君子不器(『論語』為政第二の12 No.028)
2024/05/15
今日も昨日に続いて
論語499章1日1章読解から。
この記事が今月8回目の投稿になるんですが、
これまで主に〝学習〟というテーマの
周辺に関連する章句を読んでいます。
・不曰如之何如之何者(『論語』衛霊公第十五の15 No.394)
・學如不及、猶恐失之(『論語』泰伯第八の17 No.201)
・性相近也、習相遠也(『論語』陽貨第十七の02 No.436)
・我未見好仁者惡不仁者(『論語』里仁第四の04 No.072)
・子貢問君子、子曰、先行其言(『論語』為政第二の13 No.029)
・中人以上可以語上也(『論語』雍也第六の19 No.138)
今日は、論語の各章のなかでも
最も短い章句のひとつ
為政第二の12番(通し番号028)を。
(引用ここから)
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【為政・第二】028-2-12
[要旨(大意)]
自分で考え自分で行動する姿勢の大切さを孔子が説いている章。
[白文]
子曰、君子不器。
[訓読文]
子曰ク、君子ハ器ナラズ。
[カナ付き訓読文]
子(し)曰(いわ)ク、君子(くんし)ハ器(き)ナラズ。
[ひらがな素読文]
しいわく、くんしはきならず。
[口語訳文1(逐語訳)]
先生が言われた。「君子は、道具になってはいけない。」
[口語訳文2(従来訳)]
先師がいわれた。――
「君子は機械的な人間であってはならぬ。」(下村湖人『現代訳 論語』)
[口語訳文3(井上の意訳)]
先生(孔子)がこう言われた。「君子は、実利や能力の獲得ばかりに走るようではいけない。」
[井上のコメント]
きわめて短くシンプルながら、含蓄の深さが感じられる章です。「器」とは一つの目的だけに役立つものであり、それを専門家になぞらえた比喩的表現ととらえ、「人間は単一の機能(役割・用途)に限定されたスペシャリストというよりは、幅広い視点(教養)と自由な発想をもって融通無碍に対処でき、社会や情勢を見極められるような有徳のゼネラリストであるべきだ」というのがおおかたの解釈で、それはそれで間違ってはいないようにおもいます。でも、易経の繋辞伝には、「器」を「道」に対比させて使っている例があり、単に能力や役割、地位ということだけでなく、「実利的」「物質的」「合目的的」という広い意味で捉え、「精神的、内面的な深さをもった人間であれ」と解釈してみました。ちなみに、この章で孔子は「器」という言葉を否定的な意味合いで用いていますが、後世では「器」を「ひとかどの人物」として、ポジティブに褒める意味でも使われるようになり、サヌキ性(男性性)優位の社会に変化してきていることが背景として感じられます。
●論語499章1日1章読解 過去の投稿記事一覧
【為政・第二】020-2-04 吾十有五而志乎學、三十而立、四十而不惑
【八佾・第三】063-3-23 子語魯大師樂曰、樂其可知已、始作翕如也
【里仁・第四】073-4-07 人之過也、各於其黨、觀過斯知仁矣
【里仁・第四】076-4-19 君子之於天下也、無適也、無莫也、義之與比
【里仁・第四】077-4-11 君子懐德、小人懷土、君子懷刑、小人懐惠
【里仁・第四】084-4-18 事父母幾諌、見志不從、又敬不違、勞而不怨
【雍也・第六】129-6-10 冉求曰、非不説子之道、力不足也
【雍也・第六】136-6-17 人之生也直、罔之生也、幸而免
【雍也・第六】138-6-19 中人以上、可以語上也、中人以下、不可以語上也
【雍也・第六】146-6-27 中庸之爲德也
【雍也・第六】147-6-28 子貢曰、如能博施於民、而能済濟衆、何如
【述而・第七】148-7-01 述而不作、信而好古、竊比於我老彭
【述而・第七】163-7-16 如我數年、五十以學、易可以無大過矣
【述而・第七】170-7-23 二三子以我爲隠乎、吾無隠乎爾
【子罕・第九】215-9-10 顔淵喟然歎曰、仰之彌高、鑽之彌堅、瞻之在前
【子罕・第九】228-9-23 法語之言、能無從乎、改之爲貴
【子罕・第九】234&235-9-29&30 可與共學、未可與適道、可與適道
【顔淵・第十二】279-12-01 顔淵問仁、子曰、克己復禮爲仁
【子路・第十三】323-13-21 不得中行而與之、必也狂狷乎
【子路・第十三】324-13-22 南人有言、曰、人而無恆、不可以作巫醫
【子路・第十三】325-13-23 君子和而不同、小人同而不和
【子路・第十三】328-13-26 君子泰而不驕、小人驕而不泰
【憲問・第十四】337-14-05 有德者必有言、有言者不必有德
【衛霊公・第十五】381-15-02 賜也、女以予爲多學而識之者與
【衛霊公・第十五】384-15-05 子張問行、子曰、言忠信、行篤敬、雖蠻貊之邦行矣
【衛霊公・第十五】396-15-17 君子義以爲質、禮以行之、孫以出之、信以成之
【季氏・第十六】429-16-09 生而知之者、上也、學而知之者、次也
【陽貨・第十七】443-17-09 小子、何莫學夫詩、詩可以興
【堯曰・第二十】499-20-03 不知命、無以爲君子也、不知禮
●論語読解の参考になる過去投稿記事
・情報洪水の時代をどう生きるか(その6)
・顔回をめぐる問いと諸星大二郎『孔子暗黒伝』のこと
・書経・商書「生きる方向軸が一つに定まっていれば吉」(「今日の名言・その7」)
・問題解決ツールのコレクターになっていませんか?(つぶやき考現学 No.59)
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