TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(二巡目・その25)
2026/09/07
8/14からこの寺子屋塾ブログでは、
TVドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集の
二巡目を投稿しています。
どんな流れ、経緯から二巡目を投稿し始めたか、
その理由やきっかけ等については、
関連している8/13以前の記事等に記したので、
未読の方はご覧ください。
第1話から第11話まで順番に1シーンずつ紹介し、
最終話まで行ったらまた第1話に戻るスタイルで
(その45)まで投稿するつもりです。
基本一巡目100記事で取り上げたシーンへの
コメントをリライトして投稿しているんですが、
さすがにそればかりだと能がないので、
(その10)の記事や(その15)の記事
一昨日投稿した(その23)では
シーンそのものを差し替え
新たに書き起こした場面のシナリオに
コメントする記事を書きました。
今日は一巡目(その25)で取り上げたシーンへの
リライト記事なんですが、
第3話前半部の10分40秒を過ぎたあたり、
みくりが電気店に
炊飯器を買いに行くシーンを。
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〔電気店の家電売り場で並んだ炊飯器をみくりが眺めている〕
みくりM:(3合炊き……)
みくりM:(5.5合炊き……)
みくりM:(彼女いない歴35年……)
みくり:〔立ち止まって考え込む〕……。
みくりM:〔ハッとなり、再び炊飯器を見て〕(圧力スチームIH……)
みくりM:(備長炭の内釜……)
みくりM:(彼女いない歴35年……)〔再び立ち止まって考え込む〕
みくり:〔再びハッとなり〕あっ……今は炊飯器!…炊飯器炊飯器!うん!
みくりM:〔炊飯器を確認しながら〕(…もし本当に彼女いない歴35年だとしたら…あの平匡さんがいい加減な気持ちで女の子に手を出すとは思えない)
みくりM:(何でも調べてから行動する性格からして、勢いでダイブするとも思えない……)
みくりM:(もしかすると……)










※TVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』第3話より
COMMENT:この炊飯器売り場の場面、一巡目の記事で書いたように、ぱっと見はお店の横断幕「おかげさまで35周年!!!」に呼応するように、みくりの妄想が暴走しているだけの小ネタに見えるんですが、第3話のここまでの流れを心理ドラマ的に眺めたときに、この一見何でもないようなちょっとしたシーンが、次のステップへの重要な〝入口〟になっていることが見えてきました。
というのは、みくりは炊飯器を買いに来ていて、やっていること自体は完全に生活の整備だからです。契約結婚という枠組みの中で家事という仕事を引き受け、共同生活を回すための道具を選んでいる。ここまでは第1話からずっと続いてきた運用の延長線上にある行動です。現実的で合理的で、しかも本人もそれを業務モードでやろうとしていることに違いないので。
ところが、その炊飯器のスペック(3合炊き、5.5合炊き、圧力スチームIH、備長炭の内釜)を追っているはずの意識に、突然「彼女いない歴35年」が割り込んでくる。そして、そこでみくりが立ち止まってしまう。この「止まる」瞬間がキモなんじゃないかと。みくりが止まったのは、驚いたからというより、内側で議題が変わってしまったからなんですね。炊飯器=生活の話をしていたのに、いつの間にか平匡の個人史=孤独の話に触れてしまった。生活の道具を買うという安全な作業の途中で、相手の人生の深いところに、うっかり足を踏み入れてしまった、という感じです。
そこでみくりが口に出す言葉が、「あっ……今は炊飯器!…炊飯器炊飯器!うん!」です。これ、可愛いセルフツッコミにも聞こえるんですが、わたしには「自己統制」のように感じられました。感情が動いてしまった自分を、いったん〝元の議題〟に戻す。関係を壊さないために、自分の注意を管理する。みくりは契約結婚という特殊な状況を、勢いで突っ走っているように見えて、実はずっとこういう調整をしている。気持ちが先走らないように、場を乱さないように、いつも言葉や行動を選び、役割を守る。その延長線上としての「今は炊飯器!」なんですよね。
でも面白いのは、統制しようとすればするほど、逆に意識がそこへ引き寄せられてしまうところ。みくりは炊飯器に戻ろうとするのに、「もし本当に彼女いない歴35年だとしたら…」と推論をまた始めてしまう。しかもこの推論は、ゴシップ的な詮索ではありません。「いい加減な気持ちで女の子に手を出すとは思えない」「何でも調べてから行動する性格からして、勢いでダイブするとも思えない」。つまりみくりは、相手の人格を誠実さとして組み立て直しているし、尊重してもいる。だからこそ、いちばん最後の「もしかすると……」が怖い。相手を誠実だと仮定すれば、次の問いは自分にも跳ね返ってくる可能性があるから。たとえば、「じゃあ、この結婚で、わたしは何なんだろう?」とか。
第1話から第3話のこの時点まで、二人は外形としての夫婦を先に作ってきました。契約、役割、生活のルールなど、形は整えられる。けれど、形を整えれば整えるほど、逆に中身についての問いが立ち上がってしまう。炊飯器を買うという行為は共同生活を前に進めるためのものなのに、その最中にみくりの意識が、平匡という個人の履歴へと吸い込まれていく———ここに恋の入口がひっそり開いているわけです。
だからこの場面は、派手な告白も胸キュンシーンもないけれど、恋愛コメディとしてドラマはちゃんと進んでいるんですね。みくりが炊飯器を見ては止まり、止まっては戻り、戻ってはまた止まる。その往復運動そのものが、生活の議題と感情の議題がせめぎ合っている証拠ともいえるので。そして結果的にこの小さな揺れが、後に(その3)の記事で紹介した大善寺薬師堂内でのやりとりや、(その14)の記事で紹介したぶどうの丘で叫んだ平匡の「浸透力」みたいな、言葉になりきらない感情を引き出すことにつながっていきます。『逃げ恥』は、大事件で恋が動くのでなく、こういう炊飯器が並ぶ棚の前という、日常の小さな買い物で、静かに、でも確実に心が動く。その描き方が、やっぱり丁寧で上手いなあと改めておもいました。

この名セリフ&名場面集で紹介しているシナリオは、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』を参考にしながら、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を書き起こしました。こんな風にTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿することになった最初の動機については、一巡目の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。5/20に投稿した1巡目の最終回(その100)には、すべての記事内容を総括するコメント、全100回のINDEXつきリストと関連リンク集を載せています。
・TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その100・最終回)
また、当塾ではすべて関連し合っているという考え方を大切にしていますので、さらに詳しく知りたいという物好きなお方(笑)は、タグ「逃げ恥」を付している過去記事のみならず、他の記事を適宜アクセスください。当塾で開塾時から基本教材と位置づけてきたらくだメソッドの学習内容については、らくだメソッド関連を、大切にしているエッセンスを短いコトバで端的に知りたい方は、つぶやき考現学をどうぞ。アクセス数が最も多いカテゴリーは、今日の名言シリーズ(現在その130まで投稿)です。最近は、易経、論語、仏典などをひもといている古典研究関連カテゴリの記事もアクセスが増えています。
明日は一巡目(その26)の記事でとりあげた第4話のシーンへのコメントをリライトして投稿する予定です。
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