TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(二巡目・その42)
2026/09/24
8/14からこの寺子屋塾ブログでは、
TVドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集の
二巡目を投稿しています。
どんな流れ、経緯から二巡目を投稿し始めたか、
その理由やきっかけ等については、
関連している8/13以前の記事等に記したので、
未読の方はご覧ください。
第1話から第11話まで順番に1シーンずつ紹介し、
最終話まで行ったらまた第1話に戻るスタイルで
(その45)まで投稿するつもりです。
基本一巡目100記事で取り上げたシーンへの
コメントをリライトして投稿しているんですが、
さすがにそればかりだと能がないので、
(その10)、(その15)、(その23)、
(その29)の記事では、
一巡目で取り上げたシーンそのものを差し替え
新たに書き起こした場面のシナリオに
コメントする記事を書きました。
9/16から四周目に入っていて
いよいよゴールが近づいてきているんですが、
今日は一巡目(その42)で取り上げたシーンへの
リライト記事です。
第9話終盤部の38分過ぎたあたりから始まる、
みくりが外出したときに
路上で平匡が他の女性と一緒にいるところを
偶然目撃してしまい、
マンションに帰った後の場面です。
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〔平匡のマンションにて〕
みくりM:(妄想はするくせに…)
〔平匡と五十嵐が一緒にいるシーン、そば屋に入るシーンがフラッシュバック〕
みくりM:(こんな日が来ることは想像もしていなかった。曖昧だから成り立つ幸せは、曖昧な幸せ。システムで作られた関係は、システムから逃れられない)
みくり:システムの再構築って、なんだよ~。
みくりM:(いつかのように叫んだら、すっきりするかしら。あ、そうだ!百合ちゃんも叫んでた)〔立ち上がってソファーのクッションを手に取って〕
みくり:〔ソファーのクッションを口に当てて、窓の外に向かって大声で叫ぶ〕平匡のバカヤローッ!
〔みくりのうしろに平匡がいる〕
みくり:面倒くさいんだ、おまえは~!バカバカバ~カ!バ~カ~!
〔黙ってみくりを見ている平匡にみくりは気づかない〕
みくり:はぁっ…
みくりM:(ちっともすっきりしない……夕飯の支度をしてご飯を食べよう……一人だけど……)
みくり:〔ふり返って平匡に気づく〕
みくり:……。
平匡:……。
みくり:!!〔平匡に背を向けて、足早に歩き出す〕
平匡:みくりさん!
〔みくり、ひたすら歩く〕
平匡:みくりさん!〔と叫んでみくりの腕をつかむ〕
みくり:!!〔思わず平匡の手を払う〕


















COMMENT:この場面、起きている出来事自体は、みくりがマンションに帰り、クッションを口に当てて平匡への不満を叫ぶ。そして、その声が意図せず平匡本人の耳に入ってしまう。それだけです。ところが『逃げ恥』って、こういう一見コミカルな場面の中にも、二人の関係がもう以前の状態には戻れないことを忍び込ませていて、ストーリー展開のうえでも欠かせない重要なシーンにしているんですね。一巡目(その42)の記事では、みくりが抑えていた本音を解放したところに着目しましたが、今回は少し別の角度からコメントしてみようとおもいます。
まず、みくりは「妄想はするくせに……」と心の中でつぶやきながら、平匡と五十嵐が一緒にいるところや、そば屋に入っていく場面をおもい出します。平匡が自分についてはあれこれ妄想するくせに、みくり自身は、平匡がほかの女性と一緒にいる場面など想像したことがなかった。そんなことに、改めて気づくんですね。それで続けて、「こんな日が来ることは想像もしていなかった」とつぶやく。
そして、自分の気持ちを持てあましたみくりは、「いつかのように叫んだら、すっきりするかしら。あ、そうだ!百合ちゃんも叫んでた」と、ぶどうの丘へ出かけたときのことを振り返ります。ここで蘇ってくるのは、(その14)の記事で紹介した第3話終盤、ぶどうの丘でみんなが叫んだ場面です。あのとき、叫ぶことで気持ちが少し楽になったことをおもい出し、その方法を今回も試してみようとする。でも、同じ「叫ぶ」行為でも、今回はまったく効き方が違います。
第3話の叫びは、胸の中に溜まったものを外へ放出する行為でした。けれど今回のみくりが抱えているのは、平匡への怒りだけではない。嫉妬や寂しさ、二人の関係への不安、そして自分だけが取り残されるような恐怖までが絡み合っている。だから、過去に効いた方法をそのまま再現しても、同じようには癒されない。それで「平匡のバカヤローッ!」と叫んでも、みくりは「ちっともすっきりしない」と感じるんですね。
しかも、みくりはクッションを口に当てて叫ぶ。これがまた上手いところです。もちろん、近所に聞こえないようにするための配慮でしょう。でも同時に、自分の本音をクッションの内側に閉じ込めようとしているようにも見える。言いたいことはある。でも、平匡本人に直接届けたいわけではない。関係を壊すほど大きな声にはしたくない。つまりクッションが、みくりの感情と外の世界との間に置かれた緩衝材になっているわけです。
そして叫び終えたみくりは、平匡がすぐ後ろにいることにも気づかないまま、「夕飯の支度をしてご飯を食べよう……一人だけど……」と考える。ここが何とも切ないところです。気持ちはまったく整理できていないのに、夕飯を作るという生活の手順だけは残っている。二人のために続けてきた日常が、急に一人分の作業になってしまうんですよね。
叫んでもすっきりしない。それでも、ご飯は作らなければならない。みくりは、感情の問題を解決できないまま、いったん日常へ戻ろうとする。でも、「一人だけど……」と考えたそのとき、みくりは実際には一人ではなかった。ここでようやく振り返り、平匡の存在に気づくわけです。
ここは、漫画ならコマの切り替えで見せられるところですが、平匡をみくりの背後に立たせる脚本上の展開と映像演出がホント巧いです。ドラマを観ているわたしたちには、平匡がそこにいることが先に分かっていて、みくりだけが知らない。みくりは一人で感情を処理しているつもりなのに、クッションで隠したつもりの本音を、平匡本人にすべて聞かれてしまう。自分の内側だけにとどめておくはずだった想いが、思いがけず相手に届いてしまった瞬間、二人の距離が一気に変わるんですよね。
みくりは平匡に気づくと、言い訳も説明もせず、足早に歩き出します。平匡は「みくりさん!」と呼びかける。でも、みくりは止まらない。平匡は何度も呼び、最後にはみくりの腕をつかむ。するとみくりは、おもわずその手を払う。
ここでは、もう言葉だけでは届かなくなっている。平匡は名前を呼ぶしかなくなり、やがて身体で距離を縮めようとする。一方みくりは、「今は触れられたくない」と、身体を使って境界線を示す。平匡の腕を払ったことには、自分を守りたい気持ちがあったでしょう。でも、平匡その人を拒絶したかったというよりは、平匡の存在に気づかず本音を叫んでしまった自分への嫌悪感やバツの悪さも入り交じり、気持ちの置き所が見つからず反射的に行動してしまったのではないかと。
過去のように叫んでも、今回はすっきりしない。生活へ戻ろうとしても、もう以前と同じ一人の日常には戻れない。言葉にすれば壊れそうで、黙っていても苦しい。そんな二人の行き場のなさを、クッションと背後の平匡、そして最後に払われる手の動きだけで見せてしまう。派手な修羅場ではないのに、二人の関係がもう以前の「システム」だけでは収まらなくなったことを、わずかなセリフと動きだけで鮮やかに描いているところが、この場面のすごさだとおもいました。

この名セリフ&名場面集で紹介しているシナリオは、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』を参考にしながら、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を書き起こしました。こんな風にTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿することになった最初の動機については、一巡目の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。5/20に投稿した1巡目の最終回(その100)には、すべての記事内容を総括するコメント、全100回のINDEXつきリストと関連リンク集を載せています。
・TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その100・最終回)
また、当塾ではすべて関連し合っているという考え方を大切にしていますので、さらに詳しく知りたいという物好きなお方(笑)は、タグ「逃げ恥」を付している過去記事のみならず、他の記事を適宜アクセスください。当塾で開塾時から基本教材と位置づけてきたらくだメソッドの学習内容については、らくだメソッド関連を、大切にしているエッセンスを短いコトバで端的に知りたい方は、つぶやき考現学をどうぞ。アクセス数が最も多いカテゴリーは、今日の名言シリーズ(現在その130まで投稿)です。最近は、易経、論語、仏典などをひもといている古典研究関連カテゴリの記事もアクセスが増えています。
明日は一巡目(その43)の記事でとりあげた第9話のシーンへのコメントをリライトして投稿する予定です。
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●2021.9.1~2024.12.31記事タイトル一覧は
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