TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(二巡目・その3)
2026/08/16
昨日投稿した記事の続きで、
TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集
二巡目の3回目です。
本日紹介するシーンは
一巡目で投稿したこちらの記事のリライトですが、
第3話の後半部36分過ぎたあたり、
ぶどう狩りの後、大善寺薬師堂の中で
みくりと平匡が話している場面を取り上げています。
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〔山梨県大善寺薬師堂の中。平匡とみくりがいかつい十二神将立像を見ながら歩いている〕
平匡:こういうところに来ると、嘘をついたり、卑しい心でいることを、見透かされてる気分になります。
みくり:この中では嘘がつけませんねぇ……
平匡:はい。
みくり:〔仏像を見て歩いている平匡を見ながら〕似合いますよね。
平匡:?
みくり:仏像とか、お寺とか。
平匡:……
みくり:しみじみと、しっくり。
平匡:……都会的な、風見さんのような。
みくり:風見さん?
平匡:……カッコいいよなぁ……
みくり:カッコいいですねぇ……
平匡:……
みくり:わたしは……平匡さんがいちばん好きですけど。
平匡:〔驚いてみくりの顔を見る〕……。
みくり:しみじみと、しっくり、落ち着いて。
平匡:……。
みくり:〔平匡の顔を見て〕あっ、あっ…好きって、変な意味じゃなくて!……はぁっ…またしても、突拍子もないことを…。
平匡:……。
みくり:都会のキラキラより、渋い方が好きっていうか…すみません!何を言ってるのか…。
平匡:……。
みくり:……。
平匡:ありがとうございます。
みくり:!
平匡:ぼくは一生このまま、本当の結婚はせずに終わるので、もし、みくりさんが誰かと結婚しても、週に何度かは、家事代行に来てもらえたらいいなぁと…思います。
みくりM:(今のはきっと、従業員のわたしへの、最高の褒め言葉だ)
〔ブドウの丘で平匡、みくり、百合、沼田、風見の5人が景色を眺めている〕
みくりM:(でも、なぜだろう。それはそれで寂しいと思ってしまったこの気持ちは……。この気持ちは……)

















※TVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』第3話より
COMMENT:第3話後半、みくりと平匡が大善寺薬師堂の中を歩きながら、いかつい十二神将立像を横目に会話する場面。恋愛ドラマなら、「名場面」として語られやすいシーンなのに、妙に渋い展開をたどります。まず、「見透かされてる気分になります」「この中では嘘がつけませんねぇ」というやりとりから始まりますが、寺という場所が、癒しの空間というより、内側の後ろめたさが勝手に浮かび上がってしまう〝監査装置〟みたいに立ち上がっています。昨日投稿した記事のコメントでも、嘘にどう向き合うかに言及しましたが、契約結婚という嘘がある以上この空気は避けられないし、避けられないからこそ二人の言葉もいつもより正直になってしまうのでしょう。
その流れでみくりが言う「似合いますよね」「しみじみと、しっくり」も、告白というより相手を評価するコトバになっています。ところが、この評価語があながち的外れでもなく、核心を突いている。派手にキラキラした魅力ではなく、馴染む、落ち着く、収まりがいい。第1話からここまで二人は、感情よりも先に役割と条件で共同生活を立ち上げてきたわけで、相手を言い当てる言葉も、まず生活の物差しになるのは当たり前でしょう。ここには、みくりの誠実さが出ているとおもいます。
一方の平匡は、「……」が多くて返事がすぐに出ません。けれどこの沈黙は、気持ちの盛り上がりを演出する〝間〟というより、言葉を探っているのでしょう。ネガティブモードに傾いている平匡は、何かを言ってしまうと関係そのものが別物になってしまうことを、たぶん分かっている。だから言葉を発せないまま黙る。黙っているから、雑に肯定もしないし否定もしない。沈黙が保留であり、配慮でもある。
途中、平匡が「都会的な、風見さんのような」と口にするのも、ここでは三角関係の煽りとしてより、平匡が〝規格〟のほうへ逃げてしまう反射として効いている気がします。みくりの「しっくり」は、相手をそのまま肯定する言葉なのに、平匡はそれを受け取れず、都会的・カッコいいというテンプレ尺度の方を持ち出してしまう。二人の会話はかみ合っているようで、じつは測っているものが違うんですね。でも、そのズレが、逃げ恥らしいリアルさになっている。
そして、このシーンの一番の見せ場は、みくりが「平匡さんがいちばん好きですけど」とそれを言ったあとです。恋愛の告白とも受け取られかねない言葉が自分の口からおもわず出てしまったことに、みくり自身も一瞬混乱しますが、平匡は「ありがとうございます」と、雇用主としての言葉を冷静に返します。さらに「ぼくは一生このまま本当の結婚はせずに終わるので、もし、みくりさんが誰かと結婚しても、週に何度かは家事代行に来てもらえたらいいなぁ」と続きます。
つまり、風見と自分を比較ばかりしている平匡は、みくりの発する言葉に正面から向き合えないので、気持ちの話を生活の形に変換するんですね。でもその変換は、たしかに逃げではあるけれども、相手を〝必要とする〟ことを、未来の配置として語っているという意味では、いまの平匡が差し出せる誠実さでもあるわけで。
最後に置かれたみくりのモノローグ「従業員のわたしへの、最高の褒め言葉だ」は、その場を整えるための解釈であり、たぶん本心でもあるでしょう。なのに、その直後に残る〝ひっかかり〟があって、喜びでも痛みでも、どちらか一色だけでは塗れない感情というか。契約としては成立しているのに、成立していることだけでは言い切れない何かが混ざってしまった、という感触です。恋のときめきとも、寂しさとも断定できないこの場面が見せているのは、二人の関係の中に「説明しきれない余白」が初めて生まれた瞬間と言えるのではないでしょうか。

この名セリフ&名場面集で紹介しているセリフは、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を土台に、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』での記述を参考にしています。なぜTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿することになった最初の動機については、初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。さらに詳しく知りたいという物好きなお方(笑)は、次の記事をはじめとしてタグ「逃げ恥」を付している過去記事等(とくに2021〜2022年に投稿)を適宜アクセスください。
・TVドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」原作マンガ(全11巻)のこと
・『脚本家・野木亜紀子の時代』を読み始めています
この連載記事は、第1話から第11話まで
順番に紹介して一巡したらまた第1話に戻るという
スタイルで投稿していくので、
明日は第4話からとなります。
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●2021.9.1~2024.12.31記事タイトル一覧は
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