TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その86)
2026/05/06
2/10からこのブログでは、
TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集を
お届けしていて
この記事で86回めとなりました。
今日は第2話の終盤部41分過ぎ、
沼田と風見が帰ったあと、
みくりと平匡が晩ご飯を食べるシーンを。
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〔平匡のマンション・リビングにて〕
みくり&平匡:いただきます!〔と、夕食を食べ始める〕
みくり:あぁ……二人で食事、久しぶりの気分です。
平匡:沼田さんと風見さんが、丸24時間いましたからね。
みくり:これ、朝ご飯に沼田さんがつくったお味噌汁の残りなんですけど、美味しいですよね。
平匡:沼田さんが昼につくったパスタも。
みくり:たらこソースにわさび、美味しかった~。
平匡:あのまま夕飯まで作られていたら、胃袋をがっちり捕まれて二連泊されてしまうところでした。
みくり:さすがにそれは…今日はゆっくり眠りたい。
平匡:ゆうべ眠れなかったんですか?
みくり:……
平匡:誰か、いびきとか…ぼくは気づきませんでしたが。
みくり:いいえ、特になにも!
平匡:眠れないほどの悩みですか?
みくり:お気になさらず!
平匡:みくりさん!
みくり:はい!
平匡:ぼくはゆうべ反省しました。知らなかったじゃ済まされないこともあります。もっと周囲に目を配らないと。
みくり:……
平匡:職場というものは、従業員だけの努力じゃままなりません。雇用する側も努力しないと。
みくり:……
平匡:ぼくは、雇用主として、みくりさんが働きやすい環境を提供したいと思っています。もし、なにか気になることがあったら、遠慮せず、何でも言って下さい。
みくり:……
平匡:……
みくり:……ありがとうございます。……でも、眠れなかったのは、単なるコーヒーの飲み過ぎです。
平匡:……
みくり:〔笑顔で〕ご心配をおかけしてすみません。
平匡:……



















※TVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』第2話より
COMMENT:沼田と風見が帰ったあとの晩ご飯シーン。お邪魔虫の二人が消え、画としては「二人きりの食卓」を取り戻せてヨカッタ!という場面なのに、会話の中身はやたらと「職場/雇用」の話になっていくんですね。そのズレがまず面白いし、(その57)の記事で紹介した平匡の「知らないって怖い…」という内面の震えが、翌日すぐ〝実装〟段階に入っているのが分かる場面でもあります。反省だけで終わらせず、即、運用改善に向かってしまうところが、いかにも平匡らしい。
きっかけは「ゆうべ眠れなかったんですか?」という問いです。みくりが「今日はゆっくり眠りたい」と言った時点で、恋愛ドラマの文脈なら、同室の気まずさとか、意識してしまう感じとか、そういう含みが立ち上がるはず。でも平匡はすぐ「いびきとか…」と外的要因の方向へ寄せていく。みくりが「特になにも!」と否定しても、「眠れないほどの悩みですか?」と、問題の有無として処理しようとする。みくりがうっかり投げたのは恋のボールなのに、平匡が返しているのは不具合報告への質問票、みたいなズレがあって、そこでみくりは「お気になさらず!」と遮断する。恋として回収されるのも困るし、かといって本音を出すと生活が壊れる。だから、とりあえず扉を閉める。
ところが平匡はそこで引き下がらず、「みくりさん!」と呼び止め、突然〝制度改正〟を始めてしまう。「ぼくはゆうべ反省しました。知らなかったじゃ済まされないこともあります。もっと周囲に目を配らないと」。ここまでは個人の反省のようにも聞こえるのに、すぐ「職場というものは、従業員だけの努力じゃままなりません。雇用する側も努力しないと」と、視点が制度側へ移っていく。そして決定打が「ぼくは、雇用主として、みくりさんが働きやすい環境を提供したい」。つまり、情緒的な謝罪ではなく、運用改善の宣言なんですね。いかにも平匡流のビジネス言語になっている。
だから、みくりの沈黙が増える。ありがたいし、誠実だし、ちゃんとこちらを見ようとしてくれているのは分かる。けれど、みくりにとってこの家は生活の場でもあり、食卓は本来いちばんプライベートな場所のはず。その食卓が、ビジネス言語で一方的に塗り替えられていく。ここで「何でも言って下さい」は、一見フラットな対話の扉のようでいて、よく聞くと許可の言い方になっている。何でも言っていいよ、働きやすい環境を提供するよ———つまり、提供する側/される側の権限差は温存されたまま、善意だけが増量されている。善意の申し出ほど断りにくいし、善意の提案ほど上下が見えにくい。みくりは、その難しさを全部飲み込んで「……」を重ねるしかない。
そして最後に、みくりが着地させるのが「単なるコーヒーの飲み過ぎです」。これは嘘というより火消しでしょう。眠れなかった理由を恋にすると生々しくなるし、労務の話にすると雇用関係が固定されてしまう。だから一番無害な原因に変換して、その場を閉じようとしている。しかも「ご心配をおかけしてすみません」と、笑顔で謝ってしまう。みくりの処世術としては完璧でも、ちょっと切なくもなりますね。その後の平匡の「……」もまた、やっと場が収束したことへの処理時間に見えてきます。
以上まとめると、このシーンの面白さは、みくりがついうっかり「今日はゆっくり眠りたい」と漏らしたことが発端となり、(その57)の記事で示された平匡の〝無知への震え〟に引火して、「雇用主として環境を整える」という形で実装されはじめるところにあります。みくりにとって生活の場でありプライベートな場でもある食卓を、平匡が一方的に職場へ変換してしまい、みくりの沈黙を増やすという『逃げ恥』特有の〝二重構造〟が、ここではくっきり見える。恋愛の場面なのに、なぜか制度の話になり、沈黙がやたらと濃い———(その60)の記事や(その77)の記事でコメントした『共同幻想論』の文脈で言うなら、結局ここでも、対幻想と共同幻想の逆立・侵蝕・同致が生じていて、言葉よりも沈黙が、二人の関係の〝仕様〟を更新していく様子が非常にリアルで興味深く感じました。



以前、「初ハグシーン」を紹介した(その49)の記事で、ガッキーが左手の動作で全身の緊張感を表現している演技の巧さを写真つきで説明したことがありました。この3枚の写真は、このシーンで平匡から「ゆうべ眠れなかったんですか?」と問われたときの目の動きなんですが、ガッキーの表情の変化はホントに的確で見事ですよね。

この名セリフ&名場面集で紹介しているセリフは、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を土台に、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』での記述を参考にしています。なぜTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿している理由については、この連投記事の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。
ちなみに、4/10に投稿した(その60)の記事と、4/27に投稿した(その77)の記事には、とても重要なことをコメントしましたし、それまでに投稿した記事のINDEXと、逃げ恥関連の投稿記事リンク集を載せています。未読記事がある方は是非そちらから参照ください。
ではまた明日に!(^^)/

