TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(二巡目・その18)
2026/08/31
8/14からこの寺子屋塾ブログでは、
TVドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集の
二巡目を投稿しています。
どんな流れ、経緯から二巡目を投稿し始めたか、
その理由やきっかけ等については、
関連している8/13以前の記事等をご覧ください。
第1話から第11話まで順番に1シーンずつ紹介し、
最終話まで行ったらまた第1話に戻るスタイルで
(その45)まで投稿するつもりです。
基本一巡目100記事で取り上げたシーンへの
コメントをリライトして投稿しているんですが、
さすがにそればかりだと能がないので、
(その10)の記事や(その15)の記事では
シーンそのものを差し替え
新たに書き起こした場面のシナリオに
コメントする記事を書きました。
今日は一巡目(その18)で取り上げたシーンへの
リライト記事なんですが、
第7話冒頭すぐ1分40秒過ぎたあたりから。
第6話ラストの衝撃シーンを受けて、
平匡のマンションで朝食中の
みくりと平匡のやりとりです。
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〔平匡のマンション・ダイニングにて朝食中~〕
みくり:今朝のお味噌汁、どうですか?
平匡:はい!いつも通りにおいしいです。
みくり:ヨカッタです。
みくりM:(このお味噌汁は、旅館の食事の美味しさに、わたしも本格的な出汁を取ろうじゃないかと発奮)
〔出汁をとっているみくり〕
みくりM:(今朝早起きして、きちんと鰹節から一番出汁を取った、特製のお味噌汁なんですけど……。それはまあどうでもいい。問題は、平匡さんがどういうつもりなのか)
〔コンロの上、網で焼かれる魚。みくりその火をみつめて〕
みくりM:(火をつけておいて放置とは……燃え広がったらどうするつもりなんだ?あなた、放火犯ですかっ?)
みくり:この魚どうですか?
平匡:あ、おいしいです。今まで出たことないですよね?
みくり:はい。焼いたキスです。
平匡:〔むせて咳き込む〕……
みくり:〔笑顔でニッコリ〕……
平匡:〔かすれた声で〕へぇ~おいしいですよね~。













※TVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』第7話より
COMMENT:二人の朝食シーンから始まるこの第7話の冒頭、ここを名セリフ&名場面集のひとつとして切り出したのは、言うまでもなく前回・第6話のラストシーンがあまりに衝撃的だったからです。普通の恋愛ドラマなら、何か事件が起きても、その翌朝は「昨日のアレ、どういうつもり?」みたいな会議が始まる。あるいは照れ笑いで誤魔化して、甘い空気のまま薄く流すのがテンプレでしょう。でも『逃げ恥』はそこで、真正面からの言語化をいったん保留して、生活の手順で〝後処理〟をしながらローカル憲法を更新していくという、ドラマとしてとても風変わりな展開を見せるんですね。
みくりは朝早く起きて、鰹節から一番出汁を取って味噌汁を作る。しかもモノローグで「それはまあどうでもいい」と軽く切り捨ててしまう。ここ、笑えるけど妙に切ない。努力の結晶としての味噌汁は確かに大事だけど、今いちばん大事なのは、平匡さんが旅行帰りのキスをどう位置づけるのか。つまり〝生活の品質〟で関係を整えようとする自分と、〝生活の定義〟そのものが揺れている現実とが、朝の食卓でぶつかっているわけで。
その緊張をいちばん端的に表しているのがコンロの火です。みくりは魚を焼く火を見つめながら、「燃え広がったらどうするつもりなんだ?あなた、放火犯ですかっ?」と心の中でツッコむ。料理の話をしているようで、実は旅行帰りの火種———キスという出来事———を放置している平匡への抗議にもなっている。自分で火をつけたのなら、その火を育てるのか、消火するのか、どっちなのか。放置は一番こわい。恋愛テンプレ的に言えば「進展=幸せ」なんだけど、この二人にとっては「進展=契約見直し、条文改定」でもあるから、勝手に燃え広がってしまうのは困るわけで。みくりの不安は、恋の不安というより関係運用の不安なんですね。
そこでみくりが繰り出すのが「焼いたキスです」作戦。小賢しいみくり全開ですね。笑 この駄洒落ネタは漫画の原作には出てこないんですが、言葉遊びとして笑えるだけじゃなく、ドラマ脚本としてものすごく機能的です。みくりは「先日のキス、どういうつもりですか?」と詰問せずに、キスという単語を朝食卓に冗談の形を借りて持ち込む。つまりこれは、旅行帰りの不意の出来事を「なかったこと」にしないために、二人の会話ルールに〝キス〟を登録しておこうと。そうした仕様の追加作業を、軽口に見せかけてやっているのが何とも巧いところ。
平匡の反応もまた、テンプレvs現実の象徴みたいです。味噌汁には「いつも通りにおいしいです」と優等生的回答を返せる。評価語で安全運転できる領域だから。でも「焼いたキスです」と言われた途端、言葉のOSが落っこちる。むせて咳き込み、沈黙し、かすれ声で「へぇ~おいしいですよね~」と取り繕う。この取り繕いが面白いのは、否定もしないし肯定もしないところ。照れて笑って終わらせるか、逆に怒るか、そのどちらかで分かりやすい処理をするのが普通でしょうから。でも平匡は処理できない。だからこそリアルで、だからこそ後処理の空白が続く。旅行帰りの出来事は、宙に浮いたまま条文化されない。
まとめると、結局この朝食シーンが見せているのは、恋愛の進展ではなく関係の運用更新です。二人はドラマのテンプレに乗っていない。乗れないかわりに、味噌汁の一番出汁を取り、魚を焼く火を見つめ、ダジャレを投げ、咳き込み、沈黙する。生活の地面でしか動けない二人が、その地面の上で少しずつローカル憲法を書き換えていく。そうした〝地味な改定作業〟を、笑いにして見せる。キュンキュンするのに、同時に胃がしくしく痛む。『逃げ恥』の凄さは、テンプレの代わりにアンビバレンツな現実を出す瞬間を、ちゃんとドラマとして見せているところなのでしょうね。

この名セリフ&名場面集で紹介しているセリフは、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を土台に、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』での記述を参考にしています。こんな風にTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿することになった最初の動機については、一巡目の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。5/20に投稿した1巡目の最終回(その100)には、すべての記事内容を総括するコメント、全100回のINDEXつきリストと関連リンク集を載せました。
・TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その100・最終回)
また、当塾ではすべて関連し合っているという考え方を大切にしていますので、さらに詳しく知りたいという物好きなお方(笑)は、タグ「逃げ恥」を付している過去記事のみならず、他の記事を適宜アクセスください。アクセス数が最も多いカテゴリーは、今日の名言シリーズ(現在その130まで投稿)ですし、また、寺子屋塾のエッセンスをなるべく短いコトバで端的に知りたい方は、つぶやき考現学をご覧下さい。最近は、易経、論語、仏典などをひもといている古典研究関連カテゴリの記事もアクセスが増えてきています。
明日は第8話から一巡目(その19)の記事でとりあげたシーンへのコメントをリライトして投稿する予定です。
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