TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(二巡目・その32)
2026/09/14
8/14からこの寺子屋塾ブログでは、
TVドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集の
二巡目を投稿しています。
どんな流れ、経緯から二巡目を投稿し始めたか、
その理由やきっかけ等については、
関連している8/13以前の記事等に記したので、
未読の方はご覧ください。
第1話から第11話まで順番に1シーンずつ紹介し、
最終話まで行ったらまた第1話に戻るスタイルで
(その45)まで投稿するつもりです。
基本一巡目100記事で取り上げたシーンへの
コメントをリライトして投稿しているんですが、
さすがにそればかりだと能がないので、
(その10)、(その15)、(その23)、
(その29)の記事では、
一巡目で取り上げたシーンそのものを差し替え
新たに書き起こした場面のシナリオに
コメントする記事を書きました。
今日は一巡目(その32)で取り上げたシーンへの
リライト記事なんですが、
第10話の後半部で
36分40秒ほど過ぎたあたりから始まる、
平匡のマンション・ダイニングで
ふたりが一緒に餃子をつくっているシーンを。
今日の記事では、わたしがこのシーンを見て
何を感じたか、
ドラマのストーリーにガッツリ入り込んで
コメントを書きますが、このシーンについては
一巡目の記事でも結構大事なことを書いているので、
未読の方は併せてご覧ください。
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〔平匡のマンション・ダイニングにて〕
みくり:ここに水をつけて、こうして、こうして、こうです。
平匡:おお、やってみます。
みくり:はい。
みくり:これから少し、やっさんのところへ行く回数が増えると思います。いろいろ手伝うことになって。
平匡:大変ですね、シングルマザー。
みくりM:(やっさんだけでなく、男の人がわらわらいる状況に最低賃金で駆り出されることになった、とは言いにくい)
平匡:分かった!
みくり:わたしより上手!
平匡:コツを掴みました。
みくり:平匡さんて、やってみたら色んなことできるんじゃないですか?
平匡M:(できないと思っていたことができる…一つずつ、世界が広がる…仕事を失っても穏やかでいられるのは…今ここにある世界を信じられるからだ)
平匡:みくりさんがいて、よかった。














COMMENT:第10話の餃子づくりの場面、見た目はとても平和です。みくりが「水をつけて、こうして、こうして、こうです」と言うと、平匡が「おお、やってみます」と応じ、みくりが「はい」と返す。ふたりの距離も声の温度も落ち着いていて、仲睦まじい様子が窺えます。なのに、この場面には小さな〝棘〟が一本、確かに刺さっている。平和なやりとりであるがゆえに、それが嵐の前の静けさのようにも見えてくるんですね。
みくりがこう言います。「これから少し、やっさんのところへ行く回数が増えると思います。いろいろ手伝うことになって」と。ここまでは報告で、生活の共有です。平匡も「大変ですね、シングルマザー」と、善意の相槌を返す。けれど、その後にみくりの本心がモノローグとして続く。(やっさんだけでなく、男の人がわらわらいる状況に最低賃金で駆り出されることになった、とは言いにくい)。この〝言いにくさ〟こそが、このシーンの核心でしょう。
言いにくいことは、言えばいい。正論としてはそうでも、生活の中ではそう簡単ではありません。言った瞬間に空気が変わる。相手を困らせる。場合によっては、相手の善意まで責めるみたいになる。だからこそみくりは、言語化できるのに、それを言わない。言わないから、その場は一応穏やかに続いていく。餃子の皮は破れず、ひだは整う。けれど、整った縁の内側には、言えなかった現実が包まれたまま残ってしまう。
みくりが抱えているのは、単なる「手伝いが増える」ではなく、労働の匂いです。最低賃金。男の人がわらわら。頼まれたら断りづらい状況。いわゆる〝善意の現場〟で、都合よく動員されていく感じ。第1話からここまで、みくりはずっと、そういうものに敏感でした。契約結婚も、曖昧さが人をすり減らすのを知っていたから始めたことでした。だからこそ、この場面の「言いにくさ」は、関係がうまくいっている証拠というより、むしろ関係がうまくいっているように見せるために、外に出さず飲み込まれたものとして重たい。
その一方で、平匡は餃子で「分かった!」と言う。ここがひとつ救いにもなっている。恋愛の返事じゃなく、人生の小さな学習の快感。みくりが「わたしより上手!」と笑い、平匡が「コツを掴みました」と返す。平匡は、できないとおもい込んでいたことが、やってみたらできる———その瞬間に世界が少し広がる人なんだ、とここで見せる。仕事を失っても穏やかでいられる理由が、給料の見通しじゃなくて、「今ここにある世界」を信じられるからだ、というモノローグにつながっていくのも、餃子づくりでの小さな成功体験が支えている。
そして最後に、平匡が言う。「みくりさんがいて、よかった」と。甘いセリフに聞こえるけれど、これは告白というより、世界観の選択宣言に近い気がします。仕事が揺らいでいても、社会が不穏でも、いま目の前にある暮らしの手触りを信じられる。その足場として、みくりがいる。だから「よかった」と言える。けれど、その〝よかった〟の隣に、みくりの〝言いにくさ〟が並んでいる。そこに、この場面が孕む二重構造の怖さがあります。
餃子はうまく包めば中身がこぼれないように、関係もうまく包めば痛みが漏れません。でも、本当に大事なのは、包み方の上手さよりも、中に何が入っているかを、ちゃんと二人で見つめることなのでしょう。言いにくい現実を、言える関係へ。平匡の「分かった!」が広げた世界の中に、みくりの「言いにくい」も置けるようになるかどうか。第10話後半に置かれたこの静かなやりとりは、餃子を二人の関係性のメタファーとして差し出しながら、この後のエンディングで起きる大波乱を予感させるのに充分なシーンでした。

この名セリフ&名場面集で紹介しているシナリオは、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』を参考にしながら、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を書き起こしました。こんな風にTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿することになった最初の動機については、一巡目の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。5/20に投稿した1巡目の最終回(その100)には、すべての記事内容を総括するコメント、全100回のINDEXつきリストと関連リンク集を載せています。
・TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その100・最終回)
また、当塾ではすべて関連し合っているという考え方を大切にしていますので、さらに詳しく知りたいという物好きなお方(笑)は、タグ「逃げ恥」を付している過去記事のみならず、他の記事を適宜アクセスください。当塾で開塾時から基本教材と位置づけてきたらくだメソッドの学習内容については、らくだメソッド関連を、大切にしているエッセンスを短いコトバで端的に知りたい方は、つぶやき考現学をどうぞ。アクセス数が最も多いカテゴリーは、今日の名言シリーズ(現在その130まで投稿)です。最近は、易経、論語、仏典などをひもといている古典研究関連カテゴリの記事もアクセスが増えています。
明日は一巡目(その33)の記事でとりあげた最終回第11話のシーンへのコメントをリライトして投稿する予定です。
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●2021.9.1~2024.12.31記事タイトル一覧は
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