TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(二巡目・その27)
2026/09/09
8/14からこの寺子屋塾ブログでは、
TVドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集の
二巡目を投稿しています。
どんな流れ、経緯から二巡目を投稿し始めたか、
その理由やきっかけ等については、
関連している8/13以前の記事等に記したので、
未読の方はご覧ください。
第1話から第11話まで順番に1シーンずつ紹介し、
最終話まで行ったらまた第1話に戻るスタイルで
(その45)まで投稿するつもりです。
基本一巡目100記事で取り上げたシーンへの
コメントをリライトして投稿しているんですが、
さすがにそればかりだと能がないので、
(その10)の記事や(その15)の記事
昨日投稿した(その23)では
シーンそのものを差し替え
新たに書き起こした場面のシナリオに
コメントする記事を書きました。
今日は一巡目(その27)で取り上げたシーンへの
リライト記事なんですが、
第5話の終盤部で残り8分ほどのところで
訪れるクライマックスシーンで
百合の仕事場近くの公園で
みくりと平匡がハグするシーンを。
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〔ゴダールジャパンのオフィスがあるビルの前にある公園にて〕
平匡:この際もう百合さんが出て来たら、わ〜っと飛び出してわ〜っとハグしましょう。
みくり:!
平匡:幸い休日でほとんど人も少ないですし、百合さんをこれ以上心配させるのも何ですし。
みくり:それか!
平匡:!?
みくり:百合ちゃんに、正直に話す。
平匡:!
みくり:百合ちゃんを騙そうとあれこれしてるのって、ひどいですよね。裏切りっていうか。
平匡:今更ですね。
みくり:すいません!貴重な休みを潰してまでこんなことにつきあわせて。仕舞いにはロビーでハグだなんて、らしからぬ提案までさせて。
平匡:この作戦の馬鹿馬鹿しさには薄々気づいてはいましたが、
みくり:やっぱり!
平匡:でも、百合さんに正直に話してしまったら、みくりさんはラクになるかもしれませんが、今度は百合さんが辛いんじゃないですか。
みくり:!
平匡:百合さんが本当のことを知ったら、妹の桜さんにウソをつかなきゃいけなくなるし、それはつまり…百合さんに罪悪感を肩代わりさせるということです。
みくり:……。
平匡:ぼくたちの罪悪感は、ぼくたちで背負うしかないんじゃないでしょうか。
みくり:……わたしたちで。
平匡:はい。ぼくたち二人で。
みくり:…平匡さん!
平匡:はい。
みくり:ハグしていいですか?
平匡:はいっ!?
みくり:今の感謝の気持ちを込めて…
平匡:〔眼鏡を上げ直して〕今日は、火曜日じゃないですが…
みくり:前借りでお願いします。
平匡:はい。











COMMENT:契約結婚という枠組みで始まった二人の関係は、ここへ来て、ついに「外にどう見せるか」という局面に追い込まれます。百合ちゃんを安心させるための夫婦の芝居。その作戦自体は平匡が指摘する通り、馬鹿馬鹿しいものです。でも、馬鹿馬鹿しいからこそ、このドラマは真顔でそこに踏み込めるし、笑いを挟めるんですね。第5話終盤に置かれたこの公園シーンは、その「真面目さ」と「滑稽さ」の釣り合いが如実に出ている場面でしょう。
平匡が「百合さん出て来たら、わ〜っと飛び出してわ〜っとハグしましょう」と言います。この「わ〜っと」がいい。理屈っぽい平匡が、言葉を雑にしてまで、身体で解決しようとしている。ここで二人は、恋愛の進展というより、危機管理としての親密さを採用しようとしているわけで、その目的が切実だということが伝わってきます。
ところが、みくりはそこで、「正直に話す」という別案を出してくる。「騙そうとしてるのってひどいですよね、裏切りっていうか」というのは正論です。正論だけど、平匡はそこに待ったをかける。「みくりさんはラクになるかもしれませんが、今度は百合さんが辛いんじゃないですか」と。この返しが、ドラマを一段深くしている。嘘か正直かという二択でなく、「罪悪感を誰が背負うのか」という配分の問題に話をずらしてくる。つまり、正しさの押し付けでなく、痛みの肩代わりが発生する。ここで平匡は、正直さが必ずしも優しさではないことを、淡々と指摘してしまう。
そして次が,このシーンの核心部。「ぼくたちの罪悪感は、ぼくたちで背負うしかないんじゃないでしょうか」という一言で、二人の関係が〝共同体〟になる。これまでの契約は、生活の便宜を整えるための制度でした。でもここで更新されるのは、生活の制度でなく、罪悪感の共同所有という制度です。「わたしたちで」「はい。ぼくたち二人で」。この確認のやり取りが、静かに重い。
その直後に、みくりが「ハグしていいですか?」と聞く。感謝の気持ちを込めて、と。ここでのハグは、恋愛のご褒美でも、勢いの暴走でもない。共同責任に署名した二人が、身体で同じ側に立つための確認作業のように見えます。言葉で「二人で背負う」と言っただけでは、まだ心が追いつかない。その遅れを埋めるために、身体が必要になる。だからこそ、このドラマのハグは、甘さより先に、覚悟の匂いがします。
ただ、みくりが抱きつく前に一手間が入る。「今日は、火曜日じゃないですが…」「前借りでお願いします」。ここが、このシーンでいちばん笑えるやりとりでしたが、二人の親密さは、感情が高まって自然発生したものでなく、ルールという制度によって運用されてきた。火曜日のハグは、その象徴と言ってよいでしょう。普通なら、親密になればルールは不要になる。けれどこの二人は、ルールを捨てるのではなく、ルールを〝前借り〟できる形に変えていく。制度が崩壊して情熱に飲み込まれてしまうのでなく、制度が段階を追って柔らかくなり、徐々に人に馴染んでいく———関係が育つって、こういうことなのかもしれない、とおもいました。
眼鏡を上げ直す平匡の所作も含め、この公園のハグは、恋が進展した場面というより、「二人の制度が更新された」場面なんですね。契約結婚は、形だけの嘘として始まった。けれどその形は、苦しい現実に向き合うための器にもなっていく。火曜日じゃないけど、前借りする。たったそれだけの言い回しに、二人がこれまで積み上げてきた不器用さと誠実さが、ぎゅっと詰まっている。だからこのハグは、見ている方が照れくさくなってしまうのに、なぜか胸に残るのでしょう。

この名セリフ&名場面集で紹介しているシナリオは、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』を参考にしながら、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を書き起こしました。こんな風にTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿することになった最初の動機については、一巡目の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。5/20に投稿した1巡目の最終回(その100)には、すべての記事内容を総括するコメント、全100回のINDEXつきリストと関連リンク集を載せています。
・TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その100・最終回)
また、当塾ではすべて関連し合っているという考え方を大切にしていますので、さらに詳しく知りたいという物好きなお方(笑)は、タグ「逃げ恥」を付している過去記事のみならず、他の記事を適宜アクセスください。当塾で開塾時から基本教材と位置づけてきたらくだメソッドの学習内容については、らくだメソッド関連を、大切にしているエッセンスを短いコトバで端的に知りたい方は、つぶやき考現学をどうぞ。アクセス数が最も多いカテゴリーは、今日の名言シリーズ(現在その130まで投稿)です。最近は、易経、論語、仏典などをひもといている古典研究関連カテゴリの記事もアクセスが増えています。
明日は一巡目(その28)の記事でとりあげた第6話のシーンへのコメントをリライトして投稿する予定です。
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●2021.9.1~2024.12.31記事タイトル一覧は
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