TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(二巡目・その17)
2026/08/30
8/14からこの寺子屋塾ブログでは、
TVドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集の
二巡目を投稿しています。
どんな流れ、経緯から二巡目を投稿し始めたか、
その理由やきっかけ等については、
関連している8/13以前の記事等をご覧ください。
第1話から第11話まで順番に1シーンずつ紹介し、
最終話まで行ったらまた第1話に戻るスタイルで
(その45)まで投稿するつもりです。
基本一巡目100記事で取り上げたシーンへの
コメントをリライトして投稿しているんですが、
さすがにそればかりだと能がないので、
(その10)の記事や(その15)の記事では
シーンそのものを差し替え
新たに書き起こした場面のシナリオに
コメントする記事を書きました。
今日は一巡目(その17)で取り上げたシーンへの
リライト記事なんですが、
第6話中盤部の25分45秒過ぎたあたり、
BAR山で百合と沼田が
仕事のことについて話している場面を。
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〔BAR山にて〕
土屋百合:結局、わたしが自分で資料直してさ~、まあ仕事だからしょうがないんだけど。
沼田頼綱:仕事の半分は、「仕方ない」でできている。
百合:残りの半分は?
沼田:「帰りたい!」
百合:やる気ゼロじゃない? 笑
沼田:ハハハ・・・でも、仕事だけが人生じゃぁない。ほどほどの仕事でも食って行けりゃぁそれでいいじゃない。
百合:それも一つの真理よね~
沼田:百合さんは、やりたい仕事をやってるんだよね?
百合:まあね。でも最近、自分がかけた時間と労力に対して割が合わないような気がしてきちゃって。
沼田:割とか言い出したら、何もできないよ。
百合:そうなのよね~。





COMMENT:このBAR山での百合と沼田のやりとり、ぱっと見は「仕事の愚痴を笑いに変える」軽口の応酬なんですが、第1話〜第6話までの流れの中に置いてみると、実はかなり核心部に触れているシーンだとわかってきます。一巡目の記事でコメントしたように、このシーンの沼田のセリフは放送直後から反響が大きかったようですね。
まず、その沼田名言「仕事の半分は、『仕方ない』でできている」です。これっていかにも「やる気ゼロの迷言?」として笑えるんだけど、よくよく考えると「諦め」でなく、むしろ境界線の宣言なんですよね。仕事って、自分の理想どおりに進むことの方が少ない。人が絡む以上、予定外や理不尽がふつうで、おもいどおりにならないことがしばしば起きます。でも、そこに毎回いちいち心を全部差し出していたら身が持ちません。だから、そこで「仕方ない」と言える人は、けっして冷たいわけでないし、燃え尽きないための線引きができているという意味においては、ある種の処世術とも言えるんじゃないかと。
百合は百合で、「まあ仕事だからしょうがないんだけど」と言いながら、ちゃんと自分で資料を直してしまう責任感の強いタイプですよね。ちゃんとしたいし、ちゃんと関わりたい。でも、だからこそ、しんどくなる。第6話までの百合の流れって、まさにそれで、頑張るほど、割に合わない感覚や、報われなさが積もっていく。その一方で沼田は、「仕方ない」を口にすることで、自分を守るラインを引く。ここ、価値観の違いとして笑えるセリフなんだけど、同時に『逃げ恥』が描いている「関係の運用」そのものなんですね。恋愛でも仕事でも、境界線をうまく引かないと、関係は続かないので。
で、さらに刺さるのが次の「残りの半分は?」「帰りたい!」というやりとり。ここは漫才としても完璧なんですが(笑)、これも単なる怠惰というより、人生の重心を取り戻す合図のように聞こえます。仕事って、真面目にやればやるほど、いつの間にか人生の中心を占拠してしまう。気づけば、頭の中がずっと仕事のことでいっぱいになって、帰っても休めない。そうなると、人は「帰りたい」と言えなくなる。言えなくなるから、余計に帰れなくなる。つまり「帰りたい」は、やる気がない宣言ではなく、仕事が人生を侵食しはじめたときのアラームみたいなものでしょう。
沼田が続けて言う「仕事だけが人生じゃぁない。ほどほどの仕事でも食って行けりゃぁそれでいいじゃない」も、さらっと軽く聞き流してしまいがち。でも、けっして努力を全面否定しているわけでないし、人生を仕事に差し出しすぎないための智慧として聞くと、なかなかシリアスな問題に触れてきます。ドラマの舞台となっているBAR山という〝場〟が、そうした姿勢をおもい出させてくれるのでしょう。仕事の世界の外側に、呼吸できる場所があるから、「ほどほど」が言える。たぶんここが大事で、だから『逃げ恥』は、こういうサードプレイスのシーンを何度も出してくる。家でも職場でもない、関係の重さをゆるめられる第三の場所があるから、壊れずに済むんだと。
そう考えてみることで、このシーンは単なる箸休めじゃなくて、第6話のこの後で噴き出す「わたしばっかり」「俺ばっかり」問題の手前で、境界線の引き方と重心の置き方を、〝笑い〟として先に提示している場面なんだと気づきました。人は頑張りすぎると壊れてしまいます。でも、手足を投げ出したままでも生きてはいけない。その間をつなぐ言葉が、「仕方ない」であり、「帰りたい」なのかもしれません。語り方を間違えると重くなってしまう人生訓を、沼田の軽口でさらっと教えてくれるのが、なんとも『逃げ恥』らしいんですよね。

この名セリフ&名場面集で紹介しているセリフは、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を土台に、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』での記述を参考にしています。こんな風にTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿することになった最初の動機については、一巡目の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。5/20に投稿した1巡目の最終回(その100)には、すべての記事内容を総括するコメント、全100回のINDEXつきリストと関連リンク集を載せました。
・TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その100・最終回)
また、当塾ではすべて関連し合っているという考え方を大切にしていますので、さらに詳しく知りたいという物好きなお方(笑)は、タグ「逃げ恥」を付している過去記事のみならず、他の記事を適宜アクセスください。アクセス数が最も多いカテゴリーは、今日の名言シリーズ(現在その130まで投稿)ですし、また、寺子屋塾のエッセンスをなるべく短いコトバで端的に知りたい方は、つぶやき考現学をご覧下さい。最近は、易経、論語、仏典などをひもといている古典研究関連カテゴリの記事もアクセスが増えてきています。
明日は第7話から一巡目(その18)の記事でとりあげたシーンへのコメントをリライトして投稿する予定です。
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