マルセル・デュシャンのどこがスゴイのか?
2026/08/09
AI時代において、そもそも
「教養」とは何なのか?という問いに対して
「反応の〝前〟を整える力」だと書きました。
それで、今日はそれを具体的に
どのように実践するかにつながる話を
書いてみようとおもいます。
2週間ほど前のことですが、
中村教室にやってきていた塾生数名が
対話しているなかで、
「美しさ、美意識とは何か?」というテーマが
浮かび上がり、
「マルセル・デュシャンの作品〝泉〟は
どこが美しいのか?」という〝問い〟をめぐり
やりとりをしていました。
たぶん、現代アートについて語ろうとするなら
デュシャンの存在抜きに
何も語れないとおもうし、
わたしもその場でふたことみこと
喋った記憶があります。
それで、「デュシャンのどこがそんなにスゴイのか
5つ挙げて説明してください」と問われたなら、
———まあ、「創造」や「解釈」を嫌ったと言われる
デュシャンですから、
この「説明」という行為自体が、
まったくそぐわないのでしょうが、
ブログという場でこんなことを書いていても
話が先にすすまないので、あくまで
もし、そのように問われたと仮定して、
わたしならどう説明するだろうかと
あとで考えて整理したことを以下記してみようかと。
・階段を降りる裸体 No.2(1912年)

1.「芸術とは何か?」という問いを作品にしたこと
デュシャン以前の美術は、
基本的に「美しいものを作る」
「技術で表現する」が中心で
デュシャン自身も画家として出発しました。
しかし彼は油彩画の制作は1910年代前半に放棄し、
1917年、便器にR.MUTTと署名し
《泉》として出品することで、
美術作品の価値そのものを問い直したのです。
結局、展示委員会によって作品の展示は拒否され
実際に展示されなかったんですが
このデュシャンのアクションは物議を醸し、
美術作品の価値は、
手で作った〝美しさ〟だけで決まるのか?という
大きな〝問い〟を投げかけることになりました。
つまり、美術を「見るもの」から「考えるもの」へ
大きく転換させた点がスゴいです。
・自転車の車輪(1913年)

2.レディメイドによって日用品を芸術に変えたこと
彼は既製品を選び、少し手を加えたり、
文脈を変えたりして作品にしました。
つまり、芸術家の役割を「何かを作る人」から、
選ぶ人、意味をずらす人、
〝問い〟を設定する人へと
大きく拡張したことになります。
〝芸術の日常化〟という意味においても、
現代アート、コンセプチュアル・アート、
インスタレーション、ポップアートなど、
このような発想なしには考えられません。
・L.H.O.O.Q(1919年)

3.技巧や情熱よりアイデアを中心に置いたこと
デュシャンは、絵のうまさや感情表現よりも、
作品の背後にある〝概念〟や〝仕掛け〟
〝思考の構造〟というものを重視しました。
これは「芸術は目で味わうもの」という常識を壊し、
作品と出会う体験や考え方そのものが
芸術だと示した点において、
斬新で画期的だったようにおもうのです。
・大ガラス(1915〜23年)

4.美術制度そのものを批評したこと
デュシャンの《泉》がすごいのは、
便器という事物そのものが与えたインパクト以上に、
展覧会、審査員、美術館、署名、タイトル、
展示空間といった
〝芸術を芸術に見せている仕組み〟そのものを
あぶり出してしまったことでしょう。
つまりデュシャンは、作品を作っただけでなく、
「美術の世界」という社会的制度そのものまで
作品の一部として批評したわけです。
・遺作(1946~1966年)

5.後世への影響が圧倒的に大きいこと
ピカソが「20世紀の絵画」を大きく変えた人なら、
デュシャンは「コンセプチュアル・アート」の
先駆けとなるような作品を手がけ、
20世紀以降の
「芸術についての考え方」そのものを
大きく変革した人と言えるでしょう。
具体的に人物名を挙げるなら、
音楽家のジョン・ケージ、
アンディ・ウォーホル、ヨーゼフ・ボイスなど、
アートの世界だけにとどまらず、
現代芸術の世界全般に強い影響を与えました。
わたし自身、現代アートの世界に
積極的に触れるようになったのは、
30歳を過ぎてからでしたが、
ジョン・ケージやナム・ジュン・パイクなど、
デュシャンの影響を受けたアーティストを通じて
10代後半の頃から間接的に
影響を受けていたと後で知ることに。
「これは芸術なのか?」という
現代アート特有の問いは、
かなりの部分でデュシャン以後の問いです。
・星型の剃髪(マルセル・デュシャン)1921年
撮影:マン・レイ

もしデュシャンのすごさを一言でまとめるなら、
作品を作ったこと以上に、
〝芸術というゲームのルール〟自体を
変えてしまったことと言えるのではないかと。
たぶんデュシャン自身は、
こんな風に言葉でもっともらしく解説され
評価されること自体を
何よりも嫌ったことでしょうが。笑
デュシャンについてのオススメ記事は、
松岡正剛さんの千夜千冊 第57夜
マルセル・デュシャン&ピエール・カバンヌ
2017年、《泉》が発表されて100年を記念し
東京国立博物館で開かれた特別展のポスター

記事のさいごに、
ジョン・ケージが1947年に作曲した
『マルセル・デュシャンのための音楽』をプレゼント
John Cage - Music for Marcel Duchamp (1947)
演奏:高橋アキ(プリペアドピアノ)
※参考過去投稿記事
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