興於詩、立於禮、成於樂(『論語』泰伯第八の08 No.192)
2024/05/22
今月は5/8から古典研究カテゴリで、
論語についての記事を続けて投稿してきました。
この記事が今月15回目の投稿になるんですが、
途中5/18は、安田登さんの本から
論語について書かれた箇所を引用して紹介し、
また、昨日5/21は、
河村真光さんが書かれた易経の解説本
『易経読本 入門と実践』から
火風鼎の占例として論語に触れた箇所を紹介するなど
・論語と易経のつながりに触れて(5/21日筮で火風鼎を得て)
横道に逸れ、中やすみ的な記事を投稿しましたが、
論語499章1日1章読解から
主に〝学習〟というテーマの
周辺に関連する章句を読んでいます。
・不曰如之何如之何者(『論語』衛霊公第十五の15 No.394)
・學如不及、猶恐失之(『論語』泰伯第八の17 No.201)
・性相近也、習相遠也(『論語』陽貨第十七の02 No.436)
・我未見好仁者惡不仁者(『論語』里仁第四の04 No.072)
・子貢問君子、子曰、先行其言(『論語』為政第二の13 No.029)
・中人以上可以語上也(『論語』雍也第六の19 No.138)
・子所雅言、詩書執禮(『論語』述而第七の17 No.164)
・質勝文則野、文勝質則史(『論語』雍也第六の16 No.135)
・述而不作、信而好古(『論語』述而第七の01 No.148)
・默而識之、學而不厭(『論語』述而第七の02 No.149)
さて、本日の記事で取りあげる論語の章句は、
孔子が学問の基本と順序について述べている
泰伯第八の08番(通し番号192)を。
(引用ここから)
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【泰伯・第八】192-8-8
[要旨(大意)]
孔子が学問の基本と順序について述べている章。
[白文]
子曰、興於詩、立於禮、成於樂。
[訓読文]
子曰ク、詩ニ興リ、禮ニ立チ、樂ニ成ル。
[カナ付き訓読文]
子(し)曰(いわ)ク、詩(し)ニ興(おこ)リ、礼(れい)ニ立(た)チ、楽(がく)ニ成(な)ル。
[ひらがな素読文]
しいわく、しにおこり、れいにたち、がくになる。
[口語訳文1(逐語訳)]
先生が言われた。「詩に始まり、礼にのっとり、音楽に終わる。」
[口語訳文2(従来訳)]
先師がいわれた。――
「詩によって情意を刺戟し、礼によって行動に基準を与え、楽によって生活を完成する。これが修徳の道程だ。」(下村湖人『現代訳 論語』)
[口語訳文3(井上の意訳)]
先生(孔子)が言われた。「詩を読んで道を志し、礼を習って社会的に自立し、音楽を聴いて完成させる。」
[語釈]
詩:『詩経』に収録されている詩を指す。
興:感興を起こす。感情が豊かになる。感情を高揚させる。
礼:社会生活上の慣習、制度、作法などの総称。
立:確立する。
楽:音楽。
成:完成する。
[井上のコメント]
曾子の退屈なお説教がやっと終わり(笑)、この章から孔子の言葉に戻ります。ただ、誰に対して言った言葉かが書かれていないのですが、前章からの流れで行くと、文化的後進国だった呉の国の使節が、宴会の席かなにかで孔子に文化学問について問うたことに答えたものというのが九去堂の解釈で、これは一理あるようにおもいます。
孔子はここで学問の基本として「詩・礼・楽」を挙げています。そして、何から学べばよいかという順序を言っているわけですが、これは、今日でも英語を勉強するのに、好きな英語の歌から始めるというやり方があるのでよくわかりますね。もちろん、孔子の時代の中国ですから、フォーマルには「詩経」が読まれたのでしょうが、この章では特定されていないので、世俗歌謡のようなものを読んで感情を豊かにするという意味で捉えてもよいかもしれません。「興」については、「奮起する」という意味もあるので、感情を振るい立たせるという意味で訳すこともできますが、興す=起こす、始まりということですから、学に志す、道に志すという意味で訳してみました。
また、「立於禮」は、為政第二にあった、「三十にして立つ」に通じ、礼法を学ぶことにより行動に規範を生み出し、社会的にも一人前になるということで、「成於樂」つまり、音楽を学ぶことはそうした学問の仕上げと言ってよいのではとなるわけですが、この結語は、音楽に深く通じていた孔子だからこそ言えたことのようにもおもいました。
[参考]
・論語詳解192泰伯篇第八(8)詩に興り(九去堂)
●論語499章1日1章読解 過去の投稿記事一覧
【為政・第二】020-2-04 吾十有五而志乎學、三十而立、四十而不惑
【八佾・第三】063-3-23 子語魯大師樂曰、樂其可知已、始作翕如也
【里仁・第四】073-4-07 人之過也、各於其黨、觀過斯知仁矣
【里仁・第四】076-4-19 君子之於天下也、無適也、無莫也、義之與比
【里仁・第四】077-4-11 君子懐德、小人懷土、君子懷刑、小人懐惠
【里仁・第四】084-4-18 事父母幾諌、見志不從、又敬不違、勞而不怨
【雍也・第六】129-6-10 冉求曰、非不説子之道、力不足也
【雍也・第六】136-6-17 人之生也直、罔之生也、幸而免
【雍也・第六】138-6-19 中人以上、可以語上也、中人以下、不可以語上也
【雍也・第六】146-6-27 中庸之爲德也
【雍也・第六】147-6-28 子貢曰、如能博施於民、而能済濟衆、何如
【述而・第七】148-7-01 述而不作、信而好古、竊比於我老彭
【述而・第七】163-7-16 如我數年、五十以學、易可以無大過矣
【述而・第七】170-7-23 二三子以我爲隠乎、吾無隠乎爾
【子罕・第九】215-9-10 顔淵喟然歎曰、仰之彌高、鑽之彌堅、瞻之在前
【子罕・第九】228-9-23 法語之言、能無從乎、改之爲貴
【子罕・第九】234&235-9-29&30 可與共學、未可與適道、可與適道
【顔淵・第十二】279-12-01 顔淵問仁、子曰、克己復禮爲仁
【子路・第十三】323-13-21 不得中行而與之、必也狂狷乎
【子路・第十三】324-13-22 南人有言、曰、人而無恆、不可以作巫醫
【子路・第十三】325-13-23 君子和而不同、小人同而不和
【子路・第十三】328-13-26 君子泰而不驕、小人驕而不泰
【憲問・第十四】337-14-05 有德者必有言、有言者不必有德
【衛霊公・第十五】381-15-02 賜也、女以予爲多學而識之者與
【衛霊公・第十五】384-15-05 子張問行、子曰、言忠信、行篤敬、雖蠻貊之邦行矣
【衛霊公・第十五】396-15-17 君子義以爲質、禮以行之、孫以出之、信以成之
【季氏・第十六】429-16-09 生而知之者、上也、學而知之者、次也
【陽貨・第十七】443-17-09 小子、何莫學夫詩、詩可以興
【堯曰・第二十】499-20-03 不知命、無以爲君子也、不知禮
●論語読解の参考になる過去投稿記事
・本当の「切磋琢磨」(安田登『役に立つ古典』より)
・論語と易経のつながりに触れて(5/21日筮で火風鼎を得て)
・情報洪水の時代をどう生きるか(その6)
・顔回をめぐる問いと諸星大二郎『孔子暗黒伝』のこと
・書経・商書「生きる方向軸が一つに定まっていれば吉」(「今日の名言・その7」)
・問題解決ツールのコレクターになっていませんか?(つぶやき考現学 No.59)
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●2021.9.1~2023.12.31記事タイトル一覧は
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