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陰と陽とは何か㉔「六十四卦(その6)山沢損〜水風井」

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陰と陽とは何か㉔「六十四卦(その6)山沢損〜水風井」

陰と陽とは何か㉔「六十四卦(その6)山沢損〜水風井」

2024/06/26

6/3からこの寺子屋塾ブログでは、

「陰と陽とは何か」というテーマで投稿していて、

本日6/26の記事で24回目になります。

 

①〜⑤は陰と陽のベーシックな基本事項、

⑥〜⑩は八卦の基本事項、

⑪〜⑮は日常生活での応用、

⑯〜⑱は陰と陽についての練習問題集クラックス

⑲からは六十四卦を一つずつ註解というように

中テーマ的なまとまりはあるものの、

全体でひとつらなりの内容を書いてきました。

 

本日投稿する記事内容は、

これまでの投稿をすべて読んでいないと

理解できないものではありませんが、

これまで書いてきた内容を前提としていて、

その内容はすべてつながりあっているので、

以下に未読記事のある方は

可能な範囲で確認下さると有難いです。

 

陰と陽とは何か①(易経の十翼『文言伝』より乾為天)

陰と陽とは何か②(易経の十翼『文言伝』より坤為地)

陰と陽とは何か③「エネルギー構造」

陰と陽とは何か④「求心力と遠心力」

陰と陽とは何か⑤「主観と客観の相対性」

陰と陽とは何か⑥「八卦(その1)」(易経の十翼『説卦伝』)

陰と陽とは何か⑦「八卦(その2)」(卦象と卦徳)

陰と陽とは何か⑧「八卦(その3)」(主爻、陽卦と陰卦)

陰と陽とは何か⑨「八卦(その4)」(裏卦と綜卦)

陰と陽とは何か⑩「八卦(その5)」(なぜ陰が六で陽が九?)

陰と陽とは何か⑪「日常生活での応用(その1)料理の原則」

陰と陽とは何か⑫「日常生活での応用(その2)コマイヌ」

陰と陽とは何か⑬「日常生活での応用(その3)仁王像の不思議」

陰と陽とは何か⑭「日常生活での応用(その4)食べ物にみる陰陽」

陰と陽とは何か⑮「日常生活での応用(その5)運勢、運命、使命」

陰と陽とは何か⑯「練習問題集〝クラックス〟(その1)」

陰と陽とは何か⑰「練習問題集〝クラックス〟(その2)」

陰と陽とは何か⑱「練習問題集〝クラックス〟(その3)」

陰と陽とは何か⑲「六十四卦(その1)乾為天〜水地比」

陰と陽とは何か⑳「六十四卦(その2)風天小畜〜雷地豫」

陰と陽とは何か㉑「六十四卦(その3)沢雷随〜地雷復」

陰と陽とは何か㉒「六十四卦(その4)天雷无妄〜雷風恆」

陰と陽とは何か㉓「六十四卦(その5)天山遯〜雷水解」

 

 

さて、本日の投稿は六十四卦註解の6回目で、

以下41番目から48番目までの8つの卦

 

41.山沢損(さんたくそん)

42.風雷益(ふうらいえき)

43.沢天夬(たくてんかい)

44.天風姤(てんぷうこう)

45.沢地萃(たくちすい)

46.地風升(ちふうしょう)

47.沢水困(たくすいこん)

48.水風井(すいふうせい)

 

について、これまでと同じように、

卦象の図版、卦辞の白文、読み下し文、ひらがな文、

卦辞の大意、井上のコメントと続けて記します。

 

 

〔卦辞白文〕

損。有孚。元吉。无咎。可貞。利有攸往。曷之用。二簋可用亨。 
 
〔読み下し文〕 

損(そん)は、孚(まこと)あれば、元吉(げんきつ)にして、咎(とが)なし。貞(てい)にすべくして、往(ゆ)くところあるに利(り)あり。曷(なに)をかこれ用(もち)いん。二簋(にき)用(もっ)て亨(まつ)るべし。

 

〔ひらがな文〕

そんは、まことあれば、げんきつにしてとがなし。ていすべくして、ゆくところあるにりあり。なにをかこれもちいん。にきもってまつるべし。
 
〔大意〕

山沢損の時、誠があれば大いに吉。問題はない。貞正にして進んで良い。祀るに何を用いるべきか。質素な二つの竹皿を供えれば良い。
 
〔井上のコメント〕

「損」は減らす、損失、投資、奉仕などの意味の卦。卦辞の「曷をかこれ用いん。二簋用て亨るべし」の「簋」は神前へのお供えを盛る竹の器で、「八簋」が正式であっても、それを「二簋」まで簡略化し、質素の極限を表現したもの。何を減らすか、どのように行うかといった形式ではなく心の持ち方が重要と解されています。

内卦「沢(兌)」の土を減らし外卦「山(艮)」に盛る、つまりこの卦は下(内卦三爻)から取って上(外卦上爻)に運んだ象から「損」となったので、その場では損をしたようでも、巡り巡って後々に得をするという暗示があります。また、「山(艮)」は不動、「沢(兌)」は悦びを意味することから、自ら納得し進んでそうしているわけですから、謙譲の精神に徹し、争いは避けて自ら負けるほうがよく、そのことで評価が上がったり、より良い出会いが生まれたりすることもあるでしょう。かといって、見返りを求めるようでは運気もそっぽを向いてしまいますから、計算せず損得勘定なしの純粋なやさしさや誠意、思いやりで接することが大事なとき。また、三陰三陽の爻で構成されているので、恋愛でもバランスを考え相手を立てるほうがうまくいくでしょう。

次の綜卦42.風雷益とセットで捉えることは、「損益」という日常よく使う熟語があることからも分かりやすい卦ですが、雑卦伝には、「損益盛衰之始也。」と書かれています。損が極まれば益、そこから盛んになるし、益が極まれば損、そこから衰えが始まるということでしょう。六四の爻辞は、病気を失うことにたとえていて、お金や目に見える損得ばかりを言っていないことに注意。たとえば、税金を納めることでも、納税したお金が有効に活用されすぐその恩恵を被るわけではありません。効果が波及するまでに時間がかかるのが普通で、因果のつながりを短絡的、意図的に考えずに長期展望と広い視野で捉える必要性も説いています。「人生、損することを心がければ、悩みから遠ざかることができるが、益することばかりを考えるとそれが手かせ足かせとなり、身動きがとれなくなってしまう」という教訓とも受け止めることができるように感じました。

 

 

〔卦辞白文〕

益。利有攸往。利渉大川。 
 
〔読み下し文〕 

益(えき)は、往(ゆ)くところに利(り)あり。大川(たいせん)を渉(わた)るに利(り)あり。

 

〔ひらがな文〕

えきは、ゆくとこあるにりあり。たいせんをわたるにりあり。
 
〔大意〕

風雷益の時、進んで良い。大川を渡っても良い。
 
〔井上のコメント〕

「益」は増す、満たす、充実、利益が上がること。外卦「風(巽)」は従う、内卦「雷(震)」は動くを表しますから、「上を減らして下を益する」を暗示しています。風雷益は、協力を求めて行動することで恵みや実りが多いとき。まわりからの親切は素直に受け止め、協力や融資など好意の申し出があれば、甘えることもこの運気では大切です。また、陽陰の爻が半々ずつ揃っているこの卦は男女の深い仲を表し、恋愛関係好転の暗示もあります。迅速に思いきった挑戦に出ることで不可能が可能になるので、疾風迅雷の如く積極的に打って出るようにしましょう。すっかり諦めていたことに光が差すことがあるかもしれません。

 

また、一つ前の綜卦41.山沢損とセットであることは「損益」という日常でもよく使う熟語があることからも分かりやすい卦ですが、天地否の上卦天の陽爻をひとつ減らし下卦に持って来て増やした形といえ、山沢損は地天泰からその逆を行った形になります。何かが増えたということは、見えないところで何かを失っているということでもあり、同じように何かを失ったということは、見えないところで何かを得ている・・・つまりこの両卦は、偏在しているものを平らにしようとする中庸を貴ぶ考え方から生まれたものと考えることができますが、自らを損することは結果的に相手を益することにつながるので、目先の損得に囚われない姿勢が肝要と言えるでしょう。

 

 

〔卦辞白文〕

夬。揚于王庭。孚號有厲。告自邑。不利即戒。利有攸往。 

 

〔読み下し文〕 

夬(かい)は、王庭(おうてい)に揚(あ)ぐ。孚(まこと)あって號(さけ)ぶ。厲(あやう)きことあり。告(つ)ぐること邑(ゆう)よりす。戎(じゅう)に即(つ)くに利(り)あらず。往(ゆ)くところあるに利(り)あり。

 

〔ひらがな文〕

かいはおうていにあぐ。まことあってさけぶ。あやうきことあり。つぐることゆうよりす。じゅうにつくにりあらず。ゆくところあるにりあり。

 

〔大意〕

沢天夬の時、直接、朝廷で不満を訴え、誠を尽くして呼びかけても危うい。各村から決行の声が上げるが、近隣から説得し武力を用いるのは良くない。進んで良い。

 

〔井上のコメント〕

「夬」は抉る、決断、決壊の意味。「號」は泣き叫ぶこと。「王庭」は朝廷。「邑」は村。「戎」は兵、戦争のこと。外卦が「沢(兌)」で内卦が「天(乾)」ですから、天の上に沢があり、沢の水が蒸発して天上に広がり、それが豪雨となってまさに降り注がんとする象。また、5つの陽爻が重なる上に1つだけ陰爻が位置し、大きな不満が抑えつけられている状態を暗示しています。つまり、この卦は、万事が勢い余って決壊寸前の状態で、不慮の災難に巻き込まれやすい時であるため、性急な行動は控えて、一歩も二歩も退いて事に当たること。たとえ正しいことでも、今は行動を起こすべきときにはないとします。状況が好転するまでしばらく待ち、予想外の問題に巻き込まれないよう気をつけましょう。卦辞爻辞の言葉が突飛で戸惑いますが、唯一の陰爻が上六にあり、力も徳もない小人が最も高い地位に就いているような状況にたとえ、五つの陽爻がそうした上六を駆逐せんとするときの心得を述べていると解してみてください。難しい状況に際して手順を踏むことやタイミングを見計らうことの大切さを教えてくれる卦とも読めるでしょう。

また、次の天風姤は綜卦にあたり、雑卦伝には「夬決也」「姤遇也」の文字が見えますが、両卦は離れたところに書かれていて対として捉えられていません。わたしがこの関係性をどう捉えたかは次の天風姤のところでコメントします。

 

 

〔卦辞白文〕

姤。女壮。勿用取女。 

 

〔読み下し文〕 

姤(こう)は、女(じょ)壮(さか)んなり。用(もっ)て女(じょ)を取(めと)るなかれ。

 

〔ひらがな文〕

こうは、じょさかんなり。もってじょをめとるなかれ。

 

〔大意〕

天風姤の時、女は大変勝ち気である。このような女を妻に迎えてはならない。

 

〔井上のコメント〕

「天風」は情報が流れることを、「姤」は偶然に生じた異質との出会いを意味します。天風姤は、卦象が示すように、一人の女性が五人の男性を相手にしている姿にたとえられ、天風姤の女性とは、男を手玉に取って命令し従わせるような、したたかな女性を意味します。こうした女性は、いい意味で仕事一筋の現代的な女性でしょうが、家の中にはなかなかじっとしておれないでしょう。天風姤の時は、こうしたやり手の美女と出会ったり、予想外の出来事が起こる時です。しかし、素晴らしいと感じることより問題のある出会いが多く、異性問題や不慮の災難などに充分気をつけましょう。とくに甘い言葉で近づいてくる人間は警戒し、誘惑の罠にはまらないように心がけること。ただ、男性にとっては女難の時であっても、女性にとっては仕事面で才能を発揮する時ともいえます。

ひとつ前の綜卦43.沢天夬との関係性は、雑卦伝には記述がないのですが、姤のつくり「后」に「辶」をつければ邂逅の「逅」ですから〝出会い〟の意味で、夬は氵をつければ決壊の「決」ですから、沢から水があふれ出て決壊することを〝別れ〟の意に解すれば、両卦を対比的に捉えられます。次の図に示すように、夬と姤は乾為天を挟んだ十二消長卦でもあるので、乾為天を起点において関係性を捉えるのが分かりやすい卦も知れません。

ただ、天風姤は、同じ消長卦でも、小人ばかり跋扈している世に陽の正しさがようやく戻って来てめでたい(一陽来復)とみる24.地雷復とは対極に位置しています。小人を追い払って(沢天夬)やっと陽に満たされたのにまた小人がやってきたのかと邪魔者扱いし、異質な者とのおもいがけない出会いを凶意に解す場合が少なくありませんが、どのように別れどのように出会うかは内容によるので、単純な善悪のみで決めつけない姿勢も大切だと感じました。

 

 

〔卦辞白文〕

萃。亨。王仮有廟。利見大人。亨。利貞。用大牲吉。利有攸往。 
 
〔読み下し文〕 

萃(すい)は亨(とお)る。王(おう)、有廟(ゆうびょう)に仮(いた)る。大人(たいじん)を見(み)るに利(り)あり。亨(とお)る。貞(ただ)しきに利(り)あり。大牲(たいせい)を用(もち)うるに吉(きつ)。往(ゆ)く攸(ところ)あるに利(り)あり。
 
〔ひらがな文〕

すいはとおる。おう、ゆうびょうにいたる。たいじんをみるにりあり。とおる。ただしきにりあり。たいせいをもちうるにきつ。ゆくところあるにりあり。
 
〔大意〕

沢地萃の時、通じる。王が宗廟に祖先を祀る。有識者に相談することだ。通じる。貞正であれば良い。牛や豚などの大きないけにえを用いて祭祀を行って吉。進んで良い。
 
〔井上のコメント〕

「萃」は集まることで、「大牲」は大いなるいけにえの意。外卦「沢(兌)」は悦びを、内卦「地(坤)」は穏やかに従うことを表します。また、雨が降って地面の上に水が溜まり、悦び従うという意味から人や物、お金が集まり、大繁盛の時を表します。あなたの株が上がり、地位も昇進、人気もうなぎ登りでしょう。また、この卦は登竜門の卦ともいわれ、就職や試験、人事などの競争ごとには難関であっても突破できる活気溢れる時。ただし、人が大勢集まるからにはライバルも非常に多く、不慮の災難も起こりやすいことでしょう。沢地萃の集まる意味は物や人ばかりでなく、心や精神といった見えないものについても言えるので、用心を欠かさないのはもちろん、この機会にご先祖様に感謝の念を捧げましょう。

雑卦伝には「萃聚、而升不來也。」とあり、萃卦は集まり、升卦はのぼって帰ってこないという対比が考えられますが、両卦の関係性については、次の地風升のコメントに詳しく記します。

 

 

〔卦辞白文〕

升。元亨。用見大人。勿恤。南征吉。 
 
〔読み下し文〕 

升(しょう)は、元(おおい)に亨(とお)る。用(もっ)て大人(たいじん)を見(み)る。恤(うれ)ふる勿(なか)れ。南征(なんせい)して吉(きつ)。

 

〔ひらがな文〕

しょうは、おおいにとおる。もってたいじんをみる。うれうるなかれ。なんせいしてきつ。
 
〔大意〕

地風升の時、大いに通じる。有識者と相談することだ。心配しなくても良い。穏やかな南の方向に進めば吉。
 
〔井上のコメント〕

「升」は昇に通じ「進み昇る」という意味の卦。外卦が「地(坤)」なので、内卦「風(巽)」は「木」を表し、地面から木が芽を出し、大きく成長しようとしている姿を暗示しています。ただ、タイミング的にはまだ地中にあるので、開花までには時間がかかります。新しいことに着手してかまいませんが、目上の人の指導に謙虚に従うことと、目の前にある小さなことをコツコツ丁寧に積み上げていく粘り強い姿勢を失わないこと。心に高大な理想や目的を掲げながらも、生命力を蓄え、土台を固めて環境を整えながら、肩の力を抜きリラックスして取り組みましょう。ゆっくり大切に大木に育てていくようなどっしりとした心構えが大切です。

綜卦で一つ前の45.沢地萃が「集まる」意の卦ですから、両卦の関係性を対で捉えてみるとよいでしょう。四陰二陽の組み合わせでできていますが、萃は陽爻に陰爻が集まってくるという風に陽爻の側から見ているのに対し、「昇り進む」意の卦である升は、陰爻が陽爻に向かって進んで行くという風に、陰爻の側から陽爻を見ているわけです。また、升は溜めたエネルギーを使って外側に向かい、萃はエネルギーを溜めることで内側に向かうという捉え方もできるでしょう。

 

 

〔卦辞白文〕

困。亨。貞。大人吉无咎。有言不信。 
 
〔読み下し文〕 

困(こん)は、亨(とお)る。貞(ただ)し。大人(たいじん)は吉(きつ)にして咎(とが)なし。言(い)うことあれど信(しん)ぜられず。

 

〔ひらがな文〕

こんは、とおる。だだし。たいじんはきつにしてとがなし。いうことあれどしんぜられず。
 
〔大意〕

沢水困の時、通じる。貞正でいることだ。大人は吉で、必死に頑張り問題はない。このような時は、いくら訴えても信じてもらえない。
 
〔井上のコメント〕

「困」は困窮、困難、苦しむの意。外卦が「沢(兌)」で内卦が「水(坎)」なので、池に穴があいて水が流れ出てしまい、池が涸渇寸前の干上がった状態。したがって、沢水困の時は、ふさいでもふさいでも底から水が漏れるように、物心ともに困窮します。例えば、貯金を使い果たしたり、愛情が冷めてしまったり、仕事で失敗が続いたりなど、体力気力ともに尽き果て、何をやってもうまくいかない最悪の時期だと考えられます。しかし、あれこれ言い訳したり弁解したりするほど、自らを窮地に追い込んでしまうので、抵抗せず、運気が変わるのを待つことです。「困」という漢字は木が囲まれて動けない状況を示しているので、対処法としては動かず退散するか、囲いを取り去ってOPENにすること。どんな困窮極まったときでも、その状況を自分が受け入れ、人に相談することができれば何らかの道が拓けてくるものです。卦辞に「亨る。大人は吉にして咎なし」とあるのは、困中にあっても、正しい道を守り通し悦び(兌)を失わないのが大人(君子)であり、小人にはできないと解すのが適切でしょう。これ以上悪くなることはないと考え、ありのままの運命を受け入れ、黙々と初志を貫きましょう。

次の綜卦水風井との関係性について、雑卦伝には「井通、而困相遇也。」と書かれ、万人を潤す井戸は人が水を汲みに来ても尽きないので通ずる、困は九二の剛爻がその上にある二陰爻に蔽われ、相遇って剛が困(くる)しむと解されています。要するに、陰陽の関係であるのに塞がれて通じないことを言いたいのでしょうが、この解釈は少し分かりにくいように感じました。

 

 

〔卦辞白文〕

井。改邑不改井。无喪无得。往来井井。汔至。亦未繘井。羸其瓶。凶。 
 
〔読み下し文〕 

井(せい)は邑(ゆう)を改(あらた)めて井(せい)を改(あらた)めず。喪(うしな)うなく得(う)るなし。往(ゆ)くも来(きた)るも井井(せいせい)たり。汔(ほとん)ど至(いた)らんとして、亦(ま)た未(ま)だ井(せい)に繘(つるべなわ)せず、その瓶(つるべ)を羸(やぶ)る。凶(きょう)なり。

 

〔ひらがな文〕

せいはゆうをあらためてせいをあらためず。うしなうなくうるなし。ゆくもきたるもせいせいたり。ほとんどいたらんとして、またまだせいにつるべなわせず。そのつるべをやぶる。きょうなり。
 
〔大意〕

水風井の時、国や村が変わることがあっても、井戸は居場所を変えることなく、汲んでも汲んでも涸れず、また、溢れ出ることもない。そこを往来する人を誰でも養ってくれる。ところが、その井戸のつるべの縄が底に届きそうなのに足りず、あるいは、そのつるべが破れて水が漏れるようなのは凶。
 
〔井上のコメント〕

水風井は、山雷頤や火風鼎とならび〝養い〟の意味をもつ卦。外卦「水(坎)」で内卦が「風(巽)」ですから、風=木ととらえ、水に浮いて本来は上にあるはずの木が下にあるということから井戸の釣瓶を暗示し「井」と名づけられました。卦辞の「邑を改め井を改めず」とは、井戸のために村を移すことはあっても、村のために井戸を移すことはできないという意。それほど井戸は命の水を人々に提供しているにも関わらず、あまり人々に重要なものと意識されることはありません。「ほとんど至らんとするも、また未だ井を繘せず。其の瓶を羸る。」とは「釣瓶がやぶれたり、縄が切れて落ちてしまったりすれば、井戸の水がどんなに有用でも何の意味もなさない」といった意。風(巽)を釣瓶をと捉える発想もオモシロイですが、価値に気づかないことや価値に見抜けないでいるという教えや、正しい理解に至るようなコミュニケーションを図ることの大切さも暗示されているように感じました。よって、井戸の姿にならって静かに、根気よく、陰日向なく、地道な努力を続けることとともに、励まし合うような人間関係を築くことが大切で、一方的に与えるのではなく、互いに協力し合うことでそれぞれの存在価値が実感できると言えるでしょう。6つの爻辞の各々は井戸の水のある位置(高さ)を示していて、最下位にある初爻は泥水なので鳥すらも寄ってこないという状況。井卦は初爻二爻が不正で、三爻より上が正となっているんですが、位が当たっているかどうかがポイントなのでしょう。たとえば地山謙はへりくだる意味なので、低位にある爻ほど卦の意味合いが強く概ね吉運に解されるのに対し、井卦は逆で、井戸の水は上の方ほど澄んでいますから、上位にある爻ほど卦の意味合いが強くなり吉運に解されています。

一つ前の綜卦47.沢水困との対比について、困卦のところで書いたように雑卦伝にも記述は見えますが、困卦は沢が干上がって水が涸れた状態、井卦は井戸のように万人を潤せるほど水が豊富とするのが一番シンプルで分かりやすいのではないでしょうか。

 

 

六十四卦註解の本日分は以上。

 

明日も六十四卦の続きで、

49.沢火革から56.火山旅までを記す予定です。

 

 

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