TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(二巡目・その9)
2026/08/22
昨日投稿した記事の続きで、
TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集
二巡目の9回目です。
本日紹介するシーンは
一巡目で投稿したこちらの記事のリライトですが、
第9話前半の21分45秒過ぎたあたりから始まる、
BAR山での百合と風見、山さんとの会話を。
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〔BAR山にて〕
百合:ある人にね、デートに誘われた。
風見&山さん(BAR山のマスター):!
百合:……何よその反応!失礼じゃない!
風見:〔微笑む〕
山さん:ハハハ
風間:相手は?
百合:大学の同期、広告代理店の営業部長。
山さん:エリートだ。
百合:バツイチ、子持ちだけどね。
風見:……
山さん:百合さん、母になるの?
百合:ならないよ~ そんな簡単なもんじゃないだろうし。ただね~、子持ちの人と結婚すれば、今からでも子どもが持てるんだって、新しい発見だった。
風間:子ども、欲しいですか?
百合:ん~、わたしの場合はみくりがいたからね。娘がいる気分を味わえちゃったのよね~。最高よ~。責任取らないでひたすら可愛がるだけ。笑
山さん:おいしいとこ取り。笑
百合:そう。でもその代わり、深い喜びは知らないのかもしれない。
風間:深い喜びを、知りたかったですか?
百合:……残酷なことを聞くのね。
風間:すいません。
百合:誰もが、すべてのことを深く知るのって無理だと思わない?誰かが知っていることを誰かは知らなくて、そうやって世界は回ってるんじゃないかしら。
風間:……時に、知らない世界を、教え合ったり。
百合:そう!そういうのも悪くない。
風見:……
山さん:〔微笑む〕










※TVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』第9話より
COMMENT:このBAR山の場面、半ばつなぎのように挿まれていて、起きている出来事自体はすごく地味です。百合が「ある人にデートに誘われた」と言って、山さんと風見が驚く。そこから少し会話が続くだけなので、派手な展開も大げさな告白もありません。でも『逃げ恥』って、こういう何気ない会話の中に、テーマの核心を静かに混ぜているんですね。わたしがこのシーンを取り上げたのは、ドラマ上でも第9話という終盤にさしかかっていて、ここが「百合の恋バナ」というより、風見の〝踏み込み方〟と、最後にたどり着く〝答えの置き方〟によって、場面そのものがぐっと深くなっているように感じたからです。
まず、風見の質問が絶妙です。「子ども、欲しいですか?」「深い喜びを、知りたかったですか?」どちらも言葉としてはシンプルなのに、内容的にはかなり踏み込んでいます。相手の人生の痛いところに触れてしまいかねず、ふつうこういう問いをストレートにぶつけることはしません。だから百合が「……残酷なことを聞くのね」と返すのもまさにその通りで、百合が怒っているというより、「そこを言語化させるの?」と驚きが混ざった反応に見えたので。
でも風見は、踏み込んだまま居座らず、「すいません」と一度引く。ここがホント上手いですね。踏み込む勇気があるだけじゃなく、踏み込んだことを自覚して素直に謝れる。つまり風見は、親密さを一方的に〝押し込む〟んじゃなく、相手の境界線を見ながら差し入れるタイプなんだとおもいます。これって、ここまでみくりと平匡の間で何度も描かれてきた「対等性」や「距離を壊さずに近づく」技術の、別バージョンのようにも感じました。甘い台詞で盛り上げるんじゃない。むしろ、相手の人生に敬意を払った〝問い〟の投げ方で、親密さを作っていく。
そして、その後がまた『逃げ恥』らしい展開です。百合は「誰もが、すべてのことを深く知るのって無理だと思わない?」と言う。ここで百合は、欲しい/欲しくないの二択で答えないんですよね。答えを出す代わりに、世界の回り方の話に持っていく。「誰かが知っていることを誰かは知らなくて、そうやって世界は回ってる」と。これは〝逃げ〟とも受け取れるけれど、わたしは〝成熟〟に見えました。人生って、全部を手に入れられないし、全部の深さに到達もできない。そうした制約をそのまま受け入れるところから始めているので。
そこへ風見が「……時に、知らない世界を、教え合ったり」と返す。この一言、告白でも口説きでもないけれど、すごく親密です。なぜならここで風見は「あなたの欠落を埋めてあげます」と言っていないから。上から救おうとしないで「互いに教え合う」という対等な提案になっている。つまり、百合が言った〝世界は回ってる〟を否定せず、その上で「その回り方を、二人で少しだけ面白くできるかもしれない」と差し出している。これ、言葉の内容としては地味だけど、関係としては大きな一歩を踏み出してるし、非常にハイセンスな対話術になっている。そして、百合も「そう!そういうのも悪くない」と返す。全面肯定でも全面否定でもなく「悪くない」と。この控えめな肯定が、百合の現実感と、風見の慎重さにちょうど合っている。二人とも、勢いで夢を語ろうとはしない。けれど、希望だけは置いておく。
そして最後に、風見の黙って頷く素振りが入って、山さんが微笑む。ここって、答えを言い切らずに余韻で終わるのが、ドラマ化の工夫としても効いているとおもいます。漫画ならコマの間で余韻を作れるけれど、ドラマでは沈黙と表情で余韻を作るしかないので。沈黙が、「今の言葉を二人ともちゃんと受け取った」という合図にも見えるし、「これ以上言うと壊れるから、ここで止める」というブレーキにも見える。結局この場面って、恋の勝ち負けの話じゃなくて、〝知らない世界〟とどう付き合うか、そしてそれを誰かとどう共有できるか、というスケールの大きな話になっているんですね。だから、けっして派手さはないのに、見終わったあとに妙に印象に残る、そういう強さが感じられるシーンでした。

この名セリフ&名場面集で紹介しているセリフは、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を土台に、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』での記述を参考にしています。こんな風にTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿することになった最初の動機については、一巡目の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。5/20に投稿した1巡目の最終回(その100)には、記事内容を総括するコメント、全100回のINDEXつきリストと関連リンク集を載せました。
・TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その100・最終回)
また、当塾ではすべて関連し合っているという考え方を大切にしていますので、さらに詳しく知りたいという物好きなお方(笑)は、タグ「逃げ恥」を付している過去記事のみならず、他の記事を適宜アクセスください。アクセス数が最も多いカテゴリーは、今日の名言シリーズ(現在その130まで投稿)ですし、また、寺子屋塾のエッセンスをなるべく短いコトバで端的に知りたい方は、つぶやき考現学をご覧下さい。最近は、易経、論語、仏典などをひもといている古典研究関連カテゴリの記事もアクセスが増えてきています。
この連載記事は、『逃げ恥』第1話から第11話まで順番に紹介して一巡したらまた第1話に戻るというスタイルで投稿していくので、明日は第10話からとなります。
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●2021.9.1~2024.12.31記事タイトル一覧は
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