TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その84)
2026/05/04
2/10からこのブログでは、
TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集を
お届けしていて
この記事で84回めとなりました。
今日は第5話の後半部
37分過ぎたところにある、
やっさんと電話で話したあとのみくりと、
母親と電話で話したあとの平匡が
公園で話しているシーンを。
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〔ゴダール・ジャパンのビル前の公園で〕
平匡:……
平匡:やっさん、どうでしたか?
みくり:……
みくり:子どもがいると、人生の選択が自分だけのものじゃなくなるから、難しいですね。
平匡:……
みくり:でも、相手の顔を見るのも耐えられないまでいっちゃったら、子どもの精神衛生上も良くないと思うし、離婚して良かったんです。うん。
平匡:しましたか、離婚。
みくり:はい。
平匡:……
みくり:すみません。わたし、さっきと逆のこと言ってます。
平匡:……うちの母が、離婚しなかったのは、子どものためだけじゃなかったかもしれません。
みくり:?
平匡:さっき電話で、ピクニックの話をしました。
みくり:地獄の。
平匡:地獄の帰りに、瓦蕎麦を食べたそうです。
みくり:帰り?
〔津崎家の台所、電話で話す知佳〕
津崎知佳:帰りしにお父さん、お店連れてってくれたじゃない。
平匡:……
知佳の声(電話):本物食べさせちゃるって、あんた寝とったかしら。
〔知佳の回想、30年前の瓦蕎麦のお店、子ども時代の平匡が寝ている〕
知佳:美味しい!
知佳の声(電話):お昼食べとらんかったせいもあると思うけど、……すっごく美味しくって……
〔津崎家の台所、電話で話す知佳〕
知佳:後にも先にも、あねいな美味しいお蕎麦、食べたことないわね。
平匡:僕にとっては最悪な想い出ですが、母にとっては、生涯で一番美味しいお蕎麦だったそうです。
〔公園のシーンに戻って〕
みくり:……
平匡:僕の知らない物語が、他にもあるのかもしれない。
みくり:やっさんと旦那さんには、そういう想い出が足りなかったのかな。
平匡:……
みくり:二人でも、幸せになってほしいな。
平匡:……























COMMENT:第5話後半にあるこの公園シーン。いわゆる〝胸キュン〟の名場面というより、二人がそれぞれの通話のあとに、少し静かなテンポで会話を交わす場面です。でも、ここが妙に強く印象に残るのは、この短いやりとりの中で、「同じ出来事にも別の物語がある」ということが、きちんと手触りを持って示されるからなんですよね。
まず、やっさんの離婚話を聞いたみくりは、「子どもがいると、人生の選択が自分だけのものじゃなくなるから難しいですね」と、いかにも〝正しい〟言葉を口にします。続けて「離婚して良かったんです。うん。」と、いったん結論まで置く。ところがすぐに、「すみません。わたしさっきと逆のこと言ってます。」と、自分からそれを崩してしまうんですね。ここ、みくりの頭の回転の速さというより、結論を一つに固定できない誠実さが出ている気がします。離婚した判断は正しい。でも、正しいだけでは済まない。子どものために耐えるというのも一理あるし、かといって耐えることだけが正解というわけでもない。両方の物語が立ってしまうから、言葉が揺れる。『逃げ恥』って、一見理屈っぽい〝正論ドラマ〟のようでいて実はそうでなく、こうした揺れをどちらか片方だけに回収してしまわないところが上手いというか、わたしの好きなところです。
そこに平匡が、「うちの母が、離婚しなかったのは、子どものためだけじゃなかったかもしれません。」と、母親と電話で話した内容を差し込んできます。ここでもまた、離婚する/しない、良かった/悪かったの結論を述べるのでなく、「一つの出来事が、別の角度から語り直される」瞬間として描かれている。平匡にとってピクニックは〝地獄〟の想い出だった。でも平匡は、みくりに促されて母親に誕生日おめでとうの電話をかけたことで、おもいがけず母親から「ピクニックの帰りに瓦蕎麦を食べたこと」を聞かされます。「本物食べさせちゃるって、あんた寝とったかしら」と、子どもの平匡が寝ていて知らなかった別の物語を。つまり、平匡の〝地獄〟の物語が、母親の〝瓦蕎麦が一番美味しかった〟という物語に塗り替えられたわけでなく、地獄は地獄のまま残りつつ、その横にもう一つの物語が並べられてしまう。
これがすごく大事で、ここで起きているのは「最悪の想い出が実は良い想い出だった」と、過去を単純に美化したという話じゃないんですね。平匡は「僕にとっては最悪の想い出でも」と言っていて、地獄の想い出が消えたわけではない。同時に、別の物語が存在していたことを知った、ということです。だから平匡は、「僕の知らない物語が、他にもあるのかもしれない」と言う。自分が見たものが世界の全てだとおもっていたところから、一歩だけ外へ出るというか、自分の記憶の独占を手放す宣言に近いのかもしれません。恋愛の進展というより、世界の見え方がアップデートしたというか。
その上で、みくりが「やっさんと旦那さんには、そういう想い出が足りなかったのかな」とぽつりと言う。これもまた、離婚の是非を裁こうとはしていなくて、「同じ結婚生活の中に、どんな物語が積み重なっていたか」という話へ視点をずらしています。足りなかった、というより、あったのに見えなくなったのかもしれないし、見えないまま時間が尽きたのかもしれないと。ここでも答えは出ません。出ないけれど、二人は〝答えを出す〟より先に、〝物語が複数ある〟という地点に立ってみている。だから、最後のセリフ「二人でも、幸せになってほしいな」が、単なる優しさを超えて響いてくる。結論でなく願い、判断でなく祈り。そういう言葉が出てくる場所に、二人は立っている。
そして、この場面には「……」が何度も挟まります。気まずさゆえの沈黙というより、判断が定まらないまま置かれている余白。そこに、別の物語が入り込む隙間ができる。みくりが「逆のこと言ってます」と言えるのも、平匡が「僕の知らない物語が…」と口にできるのも、この沈黙が〝考え直していい空気〟を作っているからでしょう。正しさを急がず、結論を急がない。代わりに、同じ出来事にも別の物語があることを、いったん受け入れてみる。そうした静かな勇気が、このシーンの面白さであり、第5話のラスト、二人で瓦蕎麦を食べ「おいしい!」と叫ぶシーンへつながっていく、地味でも大きな転回点なんじゃないかと感じました。

この名セリフ&名場面集で紹介しているセリフは、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を土台に、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』での記述を参考にしています。なぜTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿している理由については、この連投記事の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。
ちなみに、4/10に投稿した(その60)の記事と、4/27に投稿した(その77)の記事には、それまでに投稿した記事のINDEXと、逃げ恥関連の投稿記事リンク集を載せています。未読記事がある方は是非そちらから参照ください。
ではまた明日に!(^^)/

