TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(二巡目・その16)
2026/08/29
8/14からこの寺子屋塾ブログでは、
TVドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集の
二巡目を投稿しています。
どんな流れ、経緯から二巡目を投稿し始めたか、
その理由やきっかけ等については、
関連している8/13以前の記事等をご覧ください。
第1話から第11話まで順番にひとつずつ紹介し、
最終話まで行ったらまた第1話に戻るスタイルで
(その45)まで投稿するつもりです。
基本一巡目で取り上げたシーンへのコメントを
リライトしているんですが、
さすがにそればかりでは能がないので、
(その10)の記事や(その15)の記事では
シーンそのものを差し替え
新たに書き起こした場面のシナリオに
コメントする記事も書きました。
今日は一巡目(その16)で取り上げたシーンへの
リライト記事なんですが、
第5話の中盤21分過ぎたあたりの場面です。
平匡のマンションの外で、
急いで帰宅してきた平匡とみくりがおちあい、
突然襲来した百合をどう攻略するか
二人で作戦を練るシーンを。
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〔平匡のマンションの前の道(階段)にて〕
平匡:〔小走りで階段を駆け上がりながら〕すみません!遅くなって。百合さんは?
みくり:〔階段を降りながら〕寝てます。
平匡:寝てる?
みくり:ここ最近寝不足だったみたいで、倒れるように寝てくれました。
〔ソファで百合、倒れ寝している〕
みくり:すごく怒ってたので、すこしでも気を鎮めようと、お酒を飲ませたんです。
〔テーブルの上に飲みかけのワインとつまみ〕
平匡:ヤマタノオロチ退治の要領ですね。
みくり:そっと戻って、仲むつまじい夫婦の芝居をしましょう!
平匡:目覚めてすぐ、親密感溢れる僕たちを目撃する…
みくり:その上で、風見さんの家へ行くぐらいでは、ビクともしない関係だという説明を!
平匡:わかりました!〔と家へ帰ろうとする〕
みくり:あ、ちょっと待って!…はい。〔と両手を広げてハグしようとする〕
平匡:えっ?
みくり:恋人らしい空気を醸し出してから行った方が…。
平匡:今日は…金曜です。
みくり:緊急事態ですっ!
平匡:早速ルール崩壊しているじゃないですか…
みくり:いまは目の前の、ヤマタノオロチのことだけを考えましょう。
平匡:そうですね。その通りだ。
みくり:醸しましょう、新婚感!
平匡:出しましょう、親密感!












※TVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』第5話より
COMMENT:このマンション外にある階段での二人のやりとり、状況としてはかなり切迫しているんですよね。百合が突然来て、みくりが風見の家で家事代行をしていると知り、「いますぐ平匡、呼びなさい!説教してやる」と息巻く。二人からすれば、これまで必死に保ってきた〝契約結婚という枠〟が、一気に崩れかねない緊急事態です。だからこそ、ここで二人がやろうとしているのは、恋愛の進展というより危機対応であり、しかもその危機対応が、なぜかとても『逃げ恥』らしくて笑えます。
まず面白いのが、会社から急いで帰ってきた平匡が階段を駆け上がりながら「百合さんは?」と聞き、みくりが「寝てます」と応えるところ。ここだけでもうすでに、普通のラブコメドラマの運びじゃありません。なぜなら、みくりは、怒りを鎮めるために百合を説得したのではなく、寝不足を見抜き、酒を飲ませ、倒れるように寝かせた———この手つきが何とも実務的なんですよね。平匡の「ヤマタノオロチ退治の要領ですね」のたとえにも笑えましたが、相手を論破して勝とうとするのでなく、状態を落ち着かせて時間を稼ぐ。ここで二人は、家庭というより、現場の火消しチームみたいになっている。
その上で、二人は「そっと戻って、仲むつまじい夫婦の芝居をしましょう!」と確認し合います。芝居———つまり、本物の結婚生活でなく〝演技〟のはずなのに、たぶんここからがこのシーンのいちばんのコアで、芝居がただの嘘で終わらないように脚本が仕組んである。みくりが言う「仲むつまじい夫婦の芝居」は、見る人の誤解を解くための偽装工作のはずなのに、二人がそれを声に出した瞬間から、芝居が共通の目的をもった〝共同作業〟になってしまうんですね。ひとりで演じるなら嘘のままなのに、二人で掛け声を揃えた途端、それは同盟の合言葉に変わってしまうわけで。
「醸しましょう、新婚感!」「出しましょう、親密感!」———このセリフ、ちゃんと韻を踏んでいて、戦隊モノの変身コールみたいで可笑しいんですが、ここに、ドラマ化の工夫が最も凝縮されている気がしました。夫婦の芝居って本来、外に見せるためのもの。でもこの二人の場合、その芝居が外に見せる以前に、二人の〝内側〟を揃える役割を果たしている。合言葉を共有した瞬間、「わたしたちは今、同じ目的のために役を演じる」と合意が成立してしまう。イギリスの詩人ジョージ・ゴードン・バイロンが「事実は小説よりも奇なり」ということわざを残していますが、嘘が嘘として成立するよりも先に、その嘘が二人の関係の接着剤として働いてしまう。ここが、『逃げ恥』の不思議さであり、優しさでもあるとおもいます。
そもそも第1話から二人は、契約という形で「枠」を作ることで一緒にいられた。枠があるから安心できた。ところが、百合という外圧が突然襲来したことにより、その枠だけでは足りなくなって、今度は〝夫婦っぽさ〟という別の枠が必要になってしまった。つまりこの二人は、感情で突っ走って親密になるのではなく、外圧に押されることで、親密に見える枠を先に実装してしまう。その実装の合図が、この合言葉なんですよね。
さらに、この直後にみくりが両手を広げ、平匡が「今日は…金曜です。早速ルール崩壊しているじゃないですか…」と返す流れが挟まることで、芝居がますます滑稽になる。緊急事態なのにルール確認が入る。にもかかわらず、みくりは「いまは目の前の、ヤマタノオロチのことだけを考えましょう」と提案し、平匡も「その通りだ」と乗っかる。ここで二人は、ただの嘘つきではなく、同じ敵(外圧)に向かって隊列を整えようとしてしまう共犯者になっていく。
この場面のあと、眠りから覚めてベランダまで出て来た百合にじかに見せつけようと「見せハグ」までして、結果的に空振りに終わってしまうんですが。でも、百合に見せるためだった芝居が、いちばん効いているのは百合でなく、当事者の二人なんじゃないかとおもうのです。合言葉があるから、怖い状況でも同じ方向を向ける。芝居だからこそ、最初の一歩が踏み出せる。そうやって「演技」→「共犯者」→「共同体」へと、関係の位相が一段変わってしまう。そうしたズレを笑いにしながら、しかも短いやりとりで見せ切っているという点において、第5話中盤に置かれたこの階段シーンは、その鮮やかな転換点であり、実に『逃げ恥』らしい名場面だと感じました。

この名セリフ&名場面集で紹介しているセリフは、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を土台に、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』での記述を参考にしています。こんな風にTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿することになった最初の動機については、一巡目の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。5/20に投稿した1巡目の最終回(その100)には、すべての記事内容を総括するコメント、全100回のINDEXつきリストと関連リンク集を載せました。
・TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その100・最終回)
また、当塾ではすべて関連し合っているという考え方を大切にしていますので、さらに詳しく知りたいという物好きなお方(笑)は、タグ「逃げ恥」を付している過去記事のみならず、他の記事を適宜アクセスください。アクセス数が最も多いカテゴリーは、今日の名言シリーズ(現在その130まで投稿)ですし、また、寺子屋塾のエッセンスをなるべく短いコトバで端的に知りたい方は、つぶやき考現学をご覧下さい。最近は、易経、論語、仏典などをひもといている古典研究関連カテゴリの記事もアクセスが増えてきています。
明日は第5話から(その16)の記事でとりあげたシーンへのコメントをリライトして投稿する予定です。
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