TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(二巡目・その6)
2026/08/19
昨日投稿した記事の続きで、
TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集
二巡目の6回目です。
本日紹介するシーンは
一巡目で投稿したこちらの記事のリライトですが、
第6話の終盤42分40秒過ぎあたりから、
新婚旅行の名を借りた社員旅行より
帰る途中の列車内でのみくり、平匡のモノローグ。
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〔伊豆修善寺温泉への旅行帰りの列車内にて〕
平匡M:(もしも今、手を重ねたら)
〔座席の上の二人の手、すぐ近くにある〕
平匡M:(みくりさんは、どんな顔をするだろう)
平匡:……
みくりM:(今までどおりでいい)
みくりM:(もうやめる。もう疲れた)
〔みくり、涙がぽろっとこぼれる。気づかれないように拭う〕
みくりM:(何もしない。何も求めない)
みくりM:(この旅が終われば、平穏な日常に戻る)
みくり:……
平匡:……
〔流れる景色〕
平匡M:(あと、ひと駅…)
みくりM:(あと、ひと駅…)
みくり&平匡:……
みくりM:(あとひと駅…)
平匡M:(あとひと駅…)
みくりM:(あと、ひと駅…)
みくり&平匡:……
みくり&平匡M:(永遠に、着かなければいいのに…)














COMMENT:この電車内の場面、やっていること自体は「並んで座っている」だけです。二人の手はすぐ近くにあるのに、重ならない。会話もほとんどない。なのに、なぜこんなに胸がざわつくのかと言えば、ここが恋愛ドラマの〝進展〟でなく、編集によって成立している〝心の対話〟のシーンだからなのでしょう。
平匡のモノローグは「もしも今、手を重ねたら」「みくりさんはどんな顔をするだろう」。つまり相手を見ていて、相手の反応を想像している。ところが、みくりのモノローグは「今までどおりでいい」「もうやめる。もう疲れた」「何もしない。何も求めない」。こちらは相手ではなく、自分を撤退させていく言葉です。主語も方向も違う。片方は踏み出したいのに、片方は引き返したい。普通なら、ここで二人の距離は広がるはずなんですが、ドラマ『逃げ恥』はそんな風には展開しません。セリフがなく、言葉のキャッチボールはない代わりに、モノローグを交互に差し挟むことで、まるで会話が成立しているように見せてしまう。しかもそれが、説教くさくなく、ただ静かに淡々と進んでゆきます。
さらに効いているのが、「あと、ひと駅…」の反復です。ここでの〝ひと駅〟は、単なる時間稼ぎじゃありません。駅までの距離ではなく、現実に戻っていくカウントダウンです。この旅が終われば「平穏な日常に戻る」とみくりは言う。でも、平穏という言葉は、安心のはずなのに、この場面ではなぜかそうではなく聞こえてくるんですね。日常に戻れば、これまでどおりの枠に回収される。社員旅行、雇用関係、火曜日のハグ———そうやって整えられてきたはずの境界線が、ここでは戻ってしまう〝枠〟として立ちはだかる。だから二人は、同じ言葉を何度も繰り返して、時間を引き延ばそうとする。いや、引き延ばすというより、戻っていく現実にブレーキを踏み続けているんですよね。
しかも面白いのは、その反復が、いつの間にか二人の間で同期していくこと。「あと、ひと駅…」を、みくりも平匡も同じように心の中で唱えてしまう。やがて「永遠に、着かなければいいのに…」で合流する。ここで初めて、二人は同じ願いを持つ。手は重ならないのに、願いだけが重なる。TVドラマを沢山観ているわけでもないわたしが言うのも何なんですが、こんな地味な方法で〝シンクロ〟を描く恋愛ドラマって、なかなか無い気がしました。流れる景色を挟むのも上手いですね。時間は容赦なく進むのに、心は進みたくない。その矛盾が、ただ窓の外の風景が流れていくだけで伝わってしまう。
つまりこの場面は、言葉による対話でなく、編集によって成立する〝心の対話〟であり、反復によって生まれる共同の〝祈り〟なんですね。駅に着けば、いつもの生活に戻ってゆく。でも本当は、着きたくない。進みたいのに、戻りたくない。だから「あと、ひと駅…」が呪文みたいに繰り返される。そういう静かな〝地獄〟と言ったらちょっと大げさすぎるかも(笑)ですが、こんなに綺麗に、そしてこんなに切なく映し出しているところが、第6話終盤に置かれたこのシーンの凄さであり、この後に訪れる衝撃的ラストシーンの伏線にもちゃんとなっていると感じました。

この名セリフ&名場面集で紹介しているセリフは、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を土台に、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』での記述を参考にしています。こんな風にTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿することになった最初の動機については、一巡目の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。5/20に投稿した1巡目の最終回(その100)には、記事内容を総括するコメント、全100回のINDEXつきリストと関連リンク集を載せました。
・TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その100・最終回)
また、当塾ではすべて関連し合っているという考え方を大切にしていますので、さらに詳しく知りたいという物好きなお方(笑)は、タグ「逃げ恥」を付している過去記事のみならず、他の記事を適宜アクセスください。アクセス数が最も多いカテゴリーは、今日の名言シリーズ(現在その130まで投稿)で、寺子屋塾のエッセンスをなるべく短いコトバで端的に知りたい方は、つぶやき考現学をご覧下さい。最近は、易経、論語、仏典などをひもといている古典研究関連カテゴリの記事もアクセスが増えてきています。
この連載記事は、『逃げ恥』第1話から第11話まで順番に紹介して一巡したらまた第1話に戻るというスタイルで投稿していくので、明日は第7話からとなります。
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