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TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その66)

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TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その66)

TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その66)

2026/04/16

2/10からこのブログでは、

TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集を

お届けしています。

 

1話につき1シーンずつ

順番に追いかける形で紹介していて、

この記事で66回めとなり、

六巡目も最終回までやってきました。

 

今日は、第11話の中盤部27分ちょっと過ぎに

挿まれているシーンで、

百合の部長昇進を祝って居酒屋で呑んだ後、、

百合と梅原の帰り道での会話を。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〔飲み会の帰り道にて〕

梅原:イケメンの人。

百合:?

梅原:ハードル超えなかったんですか?

百合:……

梅原:好きなら行っちゃえばいいのに。

百合:……若さがあればね。

梅原:そうやってあれこれ考えるからダメなんですよ。

百合:……前も言ってたね。

梅原:俺は、俺の好きな人に、会いたくても会えないんで。

百合:……

梅原:嫉妬です。羨ましいんです。世界中の、自由に会える人たちが…。

百合:……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』第11話より



COMMENT:百合の部長昇進を祝って、部下二人と居酒屋で呑んだ帰り道。会社の話をしていたのに、ふっと風向きが変わって、恋愛の話が差し込まれてくる。最終回の中盤に置かれている夜道での百合と梅原の短い会話は、いかにも〝息抜きの小話〟みたいな顔をしています。でも、なぜこのドラマが〝新感覚の社会派ラブコメ〟と言われるのか。つまり『逃げ恥』が最後まで手放さなかった中心テーマ――「気持ちは、社会の仕組みや条件によって阻まれる」という現実を、別角度からきっちり見せてくる場面なんですね。沈黙が多いだけでなく、いろいろ微妙な問題も孕んでいることもあり、今日のコメントも少々長くなります。

梅原が、ぽつりと「イケメンの人」と言う。百合が「?」と返す。ここまでは、よくある飲み会の帰りの雑談で、恋バナの導入として軽い感じ。ところが次の「ハードル超えなかったんですか?」で、急に言葉が〝仕組み〟の匂いを帯びるんですね。ハードルって、感情の話というより条件の話なので。好きか嫌いかじゃなくて、越えるか越えないか――恋愛を、本人の胸の内よりも先に、障害物競走のように語ってしまっているわけで。

百合が返すのは「……若さがあればね」。これもまた、感情の説明でなく条件の提示です。百合にとっての「若さ」は、単なる年齢の数字ではなく、選べる時間の量とか、失敗しても回収できる余白とか、周囲の目をいなせる体力とか、そういう全部をひっくるめた〝資源〟なのでしょう。だから「若さがあればね」という一言は、恋の臆病さというより、社会的なコスト計算の言葉にも聞こえてきます。部長になったばかりの夜道での会話で、肩書きと年齢と恋愛が、ひとつの線で繋がってしまう感じがある。

そこで梅原が、「そうやってあれこれ考えるからダメなんですよ」と言う。これも表面だけ見れば、背中を押すアドバイスです。恋愛は何よりも勢いが大事なんだし、行けばいいじゃん、という、若者っぽい〝軽さ〟がある。でも、百合の「……前も言ってたね」という返しが上手い。これで梅原の助言が、おもいつきの言葉ではなく、前から繰り返してきた持論だとわかる。持論って、だいたい本人の〝痛み〟から出ているんですね。

案の定、「俺は、俺の好きな人に、会いたくても会えないんで」の一言で空気が変わります。この梅原の言葉は、百合への恋愛アドバイスの仮面をかぶったまま、急に梅原自身の側に反転してくる。さっき「好きなら行っちゃえばいい」と言っていた本人が、「会えない」と言う。背中を押していたはずの人が、自分には進めない場所があると言ってしまう。その瞬間、〝軽さ〟が、ただの軽さじゃなくなるんですね。むしろ、軽く振る舞うことで、自分が抱えている重さを誤魔化していたのかも———そんな推測も立ち上がってくる。

 

さらに梅原は言い切ります。「嫉妬です。羨ましいんです。世界中の、自由に会える人たちが…」。ここ、ほんとうに巧い表現で、その嫉妬の矛先が百合個人に向いていません。百合の恋の相手に嫉妬しているのでもないし、百合の恋愛能力に嫉妬しているのでもない。「自由に会える人たち」という、ざっくりとした〝世界〟に向かって言っている。つまり梅原が羨ましいのは、恋愛がデフォルトで許可されている側の世界そのものなんですね。
 

これ、恋バナのふりをして、じつは社会制度の話にも踏み込んでいる。もちろん努力で勝ち取る自由もあるけど、最初から配られている自由もある。会いたい人に会う、好きと言う、手を繋ぐ、二人で歩く。そういうことが、説明抜きで〝普通にできる側〟と、〝普通にできない側〟が存在するという現実。梅原の「世界中の自由に会える人たちが…」は、恋の嘆きというより、社会の偏りや不平等さを嘆く言葉にも聞こえてきます。


そして、その言葉を百合が、ほとんど「沈黙」で受けとめるんですね。(その49)の記事(その53)の記事でも沈黙に焦点を当てたコメントを書きましたが、このシーンの沈黙も、単に百合が梅原を気遣って黙っていると回収してしまうと、もったいない気がします。わたしの勝手な憶測ですが、たぶん百合は、慰めや正論を急いで置きたくなかった。梅原が〝言い切ってしまった〟ものを言葉で上書きしたくない———これ、百合の優しさというより、これまで生きて身につけて来た〝受けとめる技術〟なんじゃないかと。


『逃げ恥』って、言葉で関係を壊すドラマでもあり、言葉で関係を紡ぎ直すドラマでもあるんですね。最終回のうち(その55)の記事で紹介したシーンでは、平匡がみくりの「小賢しい」という言葉を再定義していました。言葉がルールになるのと同時に、言葉にできないルールもまた存在するわけで。この百合と梅原の場面は、まさにそこを扱っているように見えます。言葉にしてしまった瞬間に、関係の輪郭が変わってしまうもの。言葉にしたからといって、状況がすぐ変わるわけじゃないもの。そういうものに対して、百合は沈黙で距離を取っている。距離を取ることで、梅原の言葉を壊さずに、そのまま置いておく。


考えてみると、百合もまた社会の条件に引っかかる側の人です。「若さがあればね」と言っている百合の恋も、自由に飛べる恋ではないわけで。二人は違う場所に立っているようでいて、「好き」だけで突っ走れない点では、同じところにいる。だから、この夜道の沈黙は、梅原の孤独を「わかるよ」と安易に包もうとする沈黙ではなく、「簡単に同じと言えない」ことを引き受けた沈黙にも見えるんですね。共感しすぎて奪わない。正論で裁かない。解決案で急いで閉じない。沈黙のまま、言葉を置いておく。


そして最終回の中盤というタイミングに、こうした場面が置かれたこと自体が、わたしはひとつの安全装置のように受け止めました。最終回って、どうしても祝祭に流れてしまうので。恋が叶う人は叶うし、抱擁もあれば歓声もある。物語は「めでたしめでたし」に向かって熱が上がり、盛り上がっていく。  


でもその途中で、「自由に会える人たちが…」という言葉が差し込まれることで、祝祭ばかりが一元化されない。幸せが描かれると同時に、〝まだ終わっていない現実〟が残される。『逃げ恥』が最後まで手放さないのは、たぶんこうした多層性なんでしょうね。誰かの幸せを描くために、別の誰かの不自由まで消そうとしない。消さないで、不自由のままの状態で、ちゃんと置いておくんだと。


だからこの短い会話は、「百合の恋をどうするか」でも「梅原の恋がどうなるか」でもなく、もっと根っこの部分———好きだと言える自由、会える自由、恋を普通に運用できる自由が、世界の側から配られている/配られていない、というシビアな現実を、最後にもう一度見せている場面なんだと感じました。梅原は、百合を励ますつもりで自分の本音をこぼしてしまった。百合は、それをまとめ直さず、沈黙のまま受け取ってしまった。  


その受け取り方が、最終回の熱気の中で妙に冷えていて、冷えているのにけっして薄くはない。むしろ静かに濃く、重たくもある。でも、こういう夜道の何気ない会話が挟まっているからこそ、後半の祝祭も「祝祭でしかないもの」にならずに済むんだと――そんなふうにも見えたんですが。



この名セリフ&名場面集で紹介しているセリフは、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を土台に、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』での記述を参考にしています。なぜTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿している理由については、この連投記事の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。

ちなみに、4/10に投稿した(その60)の記事には、それまでに投稿した全記事のINDEXと、逃げ恥関連の投稿記事リンク集を載せています。未読記事がある方は是非そちらから参照を。

 

本日投稿のこの記事にて六巡目が終了しました。

以下は六巡目の第1話〜第10話リンク集です。

TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その56)

 第1話 みくりの妄想シーン「情熱大陸」「プロフェッショナル仕事の流儀」

TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その57)

 第2話 風見、沼田と一緒に眠る前の平匡のモノローグ

TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その58)

 第3話 ぶどう狩りに出かける途中、百合の車内での会話

TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その59)

 第4話 みくりシェアってモノや食べ物じゃあるまいし。従業員の意志は尊重されないのか。

TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その60)

 第5話 「ハグの日制定」をめぐるみくりと平匡のやりとり

TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その61)

 第6話 山さん:人間は悲しいかな、見返りが欲しくなってしまう生き物なんだよ。

TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その62)

 第7話 沼田:君たちあれだろ?あれだから、あれな感じで、仲良いんだろう?

TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その63)

 第8話 みくり「自分の気持ちを因数分解してみたんです」平匡「素因数分解ですね」

TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その64)

 第9話 みくりと接客ロボット・ペッパー君の会話

TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その65)

 第10話 みくり:平匡さんがかわいくてかわいくて、崖から叫びたい気持ちでいっぱいです!

 

明日からはまた第1話に戻って

七巡目がスタートします。

ではまた!(^^)/
 

 

【逃げ恥関連リンク集】
9/8は森山みくりさんの誕生日でした

ガッキーと源さんの結婚を予感していたわけ(その1)
ガッキーと源さんの結婚を予感していたわけ(その2)
ガッキーと源さんの結婚を予感していたわけ(その3)
ガッキーと源さんの結婚を予感していたわけ(その4)

吉本隆明さんによる3つの幻想領域について
もしこんな相談を受けたらどう応対しますか?(問題篇)

もしこんな相談を受けたらどう応対しますか?(回答篇)
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ガッキーと源さんの結婚を予感していたわけ(その5)

ガッキーと源さんの結婚を予感していたわけ(その6)

ガッキーと源さんの結婚を予感していたわけ(その7)

ドラマ逃げ恥「平匡さんの自由意志です。どうしますか?」(「今日の名言・その13」)

TVドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」原作マンガ(全11巻)のこと

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