TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(二巡目・その29)
2026/09/11
8/14からこの寺子屋塾ブログでは、
TVドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集の
二巡目を投稿しています。
どんな流れ、経緯から二巡目を投稿し始めたか、
その理由やきっかけ等については、
関連している8/13以前の記事等に記したので、
未読の方はご覧ください。
第1話から第11話まで順番に1シーンずつ紹介し、
最終話まで行ったらまた第1話に戻るスタイルで
(その45)まで投稿するつもりです。
基本一巡目100記事で取り上げたシーンへの
コメントをリライトして投稿しているんですが、
さすがにそればかりだと能がないので、
(その10)、(その15)、(その23)の記事では
シーンそのものを差し替え
新たに書き起こした場面のシナリオに
コメントする記事を書きました。
今日も一巡目(その29)で取り上げたシーンが
短いシナリオだったので差し替え、
新たに書き起こしたシナリオに
コメントする記事です。
第7話の中盤20分50秒過ぎた辺りに挿入される、
平匡がみくりへの誕生日祝いを買う品物を
デパートのコンシェルジュに相談する場面を。
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〔デパート店内…コンシェルジュカウンター〕
コンシェルジュ:いらっしゃいませ。何をお探しでしょうか?
平匡:……女性への、贈り物なんですが……
コンシェルジュ:奥様にですか?
平匡:あ、いえ。
コンシェルジュ:妹さん?
平匡:いえ。
コンシェルジュ:彼女のかた?
平匡:違います。
コンシェルジュ:お友達で?
平匡:そういうわけでもなく。
コンシェルジュ:お幾つくらいの……
平匡:25、6になったところです。
コンシェルジュ:つまり、あまりよく知らない若い女性に受け取ってもらえるようなプレゼントをということですね。
平匡:……
コンシェルジュ:そうしましたら、お花やお菓子といった、形に残らないものがよろしいかと。
平匡:……
コンシェルジュ:ご案内いたします。
平匡:あぁ、やっぱりいいです!
〔平匡、カウンターを離れながら〕









COMMENT:このコンシェルジュカウンターの場面、笑えるのに、笑ったあとにちょっと胸がヒヤッとするのは、ここで扱われているのが「プレゼント選び」ではなく、ほぼ「関係性の申告」だからです。デパートのコンシェルジュは親切に見えて、実は〝分類〟の代理人みたいなもの。何を贈るかを決めるために、あなたと相手の関係をラベルで確定してください、と迫ってくる。奥様ですか?妹さん?彼女?友達?——はい、ここから先はテンプレの箱に入らないと買い物できません、みたいな顔をする。世間ってこういうところありますよね。
で、平匡が見事に詰んでしまう。奥様じゃない。妹でもない。彼女でもない。友達でもない。じゃあ何なんですか?と聞かれて、「そういうわけでもなく」で濁すしかない。笑 この否定の階段は、コントとしては完璧だけど、面白さの正体は「恋愛感情がない」でなく、「言語のメニューに適切なボタンがない」ことなんですね。第1話から第7話までの流れで、二人は一緒に暮らし、家事を回し、契約を交わし、キスまでしている。なのに、その全部をひっくるめて世間のヒアリングシートに書こうとすると、どの欄にも当てはまらない。つまり二人の関係は、存在しているのに、社会の言葉では〝未対応〟になっている。
そして決定打が、コンシェルジュの要約です。「つまり、あまりよく知らない若い女性に、受け取ってもらえるプレゼントということですね?」という一言、丁寧な敬語で包まれた刃物のようなものです。平匡としては、よく知っている。毎日顔を合わせ、味噌汁を一緒に飲み、生活の手順を共有している。にもかかわらず、関係性を説明できないせいで、第三者の視点に変換されると「よく知らない若い女性」になってしまう。言われた言葉は冷酷にも正しい。だから平匡は黙るしかない。ここで刺さっているのは、彼の恋心というより、彼の説明不能さの方です。自分の大事なものが、言葉にできないせいで軽く見積もられてしまう感じというか。
さらに追い打ちが「形に残らないものがよろしいんじゃないかと」という、一般論としては優しい提案です。このコンシェルジュは職務に忠実であり、悪気など微塵もありません。お花やお菓子、無難で角が立たない。けれどこの二人にとって、その無難さはほとんど撤退命令みたいに聞こえる。残らない=記録を残さない。踏み込まない。責任を増やさない。関係を更新しない。このシーンまで第7話の空気が欲しがっているのは、本当は逆なのに。だから平匡は「ご案内します」に乗れず、「やっぱりいいです、すいません!」と逃げる。プレゼントを諦めたというより、ドラマのタイトル通り、関係のラベリングを強制される場から撤退したと見るのが適切でしょう。
漫画原作をドラマ化する工夫としても、この場面は上手いですね。セリフの往復だけで成立しているようで、実は沈黙と間と、カウンターから離れる動作で、「身体性の不在」をわざと作っています。同居やキスといった〝身体が知っている関係〟が、ここでは一切通用しません。通用するのはテンプレのラベルだけ。だから、恋が進んだはずの人ほど、きっとこの場面は苦く感じられることでしょう。買い物という日常の中に、社会の分類圧がぬるっと入り込んでくる———吉本隆明的に言えば、「社会という共同幻想がふたりの対幻想を侵蝕してくる場面」であり、笑えるコントの裏側に残酷さが張り付いているという、ドラマ『逃げ恥』に時々出てくる二重構造が、このようなちょっとしたシーンでもうまく描かれているように感じました。

この名セリフ&名場面集で紹介しているシナリオは、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』を参考にしながら、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を書き起こしました。こんな風にTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿することになった最初の動機については、一巡目の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。5/20に投稿した1巡目の最終回(その100)には、すべての記事内容を総括するコメント、全100回のINDEXつきリストと関連リンク集を載せています。
・TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その100・最終回)
また、当塾ではすべて関連し合っているという考え方を大切にしていますので、さらに詳しく知りたいという物好きなお方(笑)は、タグ「逃げ恥」を付している過去記事のみならず、他の記事を適宜アクセスください。当塾で開塾時から基本教材と位置づけてきたらくだメソッドの学習内容については、らくだメソッド関連を、大切にしているエッセンスを短いコトバで端的に知りたい方は、つぶやき考現学をどうぞ。アクセス数が最も多いカテゴリーは、今日の名言シリーズ(現在その130まで投稿)です。最近は、易経、論語、仏典などをひもといている古典研究関連カテゴリの記事もアクセスが増えています。
明日は一巡目(その30)の記事でとりあげた第8話のシーンへのコメントをリライトして投稿する予定です。
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●2021.9.1~2024.12.31記事タイトル一覧は
こちらの記事(旧ブログ)からどうぞ
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