革命』より)

栗本慎一郎「ユニークであろうとすればユニークにはなれない」(今日の名言・その76)

もともと知っているのなら、なぜわたしたちは本を読むのですか?

マイケル・ポランニー『暗黙知の次元 言語から非言語へ』

古典とわたしたちのつながりを俯瞰すること

情報洪水の時代をどう生きるか(参考本24)

 

 

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