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TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その97)

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TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その97)

TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その97)

2026/05/17

2/10からこのブログでは、

TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集を

お届けしているんですが、回を重ねてこの記事が97回めとなりました。
 

今日は、第7話の後半部34分30秒辺りから始まる、
平匡のマンションでの
みくりと平匡とのシーン。

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〔平匡のマンションにて〕

平匡M:プロの独身は、発展しない発展させないが鉄則。だけど、初めて知ったその場所が温かくて、凍えた身体を暖めに、帰ってきてしまうんだ。

〔ハグしているみくりと平匡〕

〔離れて、照れながら見つめ合う二人〕

平匡:……

みくり:……

平匡:おやすみなさい。

みくり:……おやすみなさいっ。

〔平匡、寝室へと入ってゆく〕

みくりM:(二度目のキスは、ないのかしら?…)

〔平匡がPCの前に座って真剣な顔で入力している〕

〔〝キス〟〝タイミング〟をキーワードで検索〕

〔トップヒット記事タイトル「キスするタイミング 20の注意点」が表示される〕

平匡:20も!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』第7話より

 

COMMENT:平匡とみくりが夜のマンションでハグして、少し見つめ合って、結局「おやすみなさい」と言って別れるという静かな場面から始まるこのシーン。『逃げ恥』の場合、こうした静けさの中に、ものすごい量の〝処理不能〟が詰め込まれていたりするんですね。キスでも告白でもなく、ハグが起きたその直後に、言葉が続かない。続かないから、儀礼で閉じる。その儀礼が交わされたあと、なぜかパソコンの検索窓が動き出す。笑 二人の間では恋愛が進展しているはずなのに、増えていくのは「注意点の数」ばかり———ここ、めっちゃ笑えるのに妙にリアルで、とても切なくも感じてしまうところ。

 

まず、「プロの独身は、発展しない発展させないが鉄則」という平匡のモノローグから始まります。これは平匡が第1話から守ってきた自己規範で、いわば〝独身道〟の掟でした。ところがその掟が、ハグの直後に急に詩みたいな比喩へと滑っていく。「初めて知ったその場所が温かくて、凍えた身体を暖めに、帰ってきてしまうんだ」と。ここで平匡は、みくりに対する感情でなく、「温かい場所を知ってしまった」という生存の話として語っているんですね。つまり、恋愛の勝利でなく、避難所を得てしまった人の敗北。発展しないはずだったのに、身体の方が先に帰還してしまった。その〝自分に負けてしまう感じ〟が、平匡らしい切実さとしてにじんでくる。

 

そしてハグの直後に来るのが沈黙。ここが、いかにも『逃げ恥』です。ふつうの恋愛ドラマのテンプレなら、照れ笑いでも確認でも、何かしらの「言葉」が挟まって、出来事を関係の履歴に登録していくのでしょうが、この二人はそうはならない。けっして感情がないのではなく、言語化の回路が追いつかない。(その92)の記事でも触れた第6話ラストのキスが〝後処理の空白〟として尾を引いたのと同じ構造が、ここでも繰り返される。出来事が起きたのに、起きたことになっていない。だから空気だけが濃くなる。見つめ合う時間が長いほど、言えなさが際立つ。進展というより、処理不能が露出していく感じです。

 

そこで出てくる言葉が「おやすみなさい」。これ、逃げているようでいて、すごく生活者の判断だとおもいます。説明も告白もできないとき、人はまず儀礼で場を閉じようとする。関係を壊さないための〝収束操作〟としての挨拶。恋人の会話に入れないから、生活の手順に退避する。ローカル憲法———契約から始まった二人の運用ルール———の強さは、こういうところで発揮されるんですよね。甘い言葉より先に、関係を壊さない閉じ方が出てくる。

 

一方で、みくりのモノローグ「二度目のキスは、ないのかしら?」も、相手を求める欲望のセリフではないように聞こえます———このときの斜め上を見つめる表情が絶妙で、ガッキーの演技が本当に素晴らしいですね———みくりが欲しいのはキスそれ自体というより、「いま起きたことが現実として成立している」という確認なんじゃないかとおもえてきます。(その95)の記事で紹介した第7話前半の〝妄想かも〟問題と地続きで、出来事が宙に浮いてしまうのが怖いから、もう一度起きてほしい。二度目があれば、あれは事故ではなく現実だと言える。つまりみくりは、進展を求めるというより、意味づけを求めている。ここがとっても『逃げ恥』らしくて、恋愛を「出来事の管理」として描いているんですね。

 

そして極めつけが、平匡の検索。「キス」「タイミング」で検索して、「キスするタイミング 20の注意点」で「20も!?」。ここは爆笑するところなのに、同時に泣きたくなるくらい切ない。平匡は自分の身体感覚や経験値で判断できないから、正解を外部に委託せざるを得ず、検索してしまう。恋愛を感情で進められないから、手順で安全運転しようとする。でも、委託した先に待っているのは、正解が20個もある世界。しかも〝注意点〟。笑 増えれば増えるほど動けなくなる。ハグで一歩進んだはずなのに、検索窓の中では退路が増えていく。このギャップが、平匡の誠実さと不器用さを同時に照らしているようにも見えます。

 

結局、第1話から第7話までの流れで言うと、たぶん二人は「進展したい」という想いよりも、「進展を事故にしたくない」という恐怖の方が先に立ってしまうのでしょう。みくりは現実への接続を求め、平匡は破綻回避の注意点を求める。どちらも相手を大事にしたいからこそ、別方向へ迂回してしまう。ここでは、そうした迂回が、沈黙と儀礼と検索という形で見えてくる。だから可笑しいのに、胸が少しチクリと痛む。恋愛が進むほど、処理の難しさが増える———『逃げ恥』が生活の地面で親密さを描くって、こういうことなのかなとおもえる、地味だけれど印象深いシーンでした。



この名セリフ&名場面集で紹介しているセリフは、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を土台に、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』での記述を参考にしています。なぜTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿している理由については、この連投記事の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。

ちなみに、4/10に投稿した(その60)の記事と、4/27に投稿した(その77)の記事には、『共同幻想論』の語彙を用いてリフレーミングしながらとても重要なことをコメントしましたし、それまでに投稿した記事のINDEXと、逃げ恥関連の投稿記事リンク集を載せています。未読記事がある方は是非そちらから参照ください。
 

当初よりこの記事は(その100)まで投稿すると明記してきたので、長く続いたこの連載記事もカウントダウンを迎え、残すところ3となっています。ではまた明日に!(^^)/

 

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