孫泰蔵『冒険の書 AI時代のアンラーニング』
2024/01/11
1/6に投稿した記事から、
年末から年始にかけて4回に分けて書いた
「2023年のふりかえり年間読書ベスト24」で
紹介した24冊の本の中うち、
このblogの記事でこれまで
あまり取りあげてこなかった本を中心に
内容を紹介することを始めていて、
今日がその6回目になります。
1/6の記事で紹介したのは、
1/3に投稿した(その3)の記事で⑨にとりあげた、
また、1/7の記事で紹介したのは、
1/4に投稿した(その4)で⑲にとりあげた、
佚斎樗山(高橋有・訳&解説)『新釈 猫の妙術 武道哲学が教える「人生の達人」への道』。
1/8の記事で紹介したのは、
1/3に投稿した(その3)の記事で⑮にとりあげた、
ハナムラチカヒロ『まなざしの革命 世界の見方は変えられる』。
1/9の記事で紹介したのは、
1/4に投稿した(その4)で⑱にとりあげた
そして、昨日1/10の記事では、
1/3に投稿した(その3)の記事で⑩にとりあげた
を紹介しました。
さて、昨日の本は教育、学習がテーマだったので
類似カテゴリの本ではあるんですが、
1/4に投稿した(その4)で⑳にとりあげた
昨日の本は、同じ教育カテゴリーの本でも
小学生高学年向けに書かれたこともあって、
個人の学ぶ姿勢にスポットが当たってましたが、
今日のこの本の内容は、
時間軸においても空間軸においても
もうちょっと大きなスケールで
設定されていると言ってよいでしょう。
上の画像は本書のP.10
「父からの手紙」の扉として書かれている
あけたらしろめさんの挿画です。
『冒険の書』というタイトルは
本書の舞台設定でもあって、
父親が子どもに向けて、
冒険に出かけた子どもに読んで欲しいとおもって
書いたという設定になっているんですが、
まずは、本書のまえがきのつぎに置かれている
「父からの手紙」を全文引用して
’ご紹介します。
(引用ここから)
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君へ
この本は、タイトルにあるとおり、冒険者のための本だ。
冒険とは「危険を承知で、成功するかどうかわからないことをあえてやってみること」と辞書にあるけれど、父さんはこの本を、君がそういう人生の冒険に実際に出た後に読んでほしくて書いた。
だから、最初にあえて言っておくけれども、もし君がまだ冒険に出ていないのなら、どうかこの本は読まないでほしいんだ。
なぜなら、この本は実際に冒険に出て、本当に実感がわいた時にしか伝わらないことを書いたから。それを事前に知って頭でわかった気になってしまうと、実際の旅の時に見逃してはいけない、とても大事なことをみすみす見すごしてしまうかもしれないからなんだ。
そもそもこの本を書こうと思ったのは、君はもう覚えていないだろうけど、君が小学生の頃のある朝、僕に放ったひと言がきっかけだった。ゲームに夢中になっていた君に、遅刻すると面倒だと思った僕が「早く学校に行くよ!」と急かしたところ、君は「もっと遊びたいよ!」と学校に行くのを渋り、僕をじっと見つめ、泣きながらこう問うてきた。「ねえ、なんで学校に行かなきゃいけないの?」
そこで僕は思わず黙りこんでしまった。そうたずねられてうまく答えられない自分に気がついてしまったんだ。
自分も子どもの頃、こういうシンプルな問いをたくさん持っていたように思う。それがいつしか、まわりの「あたりまえ」によって消えていった。
消える前には少なからず葛藤があったはずだけど、いつしかそれも忘れてしまうものなのかもしれない。
君が学校に行きたがらなかった理由、それは明らかにそのゲームのほうが楽しかったからだよね。そもそも、なぜ学校の勉強はあんまり楽しくないのだろうね。大人たちはこう言う。
「勉強しないであとあと苦労するのは本人であり、それを見すごすわけにはいかない。勉強をしなかったせいで人生の選択肢が狭まるようなことがあったら、みじめな気持ちになるだろう。だからこそ、今は心を鬼にして学力をつけさせなければならない」
そして、君自身もこう思っているかもしれない。
「自分はまだ学生だから、ガマンして勉強して、いつか自由を勝ちとるんだ」
その気持ちはよくわかるよ。なぜなら、自分もそういう人間だったからね。僕も「いい大学に入りさえすれば、人生の選択肢が増える。自由になれる」と信じていた。
だから、勉強する意味を「試験に合格すること」にしか見いだせなかった僕の受験勉強は苦痛の極みだった。ノイローゼ一歩手前まで追いつめられた僕は、大学生をうらやみ、社会をうらみ、おのれの運命を呪った。
あれから30年近くがたったけれど、当時の自分をふり返るたびに「本当にあれでよかったのだろうか?」と心にひっかかるものがある。
「なにかを新しく知ることは、本来すごく楽しくて、心がときめくことなんじゃないのか?」
そんな素朴な疑念がどうしても晴れないからなんだ。なのになぜ、あんなに苦しかったのか。そしてその苦しみの先に、果たして「自由」はあったのか。
そもそも、なぜ子どもは学校に行かなければならないのだろう。
なぜがんばって勉強をしないといけないのだろう。
なぜ好きなことをしたまま大人になれないのか。
そんな疑問がたくさん浮かんできて、いてもたってもいられなくなった僕は、自分なりの答えを求めて、探究の旅に出ることにした。
その旅を経て思うのは、もし僕が今、君のように生徒だったら、学校には行かないだろうということ。そのかわり、自分が今好きでやりたいことをとことんやるだろうね。
それは、学校がくだらないとか、学校に行く意味がないとか、そういうことではなく、今どうしてもやりたい、今しかない、と思うことに専念するだろうということ。
なぜなら、自分がやりたいと思うことがいつでもできるのと同じように、勉強だってやりたくなった時にいつでもできるからだよ。
「今学力をつけないと大人になってから苦労する」なんていうのは、世界を変える気がない大人の戯言にすぎない。
やりたいことがあるのに、なぜガマンをする必要がある?
好きなことがあるなら、なぜそれだけを一日中やれるように環境を変えない?それが自分を変える、つまり、世界を変えるってことだろう?
「それはお父さんが大人だから、一回経験してるから、そう思えるんじゃないの?」と君は思うかもしれない。だが、僕は「そうじゃない」と言いきれる。なぜなら、僕も少し前に、君の「学校」にあたるものをことごとくやめて、冒険に出かけたからだ。
年齢や立場、世の中の常識など、「大人」と呼ばれる人たちの言うことに縛られることなく、自分の感覚を信じて冒険に出ると決め、「危険を承知で、成功するかどうかわからないこと」をあえてやってみたんだ。
やりたくもないことを、自分をだまして続けることはできない。「そんなことやってる場合じゃない」と思ったんだ。
つまり、なにかを始めたり学んだりするのに、年齢や時期は関係ないってこと。何歳からでも、いつでも、今すぐにでも、自分を変えて行動することはできる。 僕はこの生命がつづく限り、本気で世界を変えるために冒険を続ける。そんな父さんが、君が実際に冒険に出ると決断し、大いなる一歩を踏み出した時のために、もう二度と会えないかもしれないと本気で魂を込めてこの本を書いた。
君は君、僕は僕だ。君を僕の型に入れようというような気持ちはみじんもない。君は君の持っているものを、わずらわされることなく発揮すればそれでいい。
不安と興奮とで眠れなくなるほどのことを決意して、先の見えない道なき道を進む。「やっぱりやめようかな」と迷うこともあるだろう。正直、「怖い」と思うかもしれない。恐怖を乗り越え、勇気を出して自分の道を切りひらく決断をしたなら、ぜひこの本を読んでほしい。
もし、今まさにそういう状況にいるのなら、ぜひ手にとって今すぐ読み進めるといい。ここには父さんが旅をして知り得た、世界の秘密の一端が書いてあるから。
父より
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(引用ここまで)
この「きみへ」という文章には、
本書のアウトラインが
とても明確に提示されていましたね。
本書の真ん中辺り第3章の終盤に、
そもそもわたしたちが
今の社会を生きづらく感じてしまうモトのひとつは、
「遊び」と「学び」と「仕事」を
分けて考える姿勢(=メトリクラシー社会)
にあるんじゃないかという仮説を立て、
それを乗り越えるために
自分に何ができるかチャレンジしているんだという
話が書かれているんですが、
これについては
わたしもかなり近いスタンスなんですね。
たとえば、こうして毎日書き続けている
この寺子屋塾blogの記事は、
教室経営の一環として書いていると
多くの人はおもわれていることでしょうが、
基本的にわたしは、
「遊び」と「学び」と「仕事」を分けないという
スタンスを大事にしながら
教室を運営しているので、
もちろん経営的な部分が主軸ではあるんですが、
わたし自身にとっては、
学びや生活のプロセスを記した
憶え書きの役割をもったものであるのと同時に、
いつわたしが天に召されることがあっても
そのとき後悔することがないよう、
このblogは妻や二人の息子たちに向けて書いている
遺書のつもりでもあるんですね。
孫さんとわたしのスタンスがかなり近いためか、
メトリクラシー社会をいかに乗り越えるかという
話題の後、第4章に登場するのは、
親鸞や荘子、マルセル・デュシャンといった
わたしが20代30代という若かった頃から
持続的に関心を持ってきた人々であり、
また、その後に続く最後の第5章のタイトルが
学びほぐそう UNLEARN となっていることも
大きく頷けることでした。
(その4)の記事のコメントには
たぶん日本の教育は大きく変わらないといけないと
多くの人が感じているとおもいますが、
具体的に何をどのように変えればいいのかとなると
色々と議論が百出しまとまらないかもしれません。
そういう意味では、本書に書いてあることも
ひとつの考えでしかないわけですが、
表紙カバーカバーの袖にある言葉
「答えようとするな、むしろ問え。」は
本書のアウトラインを象徴していると
言ってよいでしょう。
と書いたように、昨日紹介した本に続いて
今日の孫さんのこの本も、
「問うこと」は大きなテーマになっています。
「おわりに 新しい冒険へ」の末尾には、
本書の内容を総括するように
つぎのような文章が書かれているんですが、
それを読んでみて
実はわたしもこういう場をつくろうとして
寺子屋塾を始めたんだよな〜と
改めておもいだしたのでした。
なにかの意図をもって通うのではなく、
ともかくそこへ行って、
それからなにをして遊ぶかを決められる特別な場所。
なにが起きるかがあらかじめわからないからこそ、
新しい遊び、すなわち、
新しい探究の種が生まれる場所。そこは、
人々が常に学びとアンラーンを繰り返しながら、
自分がとらわれている「箱」を開け放ち、
可能性を解き放つ場所になるはずです。
例によって長くなりましたが、
最後にP.359〜361に本書を書くにあたって
もとになっている80の問いがリストされているので、
それを引用してこの記事の終わりとします。
答を出そうとすることよりも
「問いを立てること」が大事というのが
本書の主旨ではあるんですが、
もしあなただったらこの問いに対しどう答えるか
自分なりに考えてみるのも
おもしろいかもしれません。
(引用ここから)
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QUESTION INDEX 本書の問い
第1章 UNLEASH 解き放とう
・なぜ学校の勉強はつまらないのだろう?
・世界に平和をもたらすものはなにか?
・これからの時代を生き抜くためになにを身につけるべきか?
・もしなにも制約がなかったなら、どんなふうに学べたらいいか?
・学校はいつから生徒に自ら服従させるようになったのか?
・子どもと大人はなぜ一緒に学べないのか?
・学校がそうなったのには、 誰にどんな意図があったのか?
・なぜ人は早くから学び始めないとダメだと考えるのか?
・人生のすごし方を根本から変えるにはどうしたらいいか?
・学習レベルが早く上達するとなにがいいのか?
・なぜ基礎から学ばないとダメなのか?
・なぜ世の中にはルールが多いのか?
・ルールのかわりにつくるべきものはなんなのか?
第2章 UNLOCK 秘密を解き明かそう
・子どもたちはなんで学校に行くのか?
・人はなぜいじめるのか?
・いじめがなくなるようにするにはどうすればいい?
・学校の勉強がつまらない本当の理由はなにか?
・どうして 「遊び」 と 「学び」 は分けられたのか?
・なぜ「子ども」 が 「大人」 と区別されるようになったのか?
・なぜ子どもあつかいをするようになっていったのか?
・人間は生まれた時は「まっさらな板」なのか?
・人は子ども時代をどうすごすべきか?
・社会を良くするためにいちばん大事なとりくみはなにか?
・ルソーさんはなぜ12歳まで本を読ませるなと言ったのか?
・ロバート・オーウェンさんが生きていたら、どう社会を変えようとするか?」
・ジョン・ロックさんやジャン=ジャック・ルソーさんの考えのどこが問題か?!
・教育を変えたければ、どこから始めればいいか?
第3章 THINK OUT LOUD 考えを口に出そう
・なぜ大人は勉強しろというのか?
・「能力」という概念はどこから生まれたのか?
・「能力」とはなにか?
・「能力」が信仰されるようになったのはなぜか?
・なぜ「能力」が実在すると信じるようになったのか?
・「才能」とはなにか?
・評価をしなくていいのか?
・評価にかわるものとして有望なものはなにか?
・メリトクラシーとはなにか?
・メリトクラシーのなにが問題なのか?
・学力なんか身につけてどうするのか?
・メリトクラシーを超えられる可能性はどこにあるか?
・これからの子どもたちは学校でなにを勉強するべきか?
・能力を身につけてなにがいけないのか?
・なぜお母さんはガミガミ言うのか?
・どうやって自己責任という袋小路から抜け出せばいいのか?
・“Thinking outside the box”とはなにか?
・どうして夢中なまま大人になっていくことができないのか?
第4章 EXPLORE 探究しよう
・なぜ好きなことだけして生きていけないのか?
・なんのために努力をする必要があるのだろうか?
・そもそも「役に立つ」ってどういうことか?
・無用之用とはなにか?
・どうやったら大事なことが人にうまく伝わるだろうか?
・他力本願とはなにか?
・なぜ善人よりも悪人のほうがポテンシャルがあるのか?
・なぜ「問題解決」という考え方がイケてないのか?
・難題を解決するいとぐちはどこにあるのか?
・イノベーションとはなにか?
・環世界とはなにか?
・機能環とはなにか?
・創造性の源はなにか?
第5章 UNLEARN 学びほぐそう
・アンラーニングとはなにか?
・なぜ「なにがしたいのかわからない」という人が生まれるのか?
・「自立する」とはどういうことか?
・人間の本性はなにか? そう考える理由はなにか?
・なぜ「ギブ・アンド・テイク」はイケてないのか?
・世界をうまく回すにはどうすればいいか?
・もし明日死ぬとしたら、我が子にどんな言葉を遺すか?
・「世界は自ら変えられる」と思えるためにはなにが必要か?
・なぜ一方的に知識を詰めこむ教育がイケてないのか?
・あらためて、なぜ学ぶのか?
・考えがちがう人たちが溝を埋めるにはどうすればいいか?
・世界を変えるにはどうすればいいか?
・人間として善く生きるとは、どういうことか?
・人々にとって公共の利益とはなにか?
・教育はなんのためにあるのか?
・これからの時代の学校の存在する意義はどこにあるのか?
・これからの時代の学びの場はどのようにあるべきか?
・後世になにを遺すべきか?
・最も尊敬されるべき人間像はどのようなものか?
・私たちはなぜ死にたくないのか?
・なぜいつまでも「まだなにも準備できていない」 と思うのか?
・あらためて、教育とはなにか?