TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(二巡目・その38)
2026/09/20
8/14からこの寺子屋塾ブログでは、
TVドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集の
二巡目を投稿しています。
どんな流れ、経緯から二巡目を投稿し始めたか、
その理由やきっかけ等については、
関連している8/13以前の記事等に記したので、
未読の方はご覧ください。
第1話から第11話まで順番に1シーンずつ紹介し、
最終話まで行ったらまた第1話に戻るスタイルで
(その45)まで投稿するつもりです。
基本一巡目100記事で取り上げたシーンへの
コメントをリライトして投稿しているんですが、
さすがにそればかりだと能がないので、
(その10)、(その15)、(その23)、
(その29)の記事では、
一巡目で取り上げたシーンそのものを差し替え
新たに書き起こした場面のシナリオに
コメントする記事を書きました。
9/16から四周目に入っていて、
今日は一巡目(その38)で取り上げたシーンへの
リライト記事なんですが、
第5話冒頭部分の6分ちょっと過ぎたあたり、
冒頭タイトルバック直後のシーンで、
スリーアイシステム・休憩スペースでの
平匡と日野、沼田3人のやりとりを。
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〔スリー-アイシステム・休憩スペースにて(昼休み)〕
平匡M:恋人の、美味しいところだけってなんだろう?
〔平匡のマンションでのみくりとのやりとり回想インサート〕
みくり:ありますよね~。あ~疲れた~ハグされたいな~って思うとき。
―――――――
平匡M:(考えたこともなかった。自分の人生に〝ハグ〟の二文字が無さ過ぎて……)
平匡M:(子どもの頃、母親に抱っこされた記憶はある。でも、それ以外となると、35年間、誰にも……)〔悲しくなり落ち込んでくる〕
平匡:……
日野:〔平匡を後からいきなり抱きしめる〕
平匡:〔驚いて〕なんですか!35年が一瞬で埋まりましたよ。
日野:35年?
平匡:あ、いや。
日野:寂しそうな背中してるから、ハグして来いって、沼田さんが。〔と出入口を指す〕
沼田:〔遠くから平匡の方を見ている〕
平匡:どうしてこういつも鋭いんだ!
日野:マジで寂しかったの?
平匡:違います!違いますけど、少し、自分の人生について考えてしまって……
日野:〔平匡の隣に座って小声で〕ねっ、奥さんと何かあった?
平匡:いえ、別に…
日野:夫婦げんかは、負けておけ!
平匡:えっ?
日野:家庭ってのは、奥さんが機嫌がいいのが一番だから。お互いが力を誇示して、覇権の奪い合いになっちゃったら、どっちかが倒れるまでやり合うことになるから。
平匡:あ、はぁ…
日野:世紀末覇王伝説になる前に、戦いを終わらせた方がいい。










COMMENT:タイトルバック直後、スリーアイシステム休憩スペースのお昼休み風景。単なる箸休めのギャグのようでいて、ここは第1話から続いてきた二人の「内輪の世界」が、いよいよ職場という「外の世界」に滲み出していく入口になっているんじゃないかと。家庭の中で交わされた言葉が、会社の昼休みにまで運ばれてしまう。しかもそれは、誰かが暴露したわけじゃなくて、平匡の内側から、勝手に漏れ出てしまうという形で。
きっかけは、「疲れた~ハグされたいな~って思うとき、ありますよね~」というみくりの回想インサート。この軽い一言が、平匡には「自分の人生に〝ハグ〟の二文字が無さ過ぎて……」と重くのしかかる。そして続く、「子どもの頃、母親に抱っこされた記憶はある。でも、それ以外となると、35年間、誰にも……」と、このセリフがすごいなとおもったのは、過去を詳しく説明していないところ。平匡がどれだけ恋愛経験がないのか、どんな育ちだったのか———そうしたエピソードを並べずに、ただ「35年間」と数字だけを置いている。「寂しい」という形容詞よりも、「35年」というリアルな単位のほうが、空白の量を一瞬でこちらに渡してしまう。しかも渡すだけで終わっていて何も説明がないから、こちらが勝手に想像してしまう。笑いの場面のはずなのに、胸の奥に小さく刺さるのは、その省略のせいでしょう。
で、黙り込んだ平匡を、日野が後ろから抱きしめる。突然ハグされて、「なんですか!35年が一瞬で埋まりましたよ」と平匡が叫ぶ。ここでようやく場は笑いに転じるけれど、また数字が出る。「35年?」と日野が聞くと、平匡は「あ、いや」と引っ込める。この往復がさらに効いている。言いかけて飲み込むその瞬間に、数字だけが残ってしまう。その残った数字が、視聴者の心の中で静かに反響する。ギャグで包みながらも、空白の存在だけは消さない。ドラマの手つきとしては、かなり意地が悪いですよね。けれど、その意地の悪さが、そのまま平匡という人物の孤独をちゃんと扱う誠実さにもなっている。
そして、この場面をもう一段面白くしているのが、沼田の距離感です。日野は、「寂しそうな背中してるから、ハグして来いって、沼田さんが」と言いますが、沼田は近づかない。遠くから平匡を見ているだけ。ここが重要で、沼田は見抜く人として前に出て来ないし、説教もしない。その代わりに日野という媒介を置く。日野の身体性———ハグという荒技(笑)に委ねて、場の温度を上げる。沼田は空気が壊れないように調律している。さすがインフラエンジニアですね。職場というのは、踏み込みすぎても危ないし、放っておいても冷えてしまう。その中間で、ちょうどよく手当てを回す。沼田の〝鋭さ〟とは、刃物じゃなく整体師のツボ押しみたいな鋭さというか。
結局この場面、日野の突然ハグには笑えても、平匡がつぶやく「35年」という数字が、静かに刺さりますね。「恋愛の美味しいところだけって何だろう?」という問いが、平匡の中で人生の空白にまで繋がってしまう。その空白が、昼休みの雑談と同僚の腕の中で、いったん笑いに変換される。深刻を深刻のまま放置せず、沼田の遠距離ケアが置かれている。笑いで薄めて、しかし単に薄めただけでは終わらせない。数字を残し、余白を残す。だからこのワンシーンは、一見軽そうな場面に見えて、あとからしっかりとじわじわ効いてくるのでしょう。

この名セリフ&名場面集で紹介しているシナリオは、野木亜紀子さんの『逃げ恥シナリオブック』を参考にしながら、2020年に放映された『逃げ恥・ムズキュン特別編』を書き起こしました。こんな風にTVドラマ『逃げ恥』のシーンを毎日投稿することになった最初の動機については、一巡目の初回として書いた(その1)の記事のコメントをお読みください。5/20に投稿した1巡目の最終回(その100)には、すべての記事内容を総括するコメント、全100回のINDEXつきリストと関連リンク集を載せています。
・TBSドラマ『逃げ恥』名セリフ&名場面集(その100・最終回)
また、当塾ではすべて関連し合っているという考え方を大切にしていますので、さらに詳しく知りたいという物好きなお方(笑)は、タグ「逃げ恥」を付している過去記事のみならず、他の記事を適宜アクセスください。当塾で開塾時から基本教材と位置づけてきたらくだメソッドの学習内容については、らくだメソッド関連を、大切にしているエッセンスを短いコトバで端的に知りたい方は、つぶやき考現学をどうぞ。アクセス数が最も多いカテゴリーは、今日の名言シリーズ(現在その130まで投稿)です。最近は、易経、論語、仏典などをひもといている古典研究関連カテゴリの記事もアクセスが増えています。
明日は一巡目(その39)の記事でとりあげた第6話のシーンへのコメントをリライトして投稿する予定です。
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●2021.9.1~2024.12.31記事タイトル一覧は
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