TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(二巡目・その21)
2026/09/03
8/14からこの寺子屋塾ブログでは、
TVドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集の
二巡目を投稿しています。
どんな流れ、経緯から二巡目を投稿し始めたか、
その理由やきっかけ等については、
関連している8/13以前の記事等に記したので、
未読の方はご覧ください。
第1話から第11話まで順番に1シーンずつ紹介し、
最終話まで行ったらまた第1話に戻るスタイルで
(その45)まで投稿するつもりです。
基本一巡目100記事で取り上げたシーンへの
コメントをリライトして投稿しているんですが、
さすがにそればかりだと能がないので、
(その10)の記事や(その15)の記事では
シーンそのものを差し替え
新たに書き起こした場面のシナリオに
コメントする記事を書きました。
今日は一巡目(その21)で取り上げたシーンへの
リライト記事なんですが、
第10話後半部の
38分50秒過ぎた辺りから始まる
風見のマンションでの百合と風見のやりとりを。
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〔風見のマンションにて〕
百合:大丈夫よ、すぐそこなんだから。夜道ぐらい一人で帰れないとやっていけない。
風見:……
百合:今度うちにも遊びに来て? 甥っ子特典で、おいしいワイン飲ませてあげる。
風見:本気で甥っ子だって思ってるんだ。
百合:ん?
風見:ぼくは百合さんを…抱きたいって思ってるのに…
百合:!〔絶句して〕
風見:……
百合:…おばさんを、からかわないのっ!
風見:……
百合:じゃぁねっ!〔と、笑いながら軽い調子で部屋を出て行く〕
風見:〔百合が去った後ひとり言として〕何を言ってるんだ俺は…
百合:……!〔ドアの外でフリーズしている〕
百合:はあっ!……びっっっくりした~っ!












COMMENT:風見のマンションでの数十秒。セリフだけ抜き出すと、ただの「年下男子の不意打ち告白」みたいにも見えるのに、実際にドラマを観ると、もっと危ない手触りが残るんですね。この「危ない」というのは、下品とか過激とかではなく、「こちらがいつも身につけている鎧」が、おもいがけない角度から叩かれて、音が鳴ってしまったという種類の危なさです。
百合は最初から鎧を着ています。「大丈夫よ、すぐそこなんだから。夜道ぐらい一人で帰れないとやっていけない」というセリフは、風見への気遣いであると同時に、百合自身への号令でもあるのでしょう。わたしは一人で帰れる、わたしは大丈夫、わたしはちゃんとしている、と言っておかないと、年齢とか立場とか、余計な視線とか、そういうものに引っ張られてしまうから。続く「今度うちにも遊びに来て。甥っ子特典で、おいしいワイン飲ませてあげる」も同じで、関係を〝甥っ子〟に固定しておくことで、踏み込まれないための予防線を張っています。欲望も不安も、ここでは起動しないことになっている。鎧は、守ってくれる代わりに、こちらの体温まで隠してしまう。
そこへ風見が、いきなり別の言語で割り込んでくる。「本気で甥っ子だって思ってるんだ。ぼくは百合さんを…抱きたいって思ってるのに…」と。普通なら「好きです」で済む場面です。「好き」と言えばまだ抽象的だから逃げ道が残るし、照れ笑いで受け流すこともできる。でも「抱きたい」は具体です。具体すぎて、それまでのふわっとした場の空気を壊してしまう。百合が絶句するのは、驚いたからだけではなく、鎧の継ぎ目を狙って、言葉がいきなり侵入してきたからでしょう。
このとき百合が返す「…おばさんを、からかわないのっ!」も、単純な拒絶というより、壊れた空気をとにかく元に戻すための応急処置に見えます。もし、真面目に受け取ってしまったら、次の一手を要求される。〝年齢差〟も〝体裁〟も〝これまでの自分〟も全部まとめて問い直さなければならなくなる。だから「からかわないで」と枠組みを冗談棚に押し戻し、軽い調子で「じゃぁねっ!」と去ってしまう。逃げる、というより、鎧を着直すためにいったん場を閉じたように見えました。
でも、この場面が強く印象に残るのは、その後ですよね。ドアの外で百合がフリーズする。言葉を使って守ったはずの鎧の中身が、身体として漏れ出てしまう。動きが止まってしまう、という形で。漫画なら一コマの沈黙で表現できるものを、ドラマは〝停止〟で見せてくる。しかも最後に「はあっ!……びっっっくりした~っ!」と、やっと息が出る。自分で自分の動揺を笑いにして、もう一度現実に戻るための、苦い深呼吸みたいなセリフですね。
恋愛って、優しい言葉で始まるとは限らないんだな、とつくづくおもいます。むしろ、ときどき恋は、具体性の直球で空気を壊してしまうことすらある。そして、壊された側は、なかなかかっこよくは返せない。鎧を着ていたことまでバレてしまう。でも、その〝止まってしまう時間〟の中にしか、出てこない本音もある。百合が止まったのは、転びそうになったからじゃない。たぶん、ほんの一瞬だけ、鎧の外の風に触れてしまったから。あの停止は、拒絶ではなく、自然な反応だったのではないかと。つまり、事件は起きてしまった。もう「甥っ子特典」だけでは片付かない。そういう引き返すことのできない一瞬が、玄関前の百合の姿には確かに写っていた気がしたんですが。

この名セリフ&名場面集で紹介しているシナリオは、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を土台に、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』での記述を参考にしています。こんな風にTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿することになった最初の動機については、一巡目の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。5/20に投稿した1巡目の最終回(その100)には、すべての記事内容を総括するコメント、全100回のINDEXつきリストと関連リンク集を載せました。
・TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その100・最終回)
また、当塾ではすべて関連し合っているという考え方を大切にしていますので、さらに詳しく知りたいという物好きなお方(笑)は、タグ「逃げ恥」を付している過去記事のみならず、他の記事を適宜アクセスください。アクセス数が最も多いカテゴリーは、今日の名言シリーズ(現在その130まで投稿)ですし、また、寺子屋塾のエッセンスをなるべく短いコトバで端的に知りたい方は、つぶやき考現学をご覧下さい。最近は、易経、論語、仏典などをひもといている古典研究関連カテゴリの記事もアクセスが増えてきています。
明日は第11話(最終回)から一巡目(その22)の記事でとりあげたシーンへのコメントをリライトして投稿する予定です。
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