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質勝文則野、文勝質則史(『論語』雍也第六の16 No.135)

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質勝文則野、文勝質則史(『論語』雍也第六の16 No.135)

質勝文則野、文勝質則史(『論語』雍也第六の16 No.135)

2024/05/17

今日も昨日に続いて

論語499章1日1章読解から。

 

この記事が今月10回目の投稿になるんですが、

これまで主に〝学習〟というテーマの

周辺に関連する章句を読んでいます。

郷原德之賊也(『論語』陽貨第十七の13 No.447)

不曰如之何如之何者(『論語』衛霊公第十五の15 No.394)

學如不及、猶恐失之(『論語』泰伯第八の17 No.201)

性相近也、習相遠也(『論語』陽貨第十七の02 No.436)

我未見好仁者惡不仁者(『論語』里仁第四の04 No.072)

子貢問君子、子曰、先行其言(『論語』為政第二の13 No.029)

中人以上可以語上也(『論語』雍也第六の19 No.138)

君子不器(『論語』為政第二の12 No.028)

子所雅言、詩書執禮(『論語』述而第七の17 No.164)

 

論語には「君子」という言葉が登場する章句が

70以上あり、

これまでにいろいろ紹介してきました。

 

孔子の門人たちは、その君子になるために

さまざまなことを学んでいたわけですから、

孔子塾は君子養成学校だったとも言えます。

 

今日は、どのような人が君子であるかについて

孔子が述べている

雍也第六の16番(通し番号135)を。

 

(引用ここから)

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【雍也・第六】135-6-16
[要旨(大意)]
中身と外見の両面を兼ね備えバランスのとれた人が君子であると孔子が述べている章。

 

[白文]
子曰、質勝文則野、文勝質則史、文質彬彬、然後君子。
 
[訓読文]
子曰ク、質、文ニ勝テバ則チ野ナリ、文、質ニ勝テバ則チ史ナリ、文質彬彬トシテ、然ル後ニ君子ナリ。
 
[カナ付き訓読文]
子(し)曰(いわ)ク、質(しつ)、文(ぶん)ニ勝(か)テバ則(すなわ)チ野(や)ナリ、文(ぶん)、質(しつ)ニ勝(か)テバ則(すなわ)チ史(し)ナリ、文質彬彬(ぶんしつひんぴん)トシテ、然(しか)ル後(のち)ニ君子(くんし)ナリ。
 
[ひらがな素読文]
しいわく、しつ、ぶんにかてばすなわちやなり、ぶん、しつにかてばすなわちしなり、ぶんしつひんぴんとして、しかるのちにくんしなり。
 

[口語訳文1(逐語訳)]

先生が言われた。「中身が飾りよりも勝れば粗削りで、飾りが中身よりも勝れば派手になる。中身も飾りも明らかで、やっと一人前の情け深い君子になれる。」

 
[口語訳文2(従来訳)]

先師がいわれた。――
「質がよくても文がなければ一個の野人に過ぎないし、文は十分でも、質がわるければ、気のきいた事務家以上にはなれない。文と質とがしっかり一つの人格のなかに溶けあった人を君子というのだ」(下村湖人『現代訳論語』)

 
[口語訳文3(井上の意訳)]

先生が言われた。「中身が外見を上回ると野人となり、外見が中身を上回るとお役人のようになる。外見と中身がつりあい調和してはじめて君子であるといえる。」

 
[語釈]

質:木地、素朴さ、質朴さ、生まれつき持っている資質、実質。
勝:まさる。
文:装飾、飾り、教養による外面的な美しさ、形式・外観・質の反対。
野:野人、粗野、田舎者。
史:文書をつかさどる役人、表面を飾るだけで誠実さに欠ける。
彬彬:「ひんぴん」と読み外観・内容ともに整って調和がとれていること。故事成語「文質彬彬」の原典。
然後:ここでは「しかるのち」と読み、「それからあとで」ではなく「そうしてはじめて」と訳す。
 
[コメント]
「野」は素朴が通り越して粗野、朴訥な様子。「史」はお役人を意味することから、形式的、ビジネスライク、無味乾燥、薄っぺらいという解釈でよいとおもいます。儒教的な解釈では、文は「礼の表現」を、質は「礼の真心」を意味し、文質両軸がそろってはじめて礼の実践は完成し、そうした実践ができる人が君子であるとなっていますが、もうすこし突っ込んで考えることができる重要な章だとおもいました。


口語訳文では、「文」を外見、「質」を中身とシンプルに訳してみました。ただ、『内臓とこころ』の三木成夫的見地に立てば、文は大脳思考に通じ、質は内臓感覚に通じていると言えるし、「学識と人格」あるいは「表現と実質」というような解釈もできます。また、吉本隆明が提唱された芸術言語論では、表現を「自己表出」という縦糸と「指示表出」という横糸でできた1枚の布のようなものと捉えるわけですが、「文」は指示表出にあたり、「質」は自己表出にあたるものと言えるでしょう。いまの世では指示表出、つまり「文」ばかりが主役のようにもてはやされがちですが、実は自己表出、「質」が主であり幹であるし、文と質のどちらかだけが勝っていてもダメです。両者のバランスがとれ、各々のつながりや連携、優先順位が意識できていることが大事であるとおもいました。

 

[参考【本章に関係する過去記事】]

三木成夫『内臓とこころ』

内臓感覚が大事ってどうしたら実感できますか?

改めて「書くこと」と「教えない教育」との関係について(その22)

〈書き言葉〉は自分の心の中に降りていくための道具(吉本隆明『15歳の寺子屋 ひとり』より)

 

 

●論語499章1日1章読解 過去の投稿記事一覧

論語499章1日1章解読ふりかえり(その1)

論語499章1日1章解読ふりかえり(その2)

論語499章1日1章解読ふりかえり(その3)

 

【学而・第一】008-1-08 君子不重則不威、學則不固

【為政・第二】020-2-04 吾十有五而志乎學、三十而立、四十而不惑

【為政・第二】028-2-12 君子不器

【為政・第二】029-2-13 子貢問君子、子曰、先行其言

【為政・第二】031-2-15 學而不思則罔、思而不學則殆

【為政・第二】033-2-17 由、誨女知之乎、知之爲知之

【八佾・第三】063-3-23 子語魯大師樂曰、樂其可知已、始作翕如也

【里仁・第四】072-4-04 我未見好仁者惡不仁者

【里仁・第四】073-4-07 人之過也、各於其黨、觀過斯知仁矣

【里仁・第四】076-4-19 君子之於天下也、無適也、無莫也、義之與比

【里仁・第四】077-4-11 君子懐德、小人懷土、君子懷刑、小人懐惠

【里仁・第四】084-4-18 事父母幾諌、見志不從、又敬不違、勞而不怨

【公冶長・第五】096-5-04 或曰、雍也、仁而不佞

【雍也・第六】129-6-10 冉求曰、非不説子之道、力不足也

【雍也・第六】134-6-15 誰能出不由戸、何莫由斯道也 

【雍也・第六】136-6-17 人之生也直、罔之生也、幸而免
【雍也・第六】138-6-19 中人以上、可以語上也、中人以下、不可以語上也
【雍也・第六】146-6-27 中庸之爲德也

【雍也・第六】147-6-28 子貢曰、如能博施於民、而能済濟衆、何如

【述而・第七】148-7-01 述而不作、信而好古、竊比於我老彭

【述而・第七】153-7-06 子曰、志於道、拠於德

【述而・第七】155-7-08 不憤不啓、不悱不發、擧一偶

【述而・第七】163-7-16 如我數年、五十以學、易可以無大過矣

【述而・第七】164-7-17 子所雅言、詩書執禮

【述而・第七】170-7-23 二三子以我爲隠乎、吾無隠乎爾

【泰伯・第八】201-8-17 學如不及、猶恐失之

【子罕・第九】215-9-10 顔淵喟然歎曰、仰之彌高、鑽之彌堅、瞻之在前

【子罕・第九】228-9-23 法語之言、能無從乎、改之爲貴

【子罕・第九】234&235-9-29&30 可與共學、未可與適道、可與適道

【顔淵・第十二】279-12-01 顔淵問仁、子曰、克己復禮爲仁

【子路・第十三】323-13-21 不得中行而與之、必也狂狷乎

【子路・第十三】324-13-22 南人有言、曰、人而無恆、不可以作巫醫

【子路・第十三】325-13-23 君子和而不同、小人同而不和

【子路・第十三】328-13-26 君子泰而不驕、小人驕而不泰

【憲問・第十四】337-14-05 有德者必有言、有言者不必有德

【憲問・第十四】368-14-36 或曰、以徳報怨、何如

【衛霊公・第十五】381-15-02 賜也、女以予爲多學而識之者與

【衛霊公・第十五】384-15-05 子張問行、子曰、言忠信、行篤敬、雖蠻貊之邦行矣

【衛霊公・第十五】394-15-15 不曰如之何如之何者

【衛霊公・第十五】396-15-17 君子義以爲質、禮以行之、孫以出之、信以成之

【季氏・第十六】429-16-09 生而知之者、上也、學而知之者、次也

【陽貨・第十七】436-17-02 性相近也、習相遠也

【陽貨・第十七】443-17-09 小子、何莫學夫詩、詩可以興

【陽貨・第十七】447-17-13 郷原德之賊也

【陽貨・第十七】459-17-25 唯女子與小人、爲難養也

【堯曰・第二十】499-20-03 不知命、無以爲君子也、不知禮

 

●論語読解の参考になる過去投稿記事

安田登『役に立つ古典』〜古典から何を学ぶか〜

情報洪水の時代をどう生きるか(その6)
顔回をめぐる問いと諸星大二郎『孔子暗黒伝』のこと
書経・商書「生きる方向軸が一つに定まっていれば吉」(「今日の名言・その7」)

問題解決ツールのコレクターになっていませんか?(つぶやき考現学 No.59)

 

 

 

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●2021.9.1~2023.12.31記事タイトル一覧は

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