安部公房『砂の女』より(今日の名言・その78)
2024/04/03
「どうでしょう?…… ぼくは、人生に、よりどころがあるという 教育のしかたには、 どうも疑問でならないんですがね……」
「なんです、その、よりどころと言うのは?」
「つまり、無い物をですね、 あるように思い込ませる、幻想教育ですよ…… だから、ほら、砂が個体でありながら、 流体力学的な性質を多分にそなえている、 その点に、非常に興味を感じるんですがね……」
「つまり、リアリズム教育ということですか?」
「いや、ぼくが砂の例をもちだしたのは…… けっきょく世界は 砂みたいなものじゃないか…… 砂ってやつは、静止している状態じゃ、 なかなかその本質はつかめない…… 砂が流動しているのではなく、 実は流動そのものが砂なのだという…… どうも、上手く言えませんが……」
「分りますとも。実用教育には、
「そうじゃないんだ。 自分自身が、砂になる…… もう死ぬ気づかいをして、
「理想主義者なんだなあ、先生は…… 思うに、先生は、生徒たちを
※安部公房(1924~1993・東京都出身の小説家、劇作家、演出家)『砂の女』より
※冒頭の写真は他の名言も紹介されているこちらのページより拝借しました
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最近ではほぼ週1ペースで投稿している
この「今日の名言シリーズ」なんですが、
回を重ねて78回になりました。
前回は荘子の「胡蝶の夢」、つまり
蝶になった夢を見た人間の話でしたが、
フランツ・カフカには、ある朝
夢から目覚めて起きたら虫になっていたという
『変身』という作品がありましたね。
今回は〝日本のカフカ〟と称されることもある
安部公房さんの小説から。
作家・安部公房の小説作品というと、
わたしの場合、最初におもいだすのは、
高校時代に現代国語の教科書に載っていた
「棒」という短編小説で、
デパートの屋上から墜落した男が
なぜか1本の棒になってしまうという話です。
一見ワケが分からない
シュールな展開を見せるんですが、
それが結構面白く読めたので、
高校を卒業してからも、
芥川賞受賞作の『壁 S・カルマ氏の犯罪』や
『燃え尽きた地図』『箱男』『密会』など
いろいろ読みました。
国際的にも評価が高く、ノーベル文学賞に最も近い
日本人作家と言われていながら、
1993年、惜しくも68才で急逝されて、
受賞は叶わなかったんですが。
1962年に発表された『砂の女』は
大きな話題となり、
1964年には勅使河原宏監督によって
映画化もされました。
次の画像は映画の1シーンです。
英語をはじめとして
20カ国語以上の言葉で翻訳され、
安部公房の名を世界中に知らしめ、
代表作のひとつでもあるので、
読まれた方もいらっしゃるでしょう。
「8月のある日、男が一人、行方不明になった」
という書き出しではじまるこの話の主人公は、
仁木順平という31歳の教師をしている男性で、
8月に休暇を取り、趣味の昆虫採集のために
海岸の砂丘に行きます。
そこには今にも砂に埋もれそうな部落があり、
終バスを逃した彼は、勧められるがまま、
その部落のうちの1軒の、深い穴の底にある
民家に泊まることに。
その家で寡婦がひとり、砂掻きに勤しんでいます。
翌朝、男が民家を出ようとすると、
地上に上がるための縄梯子が外されていて、
男は家から出られなくなってしまいます。
常に穴から砂を運び出さないと
村は崩れてしまうため、
村人は砂掻きの人手を欲していたのです。
騙されて穴に閉じ込められた男は、
埋もれる家で女と砂を掻き出しながら
同居生活をすることになってしまいます・・・
冒頭に紹介した部分は、第2章14にある
同僚の教師とのかみあわない対話を
回想している箇所から引用したものなんですが、
この小説のタイトルにもなっている
〝砂〟とはいったい何か、
何を砂になぞらえているのかを
考えてみてください。
【最近投稿した「今日の名言」シリーズ】
・栗本慎一郎「ユニークであろうとすればユニークにはなれない」(今日の名言・その76)
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・映画『マトリックス』より「これは最後のチャンスだ!青い薬を飲むか、赤い薬を飲むか?」(今日の名言・その61)
※(その61)の最後にその60以前の記事一覧を載せています
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