TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その85)
2026/05/05
2/10からこのブログでは、
TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集を
お届けしていて
この記事で85回めとなりました。
今日は最終回第11話の後半部
41分50秒すぎに挿まれた青空市の1カット
神社のベンチで百合と沼田が話しているところを。
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〔千木通り商店街の青空市にて。神社のベンチに百合と沼田〕
百合:なんだかんだ言って、年齢って呪縛に一番縛られてたの、わたしなのよね。
〔青空市を遠巻きに見られる場所でプラコップの日本酒を手に〕
沼田:……
百合:怖じ気づいちゃったのよ。自分の年に引け目を感じてつき合うよりも、友達でいたほうがイイかなぁって。
沼田:……
百合:そう都合よく行かなかった…
沼田:俺も怖じ気づいてたとこある。
百合:?
沼田:いつも振られちゃうから。決定的なメールは送らなくて、避けて避けて、引き延ばしてた。
百合:お互いダメな大人!
沼田:何を守ってんだかねぇ…
百合:……ねっ、メールしてみる?
沼田:〔驚いて百合の方を見る〕
百合:わたしもするから。〔とスマホを取り出す〕
沼田:……
百合:惨めな結果に終わったら、骨を拾って頂戴!
沼田:……じゃ、俺の骨も!
百合:〔うなずく〕拾う!〔沼田の肩に手を乗せて〕任せて!
沼田:〔うなずく〕……












COMMENT:最終回の後半、青空市の喧騒から少し外れた神社のベンチに座っている百合と沼田。プラコップの日本酒という小道具が、妙にマッチしてていいんですよね。お祝いムードの中にいるのに、どこか「自分の情けなさ」と同席している感じもある。ここは恋愛ドラマの王道みたいな告白シーンでなく、むしろ〝自己否定の解除(=自己受容)〟が人との関わりの中で静かに進む場面なんですね。
百合がまず言う。「年齢って呪縛に一番縛られてたの、わたしなのよね」と。この言葉で百合の矛先は、相手にも社会にも向いていません。年齢という外部のモノサシに苦しめられた話のようでいて、実は「自分の中に住みついた年齢観」に縛られていた、という告白になっている。(その11)の記事で紹介したカフェのシーンで、五十嵐杏奈に「自分に呪いをかけないで」と話した百合でしたが、怖じ気づいたのも、自分の年に引け目を感じたのも、ぜんぶ〝わたしの中のわたし〟がやっていた、と。つまりここで百合がしているのは、恋愛の勝敗の整理ではなく、呪いの所在確認なんでしょうね。
その百合の言葉に、沼田はほとんど黙っています。これがまたイイ。同意も慰めも正論も置かず、ただ隣にいる沈黙です。ドラマ最終回の後半って、言葉で伏線を回収してしまいがちだけど、『逃げ恥』の沈黙は、何かを隠す沈黙というより、相手の言葉を勝手にまとめない沈黙のように見えます。百合が「わたしなのよね」と言い切ったものを、急いで〝いい話〟にしないで、そのまま沈黙の中に置いておく。これがとっても大人っぽい。
そして、ようやく「俺も怖じ気づいてたとこある」と沼田がぽつりと返す。理由は「いつも振られちゃうから」。決定的なメールは送らず、避けて避けて、引き延ばしてた。ここ、百合の〝年齢〟と沼田の〝振られ癖〟は原因が違うのに、構造が同じなんですよね。自分の中にある「負けの予測」が先に立ってしまうから、決定的な一手を避ける。傷つかないために、ギリギリまで確定を先延ばしにする。だから百合の「お互いダメな大人!」は、相手を責める言葉ではなく、二人が同類であることを発見した言葉に聞こえてきます。
「何を守ってんだかねぇ…」という沼田の軽口も、このドラマ全体の問いをもう一度出してる気がします。体裁、自尊心、傷つかない自分、あるいは〝普通〟に見える立ち位置等々———恐怖心って、たいてい自分が守りたいものの裏返しなんだけど、裏側を自分でちゃんと確認しないまま立ちすくんでいることって少なくないんですね。でも、それが自分がいのちをかけてでも守りたいくらい大切なものなのかどうか、守っているものが何かがハッキリした途端、守り方は変えられるんだと。『逃げ恥』って結局そこを描いてきたドラマなので、逃げが生まれる理由を丁寧に言語化して、逃げること自体を悪にしない。
面白いのは、ここから百合が選ぶ一手が「告白」ではなく「メール」だということです。「ねっ、メールしてみる?」しかも「わたしもするから」と、同時に実行しようとする。これは勢いで飛び込む恋愛ではなく、リスクを二人で分け合う設計になっている。成功を夢見るというより、失敗しても回収できる形にしておいて、一歩だけ前へ出る勇気を持とうと。そうした姿勢の極みが「惨めな結果に終わったら、骨を拾って頂戴!」という言葉でしょう。恋愛のセリフに見せかけながら、実は沼田に〝転んだときの相互扶助〟を確認している。
それで沼田も「じゃ、俺の骨も!」と返し、百合は「拾う!任せて!」と肩に手を置く。ここで二人が結ぶのは、契約というより、惨めさごと見捨てないという約束なんですね。だからこの場面は、ハッピーエンドの甘さを足すためではなく、ハッピーエンドを現実に接地させるために置かれている。勝ち負けじゃない。成功か失敗かでもない。失敗しても拾い合える形で、一歩を踏み出す。そのままの自分を受け入れる〝勇気の発露〟と〝運用の更新〟が、最終回の後半で静かに起きているところが、このシーンのいちばんの面白さじゃないでしょうか。

この名セリフ&名場面集で紹介しているセリフは、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を土台に、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』での記述を参考にしています。なぜTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿している理由については、この連投記事の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。
ちなみに、4/10に投稿した(その60)の記事と、4/27に投稿した(その77)の記事には、それまでに投稿した記事のINDEXと、逃げ恥関連の投稿記事リンク集を載せています。未読記事がある方は是非そちらから参照ください。
ではまた明日に!(^^)/

