不曰如之何如之何者(『論語』衛霊公第十五の15 No.394)
2024/05/09
今日も昨日投稿した記事に続いて
論語499章1日1章読解からです。
論語の後半に出てくることもあり、
孔子自身の言葉かどうかが
甚だ怪しい章句ではあるんですが、
自らすすんで問う姿勢の大事さについて述べた
衛霊公第十五の15(通し番号394)を。
(引用ここから)
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【衛霊公・第十五】394-15-15
[要旨(大意)]
自らすすんで問う姿勢のない人には、どうしようもないと孔子が述べている章。
[白文]
子曰、不曰如之何如之何者、吾末如之何也已矣。
[訓読文]
子曰ク、之ヲ如何セン、之ヲ如何セント曰ハザル者ハ、吾、之ヲ如何トモスル末キノミ。
[カナ付き訓読文]
子(し)曰(いわ)ク、之(これ)ヲ如何(いかに)セン、之(これ)ヲ如何(いかに)セント曰(い)ハザル者(もの)ハ、吾(われ)、之(これ)ヲ如何(いかん)トモスル末(な)キノミ。
[ひらがな素読文]
しいわく、これをいかにせん、これをいかにせんといわざるものは、われ、これをいかんともすることなきのみ。
[口語訳文1(逐語訳)]
先生(孔子)が言われた。「これをどうしようか、どうしようかと言わない者には、わたしもどうしようもできない。」
[口語訳文2(従来訳)]
先師がいわれた。――
「どうしたらいいか、どうしたらいいか、とつねにみずからに問わないような人は、私もどうしたらいいかわからない」(下村湖人『現代訳論語』)
[口語訳文3(井上の意訳)]
問題意識や探究心を持って人に問いかけ、自らも自問自答、苦悶苦闘をやらないような人間に対しては、わたしにはしてやれることは何もないなぁ。
[語釈]
如之何:「どうしようか。どうしたらよかろうか」と常に疑問をいだき、熱心にその問題解決を求めること。「如何」は、「~をいかに(せん)」と読む。目的語がある場合は「如~何」と、目的語を間にはさむ。
末如之何:どうしてやりようもない。「末」は「無」と同じ。
也已矣:「のみ」と読む。強い断定をあらわす助辞。「也已」よりも強い。
[井上のコメント]
本章については、古注では「事前に用心や備えもしないで危機におちいっても、助けることなどできないよ。」と解し、新注は「問題が起きたらよく考えろ、軽率に行動に出て失敗してもわしは知らんよ。」と解しているようです。(※出典:九去堂→参考)また、貝塚茂樹は、「孔子の教育は、弟子に教義を教え込むのではなく、弟子の問いにしたがって指導するという、いわゆる啓発主義の教育であった。」と注釈しているのですが、これらの見解自体はいずれも間違っていなくて、真実を突いたものと言っていいでしょう。
ただ、真実といってもそれは時や場所を問わず誰にとっても正しいような普遍的な真実というよりは「部分的な真実」というべきもので、その言葉自体をそのまま鵜呑みにしたり、そのうちのどれが正しいかと問うたりするのでなく、こうした判断や行動がどういう精神波動から生まれてくるものなのか、そのモトを考えてみる姿勢は大事なようにおもいました。
本章の内容は、わたしにはことわざ「※天は自ら助くる者を助く(→参考)」や、既出章にあった述而第七の8番(通し番号155)「子曰、不憤不啓、不悱不發、擧一偶、不以三隅反、則不復也。(自ら悩んで突破口を求め、問うのでなければ教えません。言いたいことがあって表現を求めあぐんでいるのでなければ、言い方を教えることはしません。一隅を挙げて説明したときに、三隅を類推して自ら理解しようと反問するのでなければ、それ以上は教えません。)」に近いように感じました。そのように意識することで、本章が前章とも続きの文脈上にあるようにおもえてきたためでもあります。
論語の場合———これはまあ、今までにも何度も書いてきたことなんですが———どんな状況のもとでこの言葉が発せられたかが定かでなく、孔子センセイも人間ですから、弟子たちやそのまわりにいる人たちとのやりとりの中で、ちょっと愚痴ってしまったってことかもしれません。笑
たとえば、ちょっと話が脱線しますが・・・寺子屋塾の教室にも、「何を聞いてもいい」というルールがあります。これは、「インタビューゲームのプログラムを、どうすれば日常化することができるか」という問いのもとに、指導者の立場にあるわたし自身がまわりからのどんな問いかけに対しても何らかの手がかりを示せるような人間でありたいと考えていることから、3つのルールをそのまま教室のルールに採用したものでした。
ただ、「質問することが大事」といっても、問いには人に聞いた方が解決しやすい問いと、自分で考えたほうがいい問いと2種類ありますから、何でもかんでも人に聞いて質問しさえすればいいというわけではありません。往々にして人間というものは、人に聞けばすぐ解決するような問いを人に聞けずに自分ひとりだけで悶々と考えようとし、自分のアタマで考え掘り下げていくべき問いを安易に人に聞いてしまいがちなところがあるので、まずはその弁別から始めるしかないんですが。でも、学習者自身がそうした手順をちゃんと踏めば、「自分のアタマで考える力」と「適切な問いを立てる力」の両方を培おうとすることは矛盾せず可能なわけです。
あと、孔子がどんな考えを参照してこの考えに至ったかについては、現代人のわたしには想像するしかありません。わたしの場合、論語に先だって易経を読むことを2016年の元旦から日課としていて今もなお続けているんですが、易経64卦・山水蒙にある「学習は自らの問いから始まる」という考え方に通じているかもしれないと感じました。孔子は易経を読んでいたことは間違いないようにおもいますが、易経を意識してこの言葉を発したかどうかは定かではありません。
[参考]
・論語詳解394衛霊公篇第十五(16)これを如何と°(九去堂)
・「天は自ら助くる者を助く」の意味と読み方
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(引用ここまで)
たしかに、問題意識のない人に対し、
本人以外のまわりの人間が、
問題意識を持たせようとすることは
難しいことだというのは確かでしょう。
でも、その問題意識のない人が
なぜ、問題意識がないのかといえば、
やはりその人には、
その人なりの理由があるでしょうから。
それに、問題意識のない人が
問題意識を持てるようになることが
果たして本当に良いことなのかどうかは
わかりませんからね。
あくまで、その人自身が
どうしたいかが大事でしょうから。
論語の場合、文脈が明確でないので、
孔子の真意を汲み取るのは非常に難しいのですが、
案外「ちょっと愚痴ってみました」
ナンテことかもしれません。笑
●論語499章1日1章読解 過去の投稿記事一覧
【為政・第二】020-2-04 吾十有五而志乎學、三十而立、四十而不惑
【八佾・第三】063-3-23 子語魯大師樂曰、樂其可知已、始作翕如也
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【雍也・第六】136-6-17 人之生也直、罔之生也、幸而免
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【述而・第七】148-7-1 述而不作、信而好古、竊比於我老彭
【述而・第七】163-7-16 如我數年、五十以學、易可以無大過矣
【述而・第七】170-7-23 二三子以我爲隠乎、吾無隠乎爾
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【子罕・第九】228-9-23 法語之言、能無從乎、改之爲貴
【子罕・第九】234&235-9-29&30 可與共學、未可與適道、可與適道
【顔淵・第十二】279-12-1 顔淵問仁、子曰、克己復禮爲仁
【子路・第十三】323-13-21 不得中行而與之、必也狂狷乎
【子路・第十三】324-13-22 南人有言、曰、人而無恆、不可以作巫醫
【子路・第十三】325-13-23 君子和而不同、小人同而不和
【子路・第十三】328-13-26 君子泰而不驕、小人驕而不泰
【憲問・第十四】337-14-5 有德者必有言、有言者不必有德
【衛霊公・第十五】381-15-2 賜也、女以予爲多學而識之者與
【衛霊公・第十五】384-15-5 子張問行、子曰、言忠信、行篤敬、雖蠻貊之邦行矣
【衛霊公・第十五】396-15-17 君子義以爲質、禮以行之、孫以出之、信以成之
【陽貨・第十七】443-17-9 小子、何莫學夫詩、詩可以興
【季氏・第十六】429-16-9 生而知之者、上也、學而知之者、次也
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【論語読解の参考記事】
・書経・商書「生きる方向軸が一つに定まっていれば吉」(「今日の名言・その7」)
・顔回をめぐる問いと諸星大二郎『孔子暗黒伝』のこと
・安田登『役に立つ古典』〜古典から何を学ぶか〜
・情報洪水の時代をどう生きるか(その6)
・問題解決ツールのコレクターになっていませんか?(つぶやき考現学 No.59)
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